『シャーロック・ホームズの栄冠』北原尚彦編訳(創元推理文庫)★★★☆☆

「第I部 王道篇」「一等車の秘密」ロナルド・A・ノックス(The Adventure of the First-Class Carriage,Ronald A. Knox,1947)★★★★☆ ――リューマチで仕事を辞めたヘネシー夫妻は、田舎屋敷の番小屋に住み込み、スウィシンバンク夫妻の世話をすることにな…

『ジャック・オブ・スペード』ジョイス・キャロル・オーツ/栩木玲子訳(河出書房新社)★★★★☆

『Jack of Spades』Joyce Carol Oates,2015年。 ジャック・オブ・スペードというのは、さほど売れない作家アンドリュー・J・ラッシュの別名義のペンネームです。隠された暴力性を披瀝したようなノワールな作風が特徴です。 さてラッシュの隠された暴力性が…

『歌人紫宮透の短くはるかな生涯』高原英理(立東舎 リットーミュージック)★★★☆☆

架空の歌人の代表作三十一首と生涯を振り返った評伝を丸ごと一冊作中作にした長篇小説です。脚註も入っていて本格的なのですが、短歌と評伝のあいだにつながりはほぼありません。著者がことさらに「歌の解釈自体とは別次元のことだが」等と強調するほどに虚…

『福家警部補の再訪』大倉崇裕(創元推理文庫)★★★☆☆

福家警部補シリーズ第二集。第一話の切れ味が一番よかったため、やや尻すぼみな印象でした。「倒叙ミステリ」についての解説者の考察が腑に落ちます。 「マックス号事件」(2006)★★★☆☆ ――豪華客船マックス号の船室内で、原田はかつて恐喝の相棒だった直巳を…

『元年春之祭』陸秋槎/稲村文吾訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ ポケミス1935)★★☆☆☆

『元年春之祭――巫女主義殺人事件』陸秋槎,2016年。 最近は中国ミステリではなく華文ミステリというようです。 麻耶雄嵩と三津田信三に影響を受けた本格ミステリというから期待は高まります。著者は日本在住。あとがきの日付からすると著者あとがきは邦訳版…

『鳥居の密室 世界にただ一人のサンタクロース』島田荘司(新潮社)★☆☆☆☆

京大時代の御手洗が登場する進々堂シリーズの長篇です。 数ある御手洗もの長篇のなかでもぶっちぎりの失敗作でした。 ぼくという語り手が透明すぎて存在感がなく、地の文でも心情をほとんど発することがないため、小説といよりも御手洗の台詞だけが書かれた…

『丘の上 豊島与志雄メランコリー幻想集』豊島与志雄/長山靖生編(彩流社)★★★☆☆

『レ・ミゼラブル』翻訳で有名な著者の作品集です。『文豪怪談傑作選・昭和篇』に二篇が収録されていたので、読んでみました。徹頭徹尾内省的で、ちょっとはずした結末をつける作風は、繊細とうじうじの間の揺れ幅が大きかったです。 「蠱惑――瞑目して坐せる…

『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』文芸第三出版部編(講談社ノベルス)★★☆☆☆

新本格30周年を記念した〈名探偵〉がテーマの書き下ろしアンソロジー。シリーズ探偵を登場させたのは7人中4人。そのうえ真剣に取り組んだ作品というよりもお祭り用のやっつけ仕事が多く期待はずれでした。 「水曜日と金曜日が嫌い――大鏡家殺人事件――」麻耶…

『終点のあの子』柚木麻子(文春文庫)★★★★★

柚木麻子のデビュー連作集。ちょっと悪ノリしすぎのものもある最近の作品とは違い、リアルで地に足の着いた登場人物たちに親しみと共感を覚えます。またシリアスな作品も書いてほしい。 「フォーゲットミー、ノットブルー」(2008)★★★★★ ――一体いつ終わるの…

『連城三紀彦レジェンド 傑作ミステリー集』綾辻行人他編(講談社文庫)★★★★☆

綾辻行人・伊坂幸太郎・小野不由美・米澤穂信それぞれの一押しと、第二第三候補のなかから綾辻・伊坂が相談して決めた二篇を収録。 「依子の日記」(1980)★★★☆☆ ――殺人。私から夫までも奪おうとしているあの女を殺害する以外にもう残された道はない。辻井薫…

『悪女イヴ』ジェイムズ・ハドリー・チェイス/小西宏訳(創元推理文庫)★★★★★

『Eve』James Hadley Chase,1945年。 悪女ものには最低限ふたつの要素が必要でしょう。男を絡め取る魅力のあるファム・ファタールと、絡め取られるに相応しい弱みを持っている男です。 この『悪女イヴ』では悪女の魅力よりもとりわけ語り手クライヴ・サース…

『IQ』ジョー・イデ/熊谷千寿訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

『IQ』Joe Ide,2016年。 IQと呼ばれる黒人青年。彼が探偵として活躍する2013年のパートと、17歳だった2005年のパートから成るミステリです。 幼女誘拐犯視点のプロローグから、この犯人を追うシリアルキラーものだと思ったのは早計でした。ボートで逃げる…

『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ 奇巌城』(3)~(5)森田崇(小学館クリエイティブ ヒーローズ・コミックス)★★★★☆

奇巌城。原作を何度読んでも面白さがわからなかったのですが、もう一度チャレンジしました。 結構面白かったです。 初期ボートルレのこまっしゃくれたところには目をつぶりました。ボートルレへの脅迫と殺人未遂は部下の勇み足ということでいいでしょう。中…

『さらば、シェヘラザード』ドナルド・E・ウェストレイク/矢口誠訳(国書刊行会〈ドーキー・アーカイヴ〉)★★★☆☆

『Adios, Scheherazade』Donald E. Westlake,1970年。 スランプに陥ったポルノ作家が、とにかく文章を打とうとして妄想や悩みや雑感を書きつづるという、基本的にはおバカな話です。『さらば、オマ×コ野郎』というタイトルでは編集者の許可が下りないだろう…

『ミステリーズ!』2020年DEC vol.104

「桑港クッキーの謎」米澤穂信 ★★★☆☆ ――事の始まりは新聞だ。その次の次の次くらいがクッキーだった。この街出身の美術家縞大我がサンフランシスコ・ビエンナーレの黒熊賞を受賞したそうだ。それからもぼくは縞大我の名前に遭遇することになった。名前を出し…

『S-Fマガジン』2021年2月特別増大号No.743【百合特集2021】

特別増大号と銘打たれてページ数も増え値段もいつもより高いのですが、特に追悼特集や緊急特集や新年特集があったわけではなく、何のための増大号なのかわかりませんでした。「回樹」斜線堂有紀 ★★★☆☆ ――「尋常寺律さん。あなたには恋人である千見寺初露さん…

『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』ジュール・ヴェルヌ/大矢タカヤス(彩流社)★★★★☆

『Famille-Sans-Nom』Jules Verne,1889年。 ここ数年つづいているヴェルヌの新訳・初訳・復刊もののなかでは段違いに面白い作品でした。明治時代に森田思軒『無名氏』という抄訳がありますが、恐らく完訳は初めてだと思います。 副題にあるとおり、カナダの…

『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』中村融編(創元推理文庫)★★★★☆

奇妙な味を中心としたアンソロジー第2団。『街角の書店』以上に「理屈では割り切れない余韻を残す」作品を重視したとのこと。 「麻酔」クリストファー・ファウラー/鴻巣友季子訳(On Edge,Christopher Fowler,1992)★★★☆☆ ――ナッツを噛んで歯が砕けてしま…

『盲目の理髪師』ジョン・ディクスン・カー/三角和代訳(創元推理文庫)★☆☆☆☆

『The Blind Barber』John Dickson Carr,1934年。 新訳を機に読み返してみましたが、やはりしんどかったです。新訳のおかげで笑いどころがわかりやすくなっていることを期待していたのですが、台詞が新しく軽くなったせいで空々しさが際立つ結果になってい…

『耳瓔珞 女心についての十篇』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★★

安野モヨコ選画シリーズ第2弾。なぜか初出の記載がなくなってしまいました。 「桃のある風景」岡本かの子(1937)★★★★☆ ――肉体的とも精神的とも言い難いあこがれが、しっきりなしに自分に渇きを覚えさせた。「蝙蝠傘を出して下さい。河を渡って桃を見に行く…

『葬式組曲』天祢涼(双葉文庫)★★★☆☆

政府により葬式が禁じられ、直葬が当たり前になった世界で、唯一葬式の伝統が残された県で葬儀社が執りおこなう葬儀の顛末を描いた連作ミステリです。 デビュー作の『キョウカンカク』が素晴らしかっただけに、著者には過度な期待を持ってしまいます。それで…

『粘土の犬 仁木悦子傑作短篇集』仁木悦子(中公文庫)★★☆☆☆

なぜか中公文庫から日下三蔵編のミステリ短篇集がいろいろと出ています。第一短編集『粘土の犬』と第二短篇集『赤い痕』の合本。 「かあちゃんは犯人じゃない」(1958)★★☆☆☆ ――とうちゃんが昼寝している間に、昨日どなっていたシャボンを見つけ、ズボンのポ…

『ペンギンは空を見上げる』八重野統摩(東京創元社 ミステリ・フロンティア)★★★★☆

とてもいびつなのに実は隅々まで計算され尽くした作品でした。 主人公は宇宙に憧れているのに宇宙飛行士ではなくエンジニアを目指しています。確かに考え方としてはありかもしれませんが小学生の発想とは思えません。 過去に何かあったらしいとはいえ、同級…

『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』D・H・ウィルソン&J・J・アダムズ編(創元SF文庫)★★★☆☆

『Press Start to Play』Ed. by Daniel H. Wilson and John Joseph Adams,2015。 原書収録の26編から12編を厳選したもの。 「リスポーン」桜坂洋(2015)★★★★☆ ――おれが牛丼屋でバイトをしていると、強盗が現れた。大男の客が正義感を起こした。怯えた強盗…

『鳥の巣』シャーリイ・ジャクスン/北川依子訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★★☆

『The Bird's Nest』Shirley Jackson,1954。 2016年に『日時計』『処刑人(絞首人)』と立て続けに未訳長篇が翻訳されたジャクスンの、これまた未訳だった長篇作品とあって読む前から否が応でも期待は高まりますが、期待に違わず一行目から面白い。 「博物…

『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』マイクル・ビショップ/小野田和子訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★★☆

『Who Made Stevie Crye? : An Novel of the American South』Michael Bishop,1984,2014。 作家の使っているタイプライターが勝手に動き始める……モダン・ホラーのパロディというだけあって、なるほど確かにどこかで見たことのあるような内容です。 エッセイ…

『幻想と怪奇』4【吸血鬼の系譜 スラヴの不死者から夜の貴族へ】(新紀元社)

このタイミングで吸血鬼をテーマにしたのは別に『鬼滅の刃』にあやかったわけではなく、たまたまのようです。「A Map of Nowhere 04:ネルダ「吸血鬼」のプリンキポ島」藤原ヨウコウ 河出文庫『東欧怪談集』に邦訳のあるヤン・ネルダ「吸血鬼」より。 「パル…

『鬼滅の刃』23、「ハコヅメ143」&表紙&著者インタビュー

『鬼滅の刃』(23)吾峠呼世晴(集英社ジャンプ・コミックス) 最終巻。バトル描写で魅せる漫画ではないのに、全員が協力して代わる代わる休むことなく攻撃を続けて最後まで突っ切ったのが爽快でした。本当の意味で全員でボスを倒す漫画って意外と少ないよう…

『奇想天外 21世紀版 アンソロジー』山口雅也編著(南雲堂)★★☆☆☆

自分好みの雑誌を作りあげるのは編者の特権ですが、自分語りが頻繁に顔を出すのは勘弁してほしかったところです。 「21世紀版奇想天外小説傑作選[海外篇]」「最上階に潜むもの」アーサー・モリスン/宮脇孝雄訳(The Thing in the Upper Room,Arthur Morr…

『春や春』森谷明子(光文社文庫)★★★☆☆

俳句甲子園に出場する高校生を、章ごとに視点人物を変えて描いた作品で、文学少女や書道経験者に楽器演奏者といった個性的なメンバーがそれぞれの持ち味を活かしてチャレンジするのですが、せっかくの個性がさほど生かされていないように感じました。でもあ…


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