『さむけ』ロス・マクドナルド/小笠原豊樹訳(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『The Chill』Ross Macdonald,1964年。 裁判所に証人として出廷したアーチャーは、傍聴席にいたアレックスという青年から声をかけられる。結婚したばかりの妻ドリーが結婚初日に姿を…
『悪魔のような女』ボアロー、ナルスジャック/北村太郎訳(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『Celle qui n'était plus』Boileau-Narcejac,1952年。 映画『悪魔のような女』の原作。シャロン・ストーンによるリメイク版に合わせての文庫化だったようで、表紙や袖…
『偽のデュー警部』ピーター・ラヴゼイ/中村保男訳(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『The False Inspector Dew』Peter Lovesey,1982年。 かのクリッペン医師を逮捕したことで知られたウォルター・デュー警部。そんなウォルター・デューの偽名を使って乗り込ん…
『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー/乾信一郎訳(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『Endless Night』Agatha Christie,1967年。 ノン・シリーズものです。 ジプシーの呪いの伝説が残る土地に魅せられた主人公の青年が、富豪令嬢と恋に落ちてその土地に…
『鏡は横にひび割れて』アガサ・クリスティー/橋本福夫訳(ハヤカワ・クリスティー文庫) 『The Mirror Crack'd from Side to Side』Agatha Christie,1962年。 タイトルはテニスン「シャロットの姫君」より。作中の女優が衝撃を受けたときの表情を形容した…
『陰仕え 石川紋四郎』冬月剣太郎(ハヤカワ時代ミステリ文庫) ミステリマガジンの紹介文で「トミーとタペンス」が引き合いに出されていて、掲載されていた冒頭(友人の同心と共に連続辻斬りを追う紋四郎と、独自の捜査で無茶をする妻のさくら)もまさにそ…
『運命の裏木戸』アガサ・クリスティー/中村能三訳(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『Postern of Fate』Agatha Christie,1973年。 トミーとタペンス最終作です。クリスティー最後の作品でもあります。 面白いんですよ。饒舌なタペンスとのんびりしたトミーは相…
『アイル・ビー・ゴーン』エイドリアン・マッキンティ/武藤陽生訳(ハヤカワ・ミステリ文庫) 『In The Morning I'll Be Gone』Adrian McKinty,2014年。 北アイルランドの刑事ショーン・ダフィ・シリーズ三作目です。 第二作目は未読ですが、この三作目で…
『アガサ・クリスティー完全攻略[決定版]』霜月蒼(ハヤカワ・クリスティー文庫) 翻訳ミステリー大賞シンジケートで連載されていたものの書籍化の増補文庫版。クリスティー全作書評。本格プロパーではないからこその、曇りのない純粋な読み方が小気味よい…
『The Cold Cold Ground』Adrian McKinty,2012年。 1980年代の北アイルランドが舞台の警察小説。たれこみ屋への見せしめ殺人がよくある事件として扱われ、聞き込みすら命がけという、我々にとっては非日常の世界で起こる非日常の殺人は、猟奇的な劇場型殺人…
『IQ』Joe Ide,2016年。 IQと呼ばれる黒人青年。彼が探偵として活躍する2013年のパートと、17歳だった2005年のパートから成るミステリです。 幼女誘拐犯視点のプロローグから、この犯人を追うシリアルキラーものだと思ったのは早計でした。ボートで逃げる…
『La última salida』Federico Axat,2016年。 二児の父であるテッドが悪性腫瘍をはかなみ自殺を試みようとしていたところ、すべての事情を知る組織の人間リンチが現れ、法で裁けない悪人殺しを持ちかけられる――。 衝撃的とはいえある意味ではベタベタのミス…
第3回アガサ・クリスティー賞受賞作。 著者みずからが考えた「新古典派」というフレーズに相応しい、古式ゆかしさとひねりの同居した本格ミステリです。 デビュー作なので欠点もある――けれどそこはそれ、と割り切りながら読んでゆきます。 たとえば、「クロ…
『Cat of Many Tails』Ellery Queen,1949年。 シリアル・キラーと集団パニックが描かれた異色作(なのだと思います)。 無関係の人間や救えるはずの人間を救えなかったエラリイの苦悩が、『十日間の不思議』に続いて本書でも描かれています。しかしながら前…
『Down River』John Hart,2007年。 ジョン・ハート作品で初めて読んだ『ロスト・チャイルド』は傑作でした。次作『アイアン・ハウス』は、著者の持ち味であるらしい愛情の存在が甘ったるく感じられました。遡って出世作である本書を読んでみましたが、やは…
『He Who Whispers』John Dickson Carr,1946年。 実際にあった犯罪の話に明け暮れる「殺人クラブ」にゲストとして招かれた主人公マイルズ・ハモンドが、いざクラブに着いてみると、ホストはもぬけの殻……新アラビアンナイトか何かを意識しているらしき茫漠と…
『Five Little Pigs』Agatha Christie,1942年。 翻訳ミステリー大賞シンジケートに連載されていた『アガサ・クリスティー完全攻略』(のちに単行本化・文庫化)で、霜月蒼氏が高い評価をしていたうちの一冊だったため、地味めなタイトルでこれまで気を惹か…
ライツヴィルもの第一作。 事件が起こり、容疑者が捕まり、リンチが起こりかねない群集心理がわき起こり、小説の盛り上がりは最高潮に達します。「推理」ではどうすることもできない輿論の怖さ。ただしそこから結末にいたるまでは、拍子抜けするほど普通の本…
『The Most Dangerous Game』Gavin Lyall,1963年。 森谷明子『れんげ野原のまんなかで』の第五話で、登場人物が子供のころ読んで探していた、「彼女はしっかり張った顎を砕かれたら、最高の整形外科医に治療させるだろう。それからまた顎を突き出して、次の…
『しらない町』文庫化改題。 フィルムの女性に会うまでは面白かったのですが、それ以降が尻すぼみでした。ミステリ作品ではないのでそういった類の意外性もないのです。関係者が一様に口を閉ざしたのは、詰まるところはただ単に故人の気持を尊重したかったか…
ポケミス版が出たときに、どうして「壊れた橋」を収録してくれないのかと思ったのですが、文庫化を見越していたようです。 「ルパン、最後の恋」(Le Dernier amour d'Arsène Lupin ,Maurice Leblanc,1936/1937/2012)★★★☆☆ ――ジャンヌ・ダルクが集めたイ…
『The Burning Court』John Dickson Carr,1969年。 新訳を機に再読。カーにしては驚くほど端正。有名なエピローグにしても、悪く言えば予定調和、よく言えば端正にして隙がない作品でした。同趣向のヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』のラディカルさと比べる…
『Buchers and Other Stories of Crime』Peter Lovesey,1985年。 「肉屋」(Buchers)★★★★☆ ――ビュー肉店の冷蔵庫の中で週末を過ごしたが、当人はいっこうに気にしなかった。凍死していたのだからそれが当たり前というものだった。その扉の反対側でジョーが…
『And Then There Were None』Agatha Christie,1939年。 新訳版。一読びっくりしたのは、黒ん坊どころかインディアンですらなくなっている!ことでした。時代の流れですね。でもそこらへんの事情の解説くらい付ければいいのに。 それよりも「くん製」って表…
『Dust Devils』James Reasoner,2007年。 ヒッチハイクでやって来た青年トビーは、四十前後のおかみさんグレースが一人で切り盛りしている農場で働かせてもらうことになった。いつしか肉体関係を持つようになるトビーとグレース。朝、ベッドから抜け出し家…
『The 12:30 From Croydon』F. W. Crofts,1934年。 クロフツはそこそこ好きな作家なのですが、これはちょっと……というか全然だめでした。 まったくアリバイものにはなっていないのに、フレンチの自己解説を読むかぎりでは(策を弄しすぎ云々)、アリバイも…
『Hypnotisören』Lars Kepler,2009年。 以前にミステリマガジンの未訳作品欄で紹介されていて、面白そうだから読みたかったスウェーデン作品が、去年の暮れに翻訳されました。 刊行前から20カ国以上で翻訳権が売れた、などと言われると、むしろ出来レースっ…
『The Hog Murders』William L. Deandrea,1979年。 これはひどい。事件が始まった瞬間に、真相が一つしかあり得ないことはまるわかりなのですが、結局なんのひねりもなくやっぱりそれが真相だったというのでは……。真相がわかっても面白い作品だっていくらで…
『She Died A Lady』Carter Dickson,1943年。 謎自体はものすごく単純で、行きだけで帰りのない崖の上の二つの足跡。クラフト警視が作中で疑るように、何らかのからくりがあるとしたらどう考えても第一発見者が怪しい状況です。 しかも第一発見者のリューク…
『El Enigma de Paris』Pablo de Santis,2007年。 中南米の文学を普及させる目的で創設されたプラネタ−カサメリカ賞第1回受賞作。 嘘偽りない「名探偵」たち12人で構成される〈12人の名探偵〉。最高の探偵術が求められる事件は〈密室殺人〉、名探偵が開く…