『魔法使いとリリス』シャロン・シン/中野善夫訳(ハヤカワ文庫FT) 『The Shape-Changer's Wife』Sharon Shinn,1995年。 プラチナ・ファンタジイの一冊――といっても、帯に〈プラチナ・ファンタジイ〉と書かれているだけで、何がどうプラチナなのかはよ…
副題どおり伊藤典夫がSFマガジンに訳載した作品から選ばれた作品集ですが、さすがに内容が古くさ過ぎるのは否めません。「ボロゴーヴはミムジイ」ルイス・パジェット(Mimsy were the Borogoves,Lewis Padgett,1943)★★★☆☆ ――未来の科学者の実験によって…
『The Door into Summer』Robert A. Heinlein,1956年。 彼女にふられて冷凍睡眠に入る。飲食店に猫を連れ込んで悪びれない。子どもっぽいというか何というか、絵に描いたような自分大好き人間です。さて、冒頭でこんなしょーもない人間に描かれた主人公が、…
『Our lady of Darkness』Fritz Leiber,1977年。 クラーク・アシュトン・スミスの遺した日記がきっかけとなって、スミスにかけられた呪いに怪奇作家が巻き込まれるという、かなりバカバカしいお話。 都市と建造物を利用した魔方陣というアイデアが、本書を…
『Do Androids Dream of Electric Sheep?』Philip K. Dick,1968年。 死の灰の影響で生身の生物が多く死に絶えたため手厚く保護されている世界で、アンドロイドを破壊する賞金稼ぎが主人公です。 精巧なアンドロイド(あるいはロボット)を人間と見分けるこ…
SFマガジン2014年3月号のインタビューで、フィニイや異色作家短篇集が好きと答えていたうえに、初期ファンタジーノベル大賞を思わせる幻想小説とインタビュアーが言っていたので読んでみましたが……。 幻想小説というか、オカルト小説ですね。それも自己啓…
『Kraken』China Miéville,2010年。 『都市と都市』も冗談のような設定の作品でしたが、本書もそれに輪をかけたようなおふざけじみた設定でした。ダイオウイカを神と崇める教団に、カルト犯罪対策課、使い魔のストライキ、口を利くタトゥー、残虐な男と無口…
『リライト』 『時をかける少女』を下敷きに、タイムパラドックスの謎に迫る。本歌があるうえに同じ場面の繰り返しなのに、読ませる。 辻褄が合えばリライトできるってこと? 肝心なところだと思うのですが、そこらへんの理屈がよくわかりません。 過去は変…
装画が『ひとりぼっちの地球侵略』の小川麻衣子。カバーイラストだけではなく、各章の扉イラストも。 超訳『十八時の音楽浴』はつまらなかったし、SFマガジンのインタビューで各方面に向かって「読まない方が良いです」とわざわざ言っているので、迷ったの…
『Boneshaker』Cherie Priest,2009年。 祖父と父の汚名をそそぎたい――。 これだけ聞くといかにも青春小説っぽいのに、実は父の犯した罪というのが、金脈を掘るための発明品で町中を破壊し、ゾンビガスを掘り起こしてしまった……という出来事なのでした。 西…
『The City & the City』China Miévile,2009年。 互いに隣接する――というよりは同一地区に共存している二つの国がありながら、政治的な事情によって二国民は互いの存在を「見ない」ようにしなければならない……。 まるで冗談のような設定の世界で一つの殺人…
同題アンソロジーの改訂新版というよりは、まったく別のアンソロジーです。旧版とかぶっているのは二篇だけ。 入門書と銘打っておきながら、著者や作品についてのデータや、作品解説・解題が一切ありません。営業的なことを考えたら副題に「SFマガジン・ベス…
「四角い墓場」映画化に合わせて「リアル・スティール」と改題のうえ、新たにほかの短篇を加えたものだそうです。B級集かな。初めて読むのなら『運命のボタン』の方をおすすめします。「リアル・スティール」尾之上浩司訳(Steel,1956) 上述の理由でわり…
『Looking for Jake』China Miéville、2005年。「ジェイクをさがして」(Looking for Jake,1998)★★★★★ ――ぼくは今、この危険な街を見渡している。風に乗って、わけのわからないささやき声のようなものが聞こえてくる。すぐそばで、やつらがねぐらにいるん…
「運命のボタン」伊藤典夫訳(Button, Button,1970)★★★★☆ ――ボタンをお押しになりますと、世界のどこかで、あなたがたのご存じない方が死ぬことになります。その見返りとして、あなたがたには五万ドルが支払われます。 小さな木箱に押しボタンが取り付けら…
てっきり『宇宙創世記ロボットの旅』みたいなボケボケSFかと思っていたら、けっこうハードな内容も混じっており、ありがたいことです。 第7回や第11回などは、理屈の運び方としては『宇宙飛行士ピルクス物語』に近い。問題に直面したヨンが、いかにしてそ…
ヴァンスの長篇は『竜を駆る騎士』に続いて二冊目。途中まではまたもスペース・オペラというか対戦もの風でしたが、むしろ地球に還って来てから珍妙な展開になり始めます。長々と議論したあげく、「素手」で「ひげ」を引きちぎってやっつけたり、隣にいる人…
『OPOWIEŚCI O PILOCIE PIRXIE』Stanisław Lem,1971年。 端正なというか正統的なというか、派手なところはないけれど読みごたえのあるハードSF。ニヤニヤしたり手に汗握ったりと、物語的にも面白い。「テスト」 宇宙飛行士候補生ピルクスの、初めての訓練…
『Tiger! Tiger!』Alfred Bester,1956年。 解説に引用された文章のなかで、デーモン・ナイトが「小説六冊分ものすばらしいアイデア」と述べているけれど、まさにそのとおりで、『モンテ・クリスト伯』みたいな一大復讐譚だと思っていたのに、いきなり帰還…
『Cyberiada』Stanislaw Lem,1967年。 ああ……純然たるユーモアSFだったんだ。もっとハードSF的なひねりの利いた落ちを期待していたのでちょっとがっかり。とはいえ一篇目で軌道修正して読み始めればすこぶる面白い。 現実とは正反対のことを言うだけの…
『Untouched by Human Hands』Robert Sheckley,1954年。「怪物」(The Monsters)★★★★☆ ――コードヴァーとハムは、珍妙な物体に目をこらした。「おりていって、ちかくで見てみるか?」「そうだな……いや、まずい! 今日は女房を殺してこなきゃ」 人間と宇宙人…
『Singleton and Other Stories』Greg Egan。カバーイラスト田中光。 短篇4篇に中篇3編を収録。どれも“永遠の愛って?”とか“自分とは何か?”とかいう、ごく素朴な疑問を、極めて詳細に論理的に考察しているんだけれど、結末が驚くくらいに当たり前で拍子抜…
『The Dragon Masters』Jack Vance。 ジャック・ヴァンスというと、「五つの月が昇るとき」や「月の蛾」など、異世界ということばすら追いつかないようなへんちくりんな世界を描いた作家として記憶に残っていた。しかし本書である。『竜を駆る種族』というタ…
『NIEZWYCIEZONY』Stanislaw Lem,1964年。 遭難したコンドル号を捜索するため、無敵号はレギス第三惑星に到着した。そこは奇妙な惑星だった。大気には酸素がある。だが、海に魚はいるのに陸には植物すら見あたらなかった。都市の廃墟のようなものは見つかっ…
ホーティ少年は胸のむかつくような行為の現場を目撃され、こっぴどく叱られた。継父のアーマンドがホーティを衣装戸棚に押し込んとき、少年の指が蝶番に挟まった。ホーティはびっくり箱のジャンキーとともに逃げ、アーマンドは肝に銘じた――指のない男に注意…