『致死量未満の殺人』三沢陽一(ハヤカワ文庫JA)★★★★☆

第3回アガサ・クリスティー賞受賞作。 著者みずからが考えた「新古典派」というフレーズに相応しい、古式ゆかしさとひねりの同居した本格ミステリです。 デビュー作なので欠点もある――けれどそこはそれ、と割り切りながら読んでゆきます。 たとえば、「クロ…

『九尾の猫 新訳版』エラリイ・クイーン/越前敏弥訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

『Cat of Many Tails』Ellery Queen,1949年。 シリアル・キラーと集団パニックが描かれた異色作(なのだと思います)。 無関係の人間や救えるはずの人間を救えなかったエラリイの苦悩が、『十日間の不思議』に続いて本書でも描かれています。しかしながら前…

『川は静かに流れ』ジョン・ハート/東野さやか訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★☆☆☆☆

『Down River』John Hart,2007年。 ジョン・ハート作品で初めて読んだ『ロスト・チャイルド』は傑作でした。次作『アイアン・ハウス』は、著者の持ち味であるらしい愛情の存在が甘ったるく感じられました。遡って出世作である本書を読んでみましたが、やは…

『囁く影』ジョン・ディクスン・カー/斎藤数衛訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★☆☆☆

『He Who Whispers』John Dickson Carr,1946年。 実際にあった犯罪の話に明け暮れる「殺人クラブ」にゲストとして招かれた主人公マイルズ・ハモンドが、いざクラブに着いてみると、ホストはもぬけの殻……新アラビアンナイトか何かを意識しているらしき茫漠と…

『五匹の子豚』アガサ・クリスティー/桑原千恵子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

『Five Little Pigs』Agatha Christie,1942年。 翻訳ミステリー大賞シンジケートに連載されていた『アガサ・クリスティー完全攻略』(のちに単行本化・文庫化)で、霜月蒼氏が高い評価をしていたうちの一冊だったため、地味めなタイトルでこれまで気を惹か…

『災厄の町 新訳版』エラリイ・クイーン/越前敏哉訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

ライツヴィルもの第一作。 事件が起こり、容疑者が捕まり、リンチが起こりかねない群集心理がわき起こり、小説の盛り上がりは最高潮に達します。「推理」ではどうすることもできない輿論の怖さ。ただしそこから結末にいたるまでは、拍子抜けするほど普通の本…

『もっとも危険なゲーム』ギャビン・ライアル/菊池光訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

『The Most Dangerous Game』Gavin Lyall,1963年。 森谷明子『れんげ野原のまんなかで』の第五話で、登場人物が子供のころ読んで探していた、「彼女はしっかり張った顎を砕かれたら、最高の整形外科医に治療させるだろう。それからまた顎を突き出して、次の…

『エンドロール』鏑木蓮(ハヤカワ文庫JA)★★★☆☆

『しらない町』文庫化改題。 フィルムの女性に会うまでは面白かったのですが、それ以降が尻すぼみでした。ミステリ作品ではないのでそういった類の意外性もないのです。関係者が一様に口を閉ざしたのは、詰まるところはただ単に故人の気持を尊重したかったか…

『ルパン、最後の恋』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

ポケミス版が出たときに、どうして「壊れた橋」を収録してくれないのかと思ったのですが、文庫化を見越していたようです。 「ルパン、最後の恋」(Le Dernier amour d'Arsène Lupin ,Maurice Leblanc,1936/1937/2012)★★★☆☆ ――ジャンヌ・ダルクが集めたイ…

『火刑法廷 新訳版』ジョン・ディクスン・カー/加賀山卓朗訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

『The Burning Court』John Dickson Carr,1969年。 新訳を機に再読。カーにしては驚くほど端正。有名なエピローグにしても、悪く言えば予定調和、よく言えば端正にして隙がない作品でした。同趣向のヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』のラディカルさと比べる…

『煙草屋の密室』ピーター・ラヴゼイ/中村保男他訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

『Buchers and Other Stories of Crime』Peter Lovesey,1985年。 「肉屋」(Buchers)★★★★☆ ――ビュー肉店の冷蔵庫の中で週末を過ごしたが、当人はいっこうに気にしなかった。凍死していたのだからそれが当たり前というものだった。その扉の反対側でジョーが…

『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー/青木久惠訳(ハヤカワ・クリスティー文庫)

『And Then There Were None』Agatha Christie,1939年。 新訳版。一読びっくりしたのは、黒ん坊どころかインディアンですらなくなっている!ことでした。時代の流れですね。でもそこらへんの事情の解説くらい付ければいいのに。 それよりも「くん製」って表…

『聞いてないとは言わせない』ジェイムズ・リーズナー/田村義進訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

『Dust Devils』James Reasoner,2007年。 ヒッチハイクでやって来た青年トビーは、四十前後のおかみさんグレースが一人で切り盛りしている農場で働かせてもらうことになった。いつしか肉体関係を持つようになるトビーとグレース。朝、ベッドから抜け出し家…

『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ/加賀山卓朗訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★☆☆☆☆

『The 12:30 From Croydon』F. W. Crofts,1934年。 クロフツはそこそこ好きな作家なのですが、これはちょっと……というか全然だめでした。 まったくアリバイものにはなっていないのに、フレンチの自己解説を読むかぎりでは(策を弄しすぎ云々)、アリバイも…

『催眠(上・下)』ラーシュ・ケプレル/ヘレンハルメ美穂訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

『Hypnotisören』Lars Kepler,2009年。 以前にミステリマガジンの未訳作品欄で紹介されていて、面白そうだから読みたかったスウェーデン作品が、去年の暮れに翻訳されました。 刊行前から20カ国以上で翻訳権が売れた、などと言われると、むしろ出来レースっ…

『ホッグ連続殺人』ウィリアム・L・デアンドリア/真崎義博訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★☆☆☆

『The Hog Murders』William L. Deandrea,1979年。 これはひどい。事件が始まった瞬間に、真相が一つしかあり得ないことはまるわかりなのですが、結局なんのひねりもなくやっぱりそれが真相だったというのでは……。真相がわかっても面白い作品だっていくらで…

『貴婦人として死す』カーター・ディクスン/小倉多加志訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★★

『She Died A Lady』Carter Dickson,1943年。 謎自体はものすごく単純で、行きだけで帰りのない崖の上の二つの足跡。クラフト警視が作中で疑るように、何らかのからくりがあるとしたらどう考えても第一発見者が怪しい状況です。 しかも第一発見者のリューク…

『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス/宮崎真紀訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★★

『El Enigma de Paris』Pablo de Santis,2007年。 中南米の文学を普及させる目的で創設されたプラネタ−カサメリカ賞第1回受賞作。 嘘偽りない「名探偵」たち12人で構成される〈12人の名探偵〉。最高の探偵術が求められる事件は〈密室殺人〉、名探偵が開く…

『復讐法廷』ヘンリー・デンカー/中野圭二訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

『Outrage』Henry Denker,1982年。 法廷ミステリは面白い。どうしたってぶつかり合う人間ドラマがもろに表に現れるのだから、面白くないわけがない。だけど――です。ミステリ的に筋道の通ったどんでん返しが待ち受けているかというと、そんな都合のいい抜け…

『スイート・ホーム殺人事件 新訳版』クレイグ・ライス/羽田詩津子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

名作は読み逃しちゃうと、こういう新訳みたいな機会がないとなかなか読めないので、助かります。 かわいくないガキだなあ〜(^_^)。←ほめことばです。 三人ともほとんど捜査妨害みたいなやり方で、警察を出し抜いてしまいます。推理というより証拠探しと…

『ビッグ・ボウの殺人』イズレイル・ザングウィル/吉田誠一訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

『The Big Bow Mystery』Israel Zangwill,1891年。 新聞の投書にヘンな推理がいっぱい載ったり、その投書のなかにはモルグ街に敬意を表して猿が容疑者になっているものもあったり、重婚ライターの奥さん二人が刑事と元刑事それぞれの家で女中をしていて情報…

『狂犬は眠らない』ジェイムズ・グレイディ/三川基好訳(ハヤカワ文庫)★★★★★

『Mad Dogs』James Grady,2006年。 ロバート・レッドフォード主演『コンドル』の原作者による、スパイ小説――というよりは、元スパイの活躍するサスペンス珍道中である。 というのも、登場する五人の元スパイは、任務中の出来事が原因でみな狂っているのだ。…

『国境の少女』ブライアン・マギロウェイ/長野きよみ訳(ハヤカワミステリ文庫)★★★☆☆

『Borderlands』Brian McGilloway,2007年。アイルランド国境、「どちら側の警察が主導権を持つのかは、だいたいのところ、死体のあった場所か被害者の国籍によって決まる」という舞台が魅力的な作品。 ではありますが、捜査の過程でそういう特殊性が浮き彫…

『完全脱獄』ジャック・フィニイ/宇野輝雄訳(ハヤカワ文庫)★★★★☆

『The House of Numbers』Jack Finney,1956年。 『盗まれた街』の映画化に合わせて、おそらくは同じく映画化されているという理由で復刊されました。 登場人物表に書かれているのはたった五人。余計な説明はなし。アーニー・ジャーヴィスの「脱獄」という一…

『そして死の鐘が鳴る』キャサリン・エアード/高橋豊訳(ハヤカワ文庫)★★★☆☆

『His Burial Too』Catherine Aird,1973年。 『有栖川有栖の密室大図鑑』で紹介されていた未読作のうちの一作。 それなりに期待して読んだのだけれど、トリック自体はバカミスだったなあ。。。初めのうちは〈運ぶときに十二人必要なほどの石像がどうして倒…

『キラー・イン・ザ・レイン チャンドラー短篇全集1』レイモンド・チャンドラー/小鷹信光他訳(ハヤカワ文庫)

傑作選じゃなくて短篇全集なんですね、と、ちょっとびっくり。本書は六篇中四篇が『ミステリマガジン』掲載新訳だから、本誌を読んでいる人間にはあんまりお得感はない。 忙しくて本誌で読めなかった「スマートアレック・キル」と、本誌未掲載の「キラー・イ…

『カリオストロ伯爵夫人』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワミステリ文庫)★★★★★

『La Comtesse de Cagliostro』Maurice Leblanc,1924年。 面白かった記憶はあったのだけれど、こんなに面白かったとは覚えてませんでした。インパクトのあるトリックや意外な犯人が登場するわけではないから、確かに具体的な面白さが記憶には残りづらいのだ…

『水晶の栓』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★☆

スピーディでテンポのいい、ルパンものの代表作。 第一章でいきなり事件発生。ルパンの部下が人殺し!というショッキングな冒頭から、なんとルパンが巻き込むのではなく巻き込まれ、翻弄するのではなく翻弄される。というわけで、ルパンに考えるひまも与えな…

『ガラスのなかの少女』ジェフリー・フォード/田中一江訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★★

相変わらず、ほかの作家が書けば失笑ものになりかねない際どいネタを、めくるめくエンターテインメントに仕立て上げています。読みごたえのある文章とぐいぐい引き込む巧みなストーリーテリングが両立しているのは、最近の作家のなかでもピカ一。 早川の刊行…

『奇岩城』モーリス・ルブラン/平岡敦訳(ハヤカワ文庫)★★☆☆☆

代表作に数えられることが多いが、以前からあんまり好きな作品ではなかった。ルパンというよりボートルレが主役だからなー。このボートルレという少年が、自信家のくせに優等生的でアクがなく、かと思うと突然泣き出したりして、およそ魅力というものが感じ…


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