『20世紀ラテンアメリカ傑作選』野谷文昭編訳(岩波文庫)★★★☆☆

『20世紀ラテンアメリカ傑作選』野谷文昭編訳(岩波文庫) 一番新しい作品で1991年、古いものだと今から百年以上前の1912年の作品が収録されています。テーマごとに四つの部に分けられていますが、各テーマの範囲が広すぎてテーマ別に分ける必要性が感じられ…

『オルレアンの少女《おとめ》』シルレル/佐藤通次訳(岩波文庫)★★★★☆

『オルレアンの少女《おとめ》』シルレル/佐藤通次訳(岩波文庫) 『Die Jungfrau von Orleans』Friedrich Schiller,1801年。 『ヴィルヘルム・テル』のシラーによる、戯曲ジャンヌ・ダルクです。 百年戦争で劣勢のフランス、豪農アルクのチボーは、娘のジ…

『沈鐘』ハウプトマン/阿部六郎訳(岩波文庫)★★★☆☆

『沈鐘』ハウプトマン/阿部六郎訳(岩波文庫) 『Die versunkene Glocke』Gerhart Hauptmann,1896年。 泉鏡花『夜叉ヶ池』に影響を与えたとして有名な作品ですが、鏡花自身が『夜叉ヶ池』創作以前に『沈鐘』を翻訳しているという事実を知らないと、どこが…

『ノートル=ダム・ド・パリ』(上・下)ユゴー/辻昶・松下和則訳(岩波文庫)★★★★☆

『Notre-Dame de Paris』Victor Hugo,1831年。 物語は猥雑な劇場の場面から幕を開けます。いったい何が始まるんだと思っていたところに、劇にうんざりしだした観客たちが、一番面白いしかめっつらをした者を「らんちき法王」に選出しようと羽目をはずし、み…

『ブレイク詩集』寿岳文章訳(岩波文庫)★★★★☆

寿岳文章訳のブレイク詩集の集大成。『無心の歌』『有心の歌』『天国と地獄の結婚』などの代表作のほか、稿本詩抄や私家版を収める。私家版を除けばイラストは掲載されていません。 ライカという少女をめぐるストーリー仕立ての詩「失われた少女」「見つかっ…

『アイルランド童話集 隊を組んで歩く妖精達』イエイツ編/山宮允撰訳(岩波文庫)

『Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry』William Butler Yeats ed.,1888年。 イェイツ編によるアイルランド民話集から、さらに訳者が精選したもの。 第一部は「隊を組んで歩く妖精達」ということで、主に妖精譚が収められています。ウィリアム・ア…

『巨匠とマルガリータ(上・下)』ブルガーコフ/水野忠夫訳(岩波文庫)★★★★★

『Мастер и Маргарита』Михаил Булгаков,1966年。 編集長ベルリオーズが詩人のイワンに向かって、イエス・キリストは存在しないという話をしているところに、教授だと名乗る外国人ふうの男が現れ、ベルリオーズの未来を予言したあと、「イエスは存在した。…

『第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇』尾崎翠(岩波文庫)★★★★★

「第七官界彷徨」(1931)★★★★★ ――よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。私はひとつ、人間の第七官にひびくような詩を書いてやりましょうという目…

『遊戯の終わり』フリオ・コルタサル/木村榮一訳(岩波文庫)★★★★☆

同じ岩波文庫『悪魔の涎・追い求める男』にも収録されている「続いている公園」から始まっていたので驚きましたが、本国版『遊戯の終わり』をまるごと訳した国書刊行会版をそのまま文庫化したということでした。 『Final del juego』Julio Cortázar,1964年…

『山師カリオストロの大冒険』種村季弘(岩波現代文庫)★★★★☆

『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』に続いて、本書を読み返してみることに。こちらは主にジョヴァンニ・バルベリ(マルチェッロ神父)の『カリオストロの生涯と行状』を軸に、それを批判的に読んでいくといった内容でした。そもそも『生涯と行状』という書…

『汚辱の世界史』ホルヘ・ルイス・ボルヘス/中村健二訳(岩波文庫)★★★★☆

『Historia Universal de la Infamia』Jorge Luis Borges,1935/1954年。 黒人奴隷の転売に、行方不明者のなりすまし――と一言で書いてしまうと、意外とセコイ。にも関わらず読んでいるあいだはセコく感じられないのは、彼らの犯罪が大胆で単純なところが大き…

『カイウスはばかだ』ヘンリー・ウィンターフェルト/関楠生訳(岩波少年文庫)★★★☆☆

『Caius ist ein Dummkopf』Henry Winterfeld。 カイウスと喧嘩したルーフスは、書字板に「カイウスはばかだ」と落書きしたことから、クサンチップス先生から退学を申し渡され、帰宅する。翌日、神殿に「カイウスはばかだ」という落書きが書かれてあるのが発…

『釈迢空歌集』折口信夫/富岡多恵子編(岩波文庫)

『海やまのあひだ』より。「かそけし」「さびし」て言い過ぎだよね。俳句みたいな味わいの歌が多い。 「かの子らや われに知られぬ妻とりて、生きのひそけさに わびつゝをゐむ」 結句の「わびつゝをゐむ」の意味がわかりません。。。 一連の「島山」連作は、…

『たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選―』行方昭夫編訳(岩波文庫)★★★★☆

イギリスの新聞コラムニスト四人の作品からいくつか選んだもの。『くまのプーさん』のA・A・ミルンもその一人。 解説では「天声人語」の名前が挙げられているけれど、おかしな話題・ユーモア・論理展開など、どちらかといえばチェスタトンに近いと感じまし…

『論語の新しい読み方』宮崎市定/礪波護編(岩波現代文庫)★★★☆☆

論語を「歴史的に」読もうという試みを綴ったものです。 「歴史的」とはどういうことかというと、要は「テクストを読む」ということに近いのだと思います。テクストを詳細に読んで疑問点を洗い出し、比較考証して読み方を探る。これまではどうしても論語はフ…

『旅は驢馬をつれて 他一篇』スティヴンソン/吉田健一訳(岩波文庫)★★★★☆

『Travels with a Donkey in the Cévennes』『An Island Voyage』Robert Louis Stevenson。 スティーヴンスンの紀行文『旅は驢馬をつれて』『内地の船旅』の二作を収録。 『内地の船旅』の方は比較的ふつうの紀行文だけれど、『旅は驢馬をつれて』の方はユー…

『オタバリの少年探偵たち』セシル・デイ=ルイス/脇明子訳(岩波少年文庫)★★★★☆

『The Otterburry Incident』Cecil Day Lewis,1948年。 ニコラス・ブレイクが本名で書いたジュヴナイル・ミステリ――というのはミステリ・サイドに寄りすぎた説明かな。桂冠詩人セシル・デイ=ルイスが書いた児童文学作品というべきでしょうか。 割ってしま…

『夜の来訪者』ジョン・プリーストリー/安藤貞雄訳(岩波文庫)★★★★☆

『An Inspector Calls』John B. Priestley,1946年,イギリス。 有名戯曲の新訳版。まあ今となってはミステリとしては期待しない方がいい。そこは60年前の作品です。 読む人間の立場によって、誰の言い訳に共感したり嫌悪を感じたりするかがぐるっと変わりそ…

『社会契約論』ルソー/桑原武夫ほか訳(岩波文庫)★★★☆☆

『Le Contrat Social』Jean-Jacques Rousseau,1762年 フランス革命だとか民主主義だとかいうからどんなものかと思っていたのだが、社会や主権者についての現状分析は現代でも一脈通ずるものがあって、確かに分析力は鋭い。 無味乾燥な論文かと思いきや、「…

『ドン・ジュアン』モリエール/鈴木力衛訳(岩波文庫)★★★☆☆

『Dom Juan ou le Festin de pierre』Molière,1665年。 デュマの『ジョゼフ・バルサモ』に「comme la statue du Commandeur(騎士の像のように)」という言い回しが出てきて、それがモリエール作品に由来する言葉らしいと知って、一応読んでみる。 そういう…

『アーネスト・ダウスン作品集』南條竹則編訳(岩波文庫)★★★★☆

怪奇小説が好きなわたしとしては、何よりも怪奇小説の翻訳家として南條氏を認識していたために、南條さんも岩波文庫から作品が出せるようになったんだねぇ――と、ご本人にとっては傍迷惑な感想をまず持ってしまったのだけれど、ともあれアーネスト・ダウスン…

『道化の民俗学』山口昌男(岩波現代文庫)★★★★☆

アルレッキーノという、日本人にはあまりなじみのないイタリアの道化芝居のあらすじから幕を開けます。まあ骨子はシェイクスピアの入れ替わり喜劇みたいなものなのですが、正直言ってまるまる一章一部があらすじ紹介というのはツライものがありました。それ…

『科学は不確かだ!』リチャード・P・ファインマン/大貫昌子訳(岩波現代文庫)★★★★☆

『The Meaning of It All』Rchard P. Feynman,1998年。岩波現代文庫からの久々のファインマン作品は、講演録です。ファインマンさんシリーズはもともとが聞き書きみたいなものですから、講演といってもさほど違和感はありません。 ファインマンによると、科…


防犯カメラ