『おはしさま 連鎖する怪談』三津田信三・薛西斯・夜透紫・瀟湘神・陳浩基/玉田誠訳(光文社)
『筷:怪談競演奇物語』2020年。
台湾の出版社の企画による、台湾・香港・日本の作家による「箸」がテーマのホラーミステリ競作集――のはずなのですが、あとがきには「リレー小説」ともあるので第一章から順番に読むべきか悩んだのですが、結果的にはどれも読む必要のないほどひどい作品ばかりでした。肝心の「おはしさま」の呪いがつまらないので、それに引っ張られてどれもつまらなくなっています。恐らくは前章の設定を取り込んだために、後になるほど長くなっていますが、そのせいでどれもだらだらしていました。
「第一章 おはしさま」三津田信三
「第二章 珊瑚の骨」薛西斯《クセルクセス》(珊瑚之骨,薛西斯)☆☆☆☆☆
――私の友人の実家で二人が亡くなるという不幸があり、その災難を魚さんという道士がおさめてしまったと聞き、魚さんこそ自分が探し求めていたひとだと確信した。「ある箸に関することなんです――」中学時代、好きな人の箸をすり替えるというおまじないに夢中になっていた友達から試してみるよう言われて、ある男子のことが思い浮かびました。何でも彼の家では得体の知れないものを祀っているそうです。彼は珊瑚の箸をネックレスにして吊るしていました。先祖代々その箸には『王仙君』という神様が宿っていると信じてきたといいます。彼の両親が離婚で揉めている時、チェーンで繫がれた箸が一本だけなくなり、おばあちゃんは王仙君が母親に警告したんだと言ったそうです。
台湾の作家。道士に何かを相談しに来たらしい語り手がなかなか本題に入らず情報も小出しにするので、道士ならずとも「あなたはいったい僕に何をしてもらいたいのか」と言いたくなってきます。もともと不自然でまどろっこしかったそうした語りが、いろいろ心理的な理由はあるのでしょうが、結局のところは【道士=中学時代の彼】であることを読者に気づかせないためという作者の都合でしかありません。とにかく長くて無駄な内容で、大人になっても中二病なのにはうんざりでした。人骨というのが怖がるポイントなのでしょうか? 語り手のあだ名「六兩一」はおそらく「リィウリィアンイー」と読ませたいのでしょうが、ルビはすべて大書きになってしまうので「リイウリイアンイー」という意味不明な表記になってしまっていたのも読みづらかったです。
「第三章 呪網の魚」夜透紫《やとう・し》(咒網之魚,夜透紫)★☆☆☆☆
――呪いなんてあるわけがない。ネットでチャンネル配信をしていた龔霆聰(阿聰)、林麗娜、李一志、葉思婕の四人は、それをネット民に知らしめるために、『鬼新娘』の都市伝説を作りあげた。新娘潭に白米を盛った茶碗をおき、そこに呪いたい人の名を記した一揃いの箸を立てておくと、鬼新娘がその人の魂を地獄に引きずり込み、祝宴をひらく。アンチから送られてきた箸で麺を食べた阿聰が、配信中にピーナッツアレルギーで死んだ。阿聰の恋人であり麺を運んだ麗娜が疑われ、中傷を受けていた。そんなとき、鬼新娘を名乗る人物から麗娜のところに、四人は呪われるというメールが届いた。
香港の作家。ミステリ寄りの作品で、そのためにかろうじて求心力はありました。が、説得力のない狂人の論理ほど独りよがりで興醒めなものはありません。【※呪いを信じた少女が友人を呪った直後、友人が事故に遭い、自分が呪ったせいだと信じた少女は自殺。友人と少女の姉は、呪いをでっちあげた四人のせいだと復讐を誓う】
「第四章 鰐の夢」瀟湘神《シャオ・シャンシェン》(鱷魚之夢,瀟湘神)☆☆☆☆☆
――はしに関する怪談について声をかけられ、執筆者のなかに憧れていた作家の名前を見つけたことから、二つ返事で承諾した。出版社が企画した講演で箸が持つ呪術性について話をしたあと、張文勇という読者から声をかけられた。日本の都市伝説『おはしさま』のエピソードに現れる学校が、母校の小学校にそっくりなのだという。
台湾の作家。第一章や第二章のエピソードを取り込んでいました。
「第五章 魯魚亥豕《ろぎょがいし》」陳浩基(亥豕魯魚,陳浩基)☆☆☆☆☆
――香港人である教師の姚さんとは、僕が彼に台湾語を教え、彼が僕に広東語を教える付き合いを続けていた。H大学の美術博物館で開催される日本美術の展覧会に誘われたとき、展覧会に興味があるという教え子の小葵に恋をしてしまった。相手はまだ中学生だというのに。腕に魚の形の痣のある小葵と連絡を取り合うようになって三ヶ月後、新娘潭に観光に出かけた僕は、従兄弟の結婚式に向かう小葵一家と遭遇し、車に同乗させてもらった。だが車が事故に遭い、小葵の両親は死亡し、小葵自身も重傷を負った。
香港の作家。『世界を売った男』『ディオゲネス変奏曲』が面白かったので期待したのですが、これまでの四章を取り込もうとして見るも無惨な結果になっていました。
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