『ハロー、アメリカ』J・G・バラード/南山宏訳(創元SF文庫) 『Hello America』J. G. Ballard,1981年。 気候の大変動により灼熱の砂漠と化して崩壊したアメリカ。放射能漏れの原因究明と残された資源を求めてヨーロッパからニューヨークに上陸した探…
『時のきざはし 現代中華SF傑作選』立原透耶編(新紀元社) 『The Stairway of the Time: An Anthology of Chinese Contemporary Science Fiction』2020年。 日本オリジナル編集の中華SF傑作選。「太陽に別れを告げる日」江波《ジアン・ボー》/大久保洋…
『半分世界』石川宗生(東京創元社) 『Cloven World and Other Stories』2018年。 第7回創元SF短編賞受賞作を含む四篇収録。ワンアイデアを提示してその設定をひたすら詳細に書き連ねるだけで、アイデアからの発展は何一つありません。出オチをどこまで…
『暗闇にレンズ』高山羽根子(東京創元社) 現代を舞台に監視カメラの死角で自撮りする女子学生二人が、やがて「エンバーミング」の映像を撮り始める「Side A」。 明治時代に始まり現代にまで連なる、カメラと映画に関わる嘉納一族の歴史をひもとく「Side B…
『塵クジラの海』ブルース・スターリング/小川隆訳(ハヤカワ文庫FT) 『Involution Ocean』Bruce Sterling,1977年。 サイバーパンクの雄ブルース・スターリングのデビュー作。〈プラチナ・ファンタジイ〉の一冊です。 スペース・オペラとサイエンス・フ…
『影のオンブリア』パトリシア・A・マキリップ/井辻朱美訳(ハヤカワ文庫FT) 『Ombria in Shadow』Patricia A. McKillip,2002年。 2003年度世界幻想文学大賞受賞作。〈プラチナ・ファンタジイ〉の一冊です。 いわゆるファンタジーらしいファンタジーで…
『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』シオドラ・ゴス/鈴木潤他訳(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ5048) 『The Strange Case of the Alchemist's Daughter』Theodora Goss,2017年。 即物的な邦題ですが、同じく素っ気ない原題は『ジキル博…
『ゲームの王国』(上・下)小川哲(ハヤカワ文庫JA)★★★★★ 2017年親本刊行。 政治家や警官の腐敗と共産主義者への弾圧が著しい1956年のカンボジア。高校の歴史科教師サロト・サルは、革命組織を新たに作り直そうとしていた。同じころ、郵便局員ニュオン・…
『マルドゥック・スクランブル The First Compression――圧縮/The Second Combustion――燃焼/The Third Exhaust――排気』冲方丁(ハヤカワ文庫JA) 冲方丁の出世作。2003年初刊。 少女娼婦ルーン=バロットは、作られた自身の登録情報にアクセスしてしまっ…
『最初の接触 伊藤典夫翻訳SF傑作選』高橋良平編/マレイ・ラインスター他(ハヤカワ文庫SF) 『ボロゴーヴはミムジイ』に続く、伊藤典夫訳SFマガジン傑作選の第2集。「最初の接触」を除きすべて1950年代の作品で訳載も60年代と、とにかく古い。 「最…
『危険なヴィジョン〔完全版〕3』ハーラン・エリスン編/浅倉久志他訳(ハヤカワ文庫SF) 3分冊の最終巻。個人的には平均点がいちばん高い巻でした。 「男がみんな兄弟なら、そのひとりに妹を嫁がせるか?」シオドア・スタージョン/大森望訳(If All Me…
『危険なヴィジョン〔完全版〕2』ハーラン・エリスン編/浅倉久志他訳(ハヤカワ文庫SF) 解説で若島正が、本書を比類のないものにしているのはエリスンの序文だと話していますが、エリスンにもSFにも過度な思い入れのない身からすると、そんな楽屋ネタ…
『危険なヴィジョン〔完全版〕1』ハーラン・エリスン編/伊藤典夫他訳(ハヤカワ文庫SF) 『Dangerous Visions』Edited by Harlan Ellison,1967年。 (かつての)伝説の書き下ろしアンソロジーが(今さら)完訳刊行された、というのが正直なところなので…
『書架の探偵』ジーン・ウルフ/酒井昭伸訳(早川書房 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ5033) 『A Borrowed Man』Gene Wolfe,2015年。 難解な作風で知られる著者のこと、覚悟して読み始めたのですが、ジーン・ウルフにしてはかなりわかりやすいエンターテイン…
『ライト』M・ジョン・ハリスン/小野田和子訳(国書刊行会) 『Light』M. John Harrison,2002年。 ナイトランド・クォータリーに掲載されていたヴィリコニウムものの短篇はヒロイック・ファンタジーでしたが、本書はいかにもという感じのポストモダン。シ…
「ゆきとどいた生活」星新一(1961)★★★★☆ ――朝。時計が八時をさし、スピーカーから声が呼びかけてきた。「さあ、もうお起きになる時間です……」天井から静かに〈手〉がおりてきた。〈手〉は毛布をどけテール氏を抱きおこし、浴室へ運んでいった。ひげを処理…
「次元を駆ける恋」平井和正(1965)★★★☆☆ ――トラックに轢かれて死んだ絢子のことが忘れられなくて、多元宇宙で生きている絢子のなかから絢子を選ぶべく、ぼくは次元転移した。だがたとえその次元の絢子を救ったとしても、そこにはその次元のぼくがいるのだ…
収録作家5人中、4人が『時間篇』と重複しています。この4人は続く『異次元篇』『未来篇』でも重複していて、アンソロジーとしてはお得感がまったくありません。権利の関係でほかの作家を収録できなかったのか、黎明~黄金期にかけての日本SFはほかに収…
東雅夫編〈文豪ノ怪談ジュニア・セレクション〉の汐文社から、日下三蔵編によるSFセレクションが刊行されています。日本SF黎明~黄金期の作品はほぼ読んだことがないし、こういう機会がなければ読む気もなかったので良い機会でした。 「御先祖様万歳」小…
『チェコSF短編小説集』ヤロスラフ・オオルシャ・jr.編/平野清美編訳(平凡社ライブラリー) 英米以外のSFの翻訳は少ないうえに、訳されたものの多くはSFというよりも幻想小説や風刺小説だったりするのですが、懸念は的中し、本書収録作も前半はそん…
『〔少女庭国〕』矢部崇(ハヤカワ文庫JA) 2014年初刊。 中カッコでくくられた意味深なタイトル。 一ページ目をめくれば、予想外に古風な文体にフランクな表現と著者独自の言い回しが混ざった、癖のある奇妙な文章が飛び込んで来ます。 あらすじにもある、…
『三体』劉慈欣《リウ・ツーシン》/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳/立原透耶監修(早川書房) 『三体』刘慈欣,2008年。 ポケミス『折りたたみ北京』に収録されていた「円」がとてつもなく面白かったため、親本の本書も購入。抜粋を改作したとありま…
『地球最後の男』リチャード・マシスン/田中小実昌訳(ハヤカワ文庫NV) 『I Am Legend』Richard Matheson,1954年。 自分以外の全人類が吸血鬼と化してしまった世界で、絶望と戦いに明け暮れる男の日々を描いた古典的名作です。今は数年前の映画化に合わせ…
第5回創元SF短編賞受賞の表題作を含む三篇収録。シリーズもの、というよりは三篇揃って一つの作品と言った方がよいかもしれません。 「ランドスケープと夏の定理」(2014)★★★★☆ ――太陽から地球方向に延ばした直線の延長上にあるL2まで、今は十時間で行…
『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』ケン・リュウ編/中原尚哉他訳(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) ケン・リュウが英訳して編んだ作品集の重訳なので、訳文は読みやすい。編者が序文で、政治的な読み方のような欧米視点の上から目線の読み方はやめ…
類書との重複を避けて選んだ猫SF&ファンタジー傑作選。さすがにもう過去の作品を編んだものは落穂拾いなのかも……という感想です。 「地上編」「パフ」ジェフリー・D・コイストラ/山岸真訳(Puff,Jeffery D. Kooistra,1993)★★★☆☆ ――五歳になる娘のヘ…
驚異の旅コレクション第三回配本は、新訳版『カルパチアの城』と初訳の『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』のカップリングです。 『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』は現在、死後初めに刊行されたミシェル改作版とジュール・オリジナル版がいずれも…
『スペース・オペラ』白石朗訳(Space Opera,Jack Vance,1965)★★★☆☆ ――未知の惑星ルラールから来た〈第九歌劇団〉は素晴らしい演目を披露したあと、忽然と姿を消した……オペラの後援者デイム・イサベル・グレイスはその失踪の謎を解決するため、地球の歌劇…
『Famille-Sans-Nom』Jules Verne,1889年。 ここ数年つづいているヴェルヌの新訳・初訳・復刊もののなかでは段違いに面白い作品でした。明治時代に森田思軒『無名氏』という抄訳がありますが、恐らく完訳は初めてだと思います。 副題にあるとおり、カナダの…
『Press Start to Play』Ed. by Daniel H. Wilson and John Joseph Adams,2015。 原書収録の26編から12編を厳選したもの。 「リスポーン」桜坂洋(2015)★★★★☆ ――おれが牛丼屋でバイトをしていると、強盗が現れた。大男の客が正義感を起こした。怯えた強盗…