『望月のあと 覚書源氏物語『若菜』』森谷明子(東京創元社)★★★★☆

前作から数か月での刊行ですが、あとがきによると元々は宇治十帖を第二作に考えていたところを、編集者の助言により間の数十帖を先に書くことになったという事情があったそうです。ということはつまり、少なくとも第四作、もしかすると第五作までは期待でき…

『白の祝宴 逸文紫式部日記』森谷明子(東京創元社)★★★★☆

『千年の黙 異本源氏物語』の続編登場です。 開巻はやばや描かれるのは、『紫日記』を書写している少女の姿。著名な日記のなかに、何代も前のおばあさんの名前を見つけて、少女は感激に身を震わせます。 何となくわかるその気持ち。 遠い平安の世界をこうし…

『黄表紙・川柳・狂歌 日本古典文学全集』

「金々先生栄花夢」恋川春町作・絵 餅ができるのを待って寝込んでいるうちに見た邯鄲の夢。有名な話だけれど、改めて読むとストーリー自体はどうってことない。「うっちゃっておけ、煤掃に出よう(放っておけ、大掃除のころには出てくるだろう)」など、当時…

『英草紙/西山物語/雨月物語/春雨物語 日本古典文学全集48』真加村幸彦他校注(小学館)

『英草紙』 『西山物語』 古語の理解の助けとすべく、古語をまぶして書かれた異色作。現実の妹殺し事件を題材に、因果をからめていかにも読本らしく伝奇小説っぽく仕上げられています。 親の許さぬ恋にいつまでもこだわる妹を、兄が斬り殺したという事件。そ…

『こんな本があった! 江戸珍奇本の世界』塩村耕(家の光協会)★★★★☆

サブタイトルに「古典籍の宝庫岩瀬文庫より」とあるように、岩瀬文庫所蔵の古典籍が紹介されている本です。 古典籍についての簡単な解説付。忍者が巻物をくわえている理由から始まる、読みやすくて親切な解説です。 紹介されている本が影印でも翻刻でも刊行…

『古今和歌集 日本古典文学全集7』小沢正夫校注(小学館)

7「心ざし深くそめてし折りければ消えあへぬ雪の花と見ゆらむ」 9「霞たち木の葉もはるの雪降れば花なき里も花ぞ散りける」貫之 24「ときはなる松の緑も春くればいまひとしほの笹まさりけり」源宗于 28百千鳥、29呼子鳥、208稲負鳥 31「はるがすみ立つを見す…

『連歌俳諧集 日本古典文学全集32』金子金治郎他・注解(小学館)

無知なので、連歌というと、単に五七のリズムで作るリレー長歌のようなものだと思っていました。一句一句は独立していて、なおかつ句と句のつながり方にも細かいルールがあったり、けっこう構築性の高い技芸でした。 たとえば(これは連歌ではなく俳諧ですが…

『萬葉集(二) 日本古典文学全集3』(小学館)

807「現には逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ」 頭注によると、「夢にを」の「を」は「意志や命令を表わす内容の文の連用格の下に置かれる間投助詞」とあります。それってつまり、「ぬばたまの夜の夢にOh!継ぎて見えこそ」ということ……で…

『洒落本・滑稽本・人情本 日本古典文学全集47』中野三敏他校注(小学館)

「傾城買四十八手」(山東京伝)は、まるで杉浦日向子の漫画のよう(それはあべこべなんだけど)。遊女と客の「うそや」「きたらどふしなさる」「じつかへ」「しれた事サ」なんてやり取りを読んでいると、杉浦さんの絵が目に浮かびます。 「浮世床」(式亭三…

『松尾芭蕉集 日本古典文学全集41』井本農一他校注・訳(小学館)

この巻はかなり独特でした。 まずは月報が「俳句」論になっている点。 もう一つは、発句編の本文が「校注・訳」を遙かに逸脱して「鑑賞」になっている点。 良くも悪くも「古典文学作品」ではなく「俳句作品」として捉えられているのでしょう。 おそらく俳句…

『日本霊異記 日本古典文学全集6』中田祝夫/校注・訳(小学館)

仏教説話ということで読まず嫌いしていましたが、初めの三話くらいはあんまり説教臭くありませんでした。でもそのあとは案の定仏教臭の強い話が続く。しかもお経を読んでいたから助かった、というワンパターンが多い。 月報の大野晋くらい読めると面白いんだ…

『竹取物語/伊勢物語/大和物語/平中物語 日本古典文学全集8』片桐洋一ほか校注・訳(小学館)

『竹取物語』 日本独自に成立したものではなく、アジアの説話と何らかの影響関係があったのではないか――というのが、新見解として月報に記されているところに時代を感じます。別に戦前とかじゃなく三十年ちょい前の出版なのに。こうしてみると、国文学研究っ…

『井原西鶴集(2) 日本古典文学全集39』宗政五十緒他校注・訳(小学館)

『西鶴諸国ばなし』『本朝二十不孝』『男色大鑑』を収録。『西鶴諸国ばなし』はタイトルからもうかがえるように、諸国の説話集。 「公事は破らずに勝つ」★★★☆☆ ――太鼓の貸し出しを渋った東大寺に対し、興福寺が仕返しをしたところ……。 いかにも日本的な責任…

『近松門左衛門集(二) 日本古典文学全集44』鳥越文蔵校注・訳(小学館)

有名なのだけ読んだ。 「冥途の飛脚」 ――一度は思案、二度は無思案、三度飛脚、戻れば合せてろくだうの、冥途の飛脚と これはまた文学史上でも上位に食い込む駄目人間ではなかろうか。忠兵衛と梅川が死ぬなら勝手に死んでくれればまだしもなのだが、また方々…

『東海道中膝栗毛 日本古典文学全集49』中村幸彦校注(小学館)

もっと笑いの連続かと思っていたのだけれど、意外とおとなしかった。失敗とか悪戯の連続というより、川柳なんかに通じる諧謔の笑いとでもいうのか、ぐだぐだの道中を洒落のめしている内容でした。もっとドリフ(?)っぽいドタバタ喜劇を予想していたので拍…

『萬葉集(一) 日本古典文学全集2』小島憲之他校注(小学館)

読みながら気に入った歌や気になった歌をチェックしていたのだけれど、あとで読み返してみると、どこが気になったのか自分でも思い出せない歌もいくつかあった。しょうがないけど取りあえずメモ。 8「熟田津に舟乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出で…

『義経記 日本古典文学全集31』梶原正昭校注・訳(小学館)

先日読んだ『平家物語』と比べて、義経一行に焦点が絞られている分、一人一人キャラクターが立っていて読みやすかった。 なかでも弁慶がやたらとかわいい人で面白すぎます。強力で学識豊かで負けず嫌い。そんな川くらい飛び越えてやると言って、向こう岸の岩…

『平家物語(一・二) 日本古典文学全集29・30』市古貞次校注・訳(小学館)

岩波の旧大系と比べて、小学館の旧全集は古本屋でごろごろと見つかります。帯に「2000万家庭におくる」だなんて書かれてあるところを見ると、あるいは全集ブームのころに飛ぶように売れたのかもしれません。 一巻の途中までが平家の横暴、あとは没落の一途を…

『続百物語怪談集成 叢書江戸文庫27』太刀川清校訂(国書刊行会)★★★★☆

品切れだったのが復活したので、重版がかかったのかと思ったらそうでもないらしい。奥付を「初版」のまま変えずに刷ったのか、どこかに仕舞ってあったのを蔵出ししたのか。『古今百物語評判』 これは識者のところに集まってみんなで怪談話をして、それを先生…

『奇想の江戸挿絵』辻惟雄(集英社新書ヴィジュアル版)★★★★★

まずは表紙のイラストをご覧ください。 北斎の手になる読本の挿絵なのですが、初めてこの絵を見た方の多くは、帯に書かれた横尾忠則という名前にも引きずられて、これは現代のデザイナーが北斎の絵を元にコラージュしたものに違いない、と思うのではないでし…

『ひらがな日本美術史7』橋本治(新潮社)★★★☆☆

ついに完結!なのだが、どうも今までのと比べると面白くない。原因はわたしがこの時代の美術をあまり好きではない、という一点に尽きるのだろうけれど。 井上安治の回やアール・デコの回などはナルホド!と思ったりもしたものだが、黒田清輝とか梅原龍三郎な…

『動物妖怪譚』(下)日野巌(中公文庫BIBLIO異の世界)★★★☆☆

上巻で扱われていたのは完全に想像上の動物だったけれど、下巻になると「狐」とか「猫」とか、現実にも存在する動物が扱われている。けれどやはり著者は植物学の専門家なのだろう、あまり切れ味はよくない。 海蛇はそんなに大きくないから「わに」は海蛇では…

『動物妖怪譚』(上)日野巌(中公文庫BIBLIO異の世界)★★★★☆

『植物怪異伝説新考』と同じ作者だったので、漠然と〈動物編〉なんだろうくらいに思っていたのだけれど、実際のところはかなり違う。『植物怪異伝説“新考”』というくらいだからあちらは研究書なのだが、こちらはあくまで『動物妖怪“譚”』。動物妖怪が登場す…

『國文學』2007年3月第52巻第3号【特集 月光】★★★☆☆

『國文學』といい『国文学 解釈と鑑賞』といい、大学時代にOPACで調べて散々コピーして……というしんどい印象しかなかったのだが、幻妖ブックブログで紹介されていたので久々に手に取る。というか買ったのは初めてだ。「月の光の魅力――写真を通して見える…

『イリアス トロイアで戦った英雄たちの物語』アレッサンドロ・バリッコ(白水社)★★★★★

アカイアの王アガメムノンが、トロイアの神官クリュセスの娘クリュセイスを奪ったせいで、アカイア軍はクリュセスの呪詛を受け窮地に立たされた。アカイア一の英雄アキレウスが、クリュセイスを返還するよう進言すると、アガメムノンは受け入れる代わりにア…

「放屁論」風來山人(平賀源内)

もともと古典は好きなのだけれど、最近は江戸に凝ってます。てなわけで風來先生。これはマジなのか最後まで洒落なのか。終わってみれば社会批判になっちゃうところがすごい。 「ニンジン飲み込み喉を詰まらす間抜けがいれば、ふぐ鍋食べて長生きをする男もい…


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