『やまびと えほん遠野物語』柳田國男原作/京極夏彦文/中川学絵(汐文社)★★★★☆

 京極夏彦による遠野物語えほんシリーズですが、中川学のファンなので、そちら目当てで読みました。遠野物語の第三段と第七段が絵本化されています。

 まずは第三段・山女の話です。文章には書かれていませんが、当然ながら猟犬も一緒なんだな、と気づかされます。そして腰には獲物も提げられていました。京極夏彦らしい、ページめくりを意識した文章も効果的です。しかし何と言っても圧巻は、やまおとこの登場シーンでしょう。山男は月よりも高いというのか、それとも月のように見えるものは爛々と光る目なのか、現実の風景ではありえないものを描くことで夢幻とも現実ともわからない山男の恐ろしいスケールの大きさが感じられます。

 第七段。第三段でもそうでしたが、「驚くほど色が白い」と書かれていながら描かれた肌は黄色いのでした。この第七段でも、山男の「瞳の色が違っていて」と書かれながら、描かれているさらわれた娘の瞳が青いのには、戦慄しました。何かが、価値観が、現実の世界とは変わってしまっています。

 ほかの画家さんが描いているシリーズのほかの作品「まよいが」「かっぱ」「ざしきわらし」にも興味が出てきました。
 

  

『図書館の魔女』3・4 高田大介(講談社文庫)★★★★★

 禁書についての議論、戦争回避のための外交戦略、狙われるマツリカ、外交本番……いよいよ興に乗って第三巻は留まるところを知りません。

 禁書についてのくだりでは知的好奇心を刺激され、この世界を形作る壮大な絵図を改めて実感しました。マツリカを狙う刺客の手口はいかにもこの世界らしいものであるうえに、無骨な暗殺などではなく絵的にも見応えのあるものでした。外交本番では、キリンが大活躍するほか、扁額をめぐるマツリカの鮮やかな推理と、明らかになる国家の秘密、そしてキリヒトが図書館に招かれた時点まで遡ってすべてが一つにまとまろうとしています。

 そしていよいよ第四巻。てっきり第三巻で明らかになった国家の秘密と行方不明者のことが中心になるかと思っていたのですが、見せ場を作っていたのはまたもやキリンでした。第三巻はいわば序盤戦。アルデシュの代表団を相手に、熱弁をふるう姿には、ほれぼれとしてしまいます。第一巻の探検で発見していた謎の装置も、ようやくその全貌が明らかになりました。ピンチを有利な交渉の材料に変えてしまうマツリカの機知には相変わらず舌を巻きます。

 そして第四巻後半。ここからは、ある意味で長いまとめでした。マツリカの左腕を元に戻すため傀儡師の許を目指す一同。そこに待ち受けていたのは、ニザマ宦官たちの送り出した想像を絶する悪夢のような刺客でした。何だかわからないものとの気の遠くなるような死闘に手に汗握らされるだけでなく、ここにきて小さな伏線がちょこちょこ活きてくることに読んでいてわくわくしていました。

 そうしてすべて終わったかに見えたあとにも、まだまだドラマが待ち受けていました。信頼、人との関わり、別れ。

 言葉に彩られた物語に相応しく、最後には二つの名前で幕を閉じます。すべての登場人物たちの、この後の物語を読む日が待ち遠しいです。

 深刻な麦の不作に苦しむアルデシュは、背後に接する大国ニザマに嗾けられ、今まさに一ノ谷に戦端を開こうとしていた。高い塔のマツリカは、アルデシュの穀倉を回復する奇策を見出し、戦争を回避せんとする。しかし、敵は彼女の“言葉”を封じるため、利き腕の左手を狙う。キリヒトはマツリカの“言葉”を守れるのか?(第3巻カバーあらすじ)
 

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『ガソリン生活』伊坂幸太郎(朝日文庫)★★★★☆

 本書ではなんと自家用車が語り手を務めます。

 とうぜん視点に限りがあるので、情報は断片的にしか伝わってこない――かと思いきや、車には車のネットワークがあるらしく、自動車間の噂話を主に駐車場で仕入れており、むしろある部分では人間よりも情報通だったりしました。

 事件とは直接には関係のないところでも、『激突!』や『クリスティーン』といった映画が自動車間では実際にあったことのように都市伝説として語られていたりと、自動車たちの情報網は独特です。

 二輪車とは言葉が通じなかったり、列車は尊敬の的だったり、自動車界には自動車界の決まり事もあるようです。

 カラスと喧嘩する近所のおばさんのキャラが濃く、愛すべき人なのですが、単なる面白キャラではなく、ちゃんと喧嘩のエピソードが最後になって活かされていました。

 エピローグにはほろりとさせられました。

 文庫カバー裏には書き下ろし掌篇「ガソリンスタンド」が印刷されています。

 のんきな兄・良夫と聡明な弟・亨がドライブ中に乗せた女優が翌日急死!パパラッチ、いじめ、恐喝など一家は更なる謎に巻き込まれ……!? 車同士がおしゃべりする唯一無二の世界で繰り広げられる、仲良し家族の冒険譚!愛すべきオフビート長編ミステリー。(カバーあらすじ)
 

  

『ナイトランド・クォータリー』vol.19【架空幻想都市】

 1年ごとの定期購読を継続していた『ナイトランド』ですが、編集長も変わって新体制になり、いよいよわたしの好みとは離れて来てしまいました。もともとクトゥルー色が強かったので趣味に合わないものも多く、新紹介作家のなかから思わぬ拾いものに遭遇するのが楽しみだったのですが、本号に関しては垂野創一郎インタビューくらいしか見るべきものがないという現状でした。

「梵寿綱インタビュー」
 独りよがり。

垂野創一郎インタビュー」

カルカッソンヌロード・ダンセイニ/和爾桃子訳

カルカッソンヌウィリアム・フォークナー岡和田晃

「ヴィリコニウムの騎士」M・ジョン・ハリスン/大和田始

「青碧の都」フランク・オーウェン/渡辺健一郎訳

「いかにしてアドラズーンの都は審判の日を迎えたのか」リン・カーター/岡和田晃

「暗夜庭苑」マーク・サミュエルズ/徳岡正肇訳

「罅穴と夜想曲」ウィリアム・ミークル/待兼音二郎

「そして彼女の眼の中で、都市は水没し」カイラ・リー・ウォード/大和田始
 昨年度ブラム・ストーカー賞候補作。
 

  

「どク」中田祐樹、『ハコヅメ』10、「青頭巾」相田裕

アフタヌーン』2020年1月号(講談社

おおきく振りかぶって」158「はじまりの冬 2」ひぐちアサ
 ふたたび理論編。連載だと試合は流れがぶつ切れてしまうので、理論編の方が面白く感じます。
 

ヴィンランド・サガ」167「西方航路1」幸村誠
 ようやくタイトルにもなっているヴィンランド行きの計画段階に入りました。
 

「ワンダンス」11「初コンテスト 後編」珈琲
 初てのコンテストでしたが、すでにどんどん欲が出てきたようです。
 

「スキップとローファー」16「トロトロの帰省」高松美咲
 志摩くんは扉と回想の一コマだけ。みつみ、地元に凱旋(?)です。天然のイメージの強いみつみが地元の友だちと普通に会話しているのを見ると、やっぱり同じ友だちとは言っても幼なじみと高校の友だちとでは違うんだなあと実感できます。こういう細かい描き分けが魅力の一つなのでしょう。
 

「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」67「反逆者の帰還」草水敏/恵三朗
 アミノ製薬に戻って来たものの裏切者扱いされて煙たがられている火箱に、JS1開発者に関する衝撃の情報が飛び込んできます。そして「ふたたび反逆へ」。恵氏がいつだったかの鼎談で「ハル編」について話していましたが、今回の話もあれだけの出来だった「未来は始まっている編」を軽々と超えてしまいそうな導入でした。
 

「どク」中田祐樹
 ――母親の言うとおりにすることに慣れてしまい、自由に何かをすることが出来ず受験にも失敗した。リストカット痕を見られた同級生の男子は、女装してお金を稼いでいた。

 2019年四季賞秋、萩尾望都特別賞受賞作。いかにもというような訳あり同士なのですが、本人も著者も自分に酔っていないからでしょうか、とても新鮮で好感が持てる作品でした。何の意味もないように見えても、コミュニケーションだったり藻掻いたりすることは大事なのでしょう。どこに向かっているのかわからないまま、気づけば将来の夢を見つけられていました。
 

『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(10)泰三子(講談社モーニングKC)
 
 宮原部長はいつも正論で、勉強になります。そして大豊作の年、四人目がいよいよ登場するのが特別編「同期の桜1」。四人目は劣等生だったんですね。三人の髪が長い理由もわかりました。藤部長のパワハラや、初登場シーンで持っていたダンボールの意味は、次の11巻で明らかになるようです。
 

『青頭巾』相田裕(JEWEL BOX)
 『ガンスリンガーガール』『イチゴーイチハチ』の著者による同人誌。殺生石で出来た刀に心を喰わせることで鬼を殺してきた青頭巾。青頭巾のシノは、師匠や村人の仇を討つため、伝説の青頭巾・春安に弟子入りを志願する……。真っ直ぐな若者の気持が、すべてを失った達人の気持を甦らせるという内容で、イントロダクションだけで終わってしまったような物足りなさも感じました。
 

   


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