『ジュスタ』パウル・ゴマ/住谷春也訳(松籟社 東欧の想像力18)★★☆☆☆

『ジュスタ』パウル・ゴマ/住谷春也訳(松籟社 東欧の想像力18) 『Justa』Paul Goma,1995年。 ルーマニアの作家。 本書は二つの点で難解です。一つはリズミカルとも言えるような独特の文体と細かい説明を廃した文章であり、もう一つがルーマニアの歴史に…

『敗残者』ファトス・コンゴリ/井浦伊知郎訳(松籟社 東欧の想像力17)★★★☆☆

『敗残者』ファトス・コンゴリ/井浦伊知郎訳(松籟社 東欧の想像力17) 『I humburi』Fatos Kongoli,1992年。 アルバニアの作家。 1991年、ヨーロッパ行きの難民船に乗り込むはずだった語り手のセサル・ルーミは、直前になって船に乗るのを取りやめます。…

『プラヴィエクとそのほかの時代』オルガ・トカルチュク/小椋彩訳(松籟社 東欧の想像力16)★★★★☆

『プラヴィエクとそのほかの時代』オルガ・トカルチュク/小椋彩訳(松籟社 東欧の想像力16) 『Prawiek i inne ezasy』Olga Tokarczuk,1996年。 『逃亡派』の邦訳で知られるポーランドのノーベル文学賞作家の出世作。 プラヴィエクというポーランドの架空…

『アカシアは花咲く』デボラ・フォーゲル/加藤有子(松籟社 東欧の想像力15)★☆☆☆☆

『アカシアは花咲く』デボラ・フォーゲル/加藤有子(松籟社 東欧の想像力15) 『Akacje kwitną』Debora Vogel,1935/1936年。 2006年の再刊によって再評価された、ポーランドのイディッシュ語作家の短篇集です。モダニズムやモンタージュという言葉から想像…

『宰相の象の物語』イヴォ・アンドリッチ/栗原成郎訳(松籟社 東欧の想像力14)★★★★☆

『宰相の象の物語』イヴォ・アンドリッチ/栗原成郎訳(松籟社 東欧の想像力14) ボスニア出身のノーベル賞作家による中短篇集。イスラム圏内のボスニアでカトリック教徒でありドイツ大使としてナチス政権を目の当たりにしたという著者の来歴や、あるいはボ…

『メダリオン』ゾフィア・ナウコフスカ/加藤有子訳(松籟社 東欧の想像力12)★★★★☆

『Medaliony』Zofia Nałkowska,1946年。 ポーランドの作家による、証言聞き取りの形を取ったホロコースト文学。 「シュパンナー教授」(Profesor Spanner) ――そこには何百体もの死体があった。委員会の前で若い男が証言している。教授は死体標本の製作者と…

『修道師と死』メシャ・セリモヴィッチ/三谷惠子訳(松籟社 東欧の想像力10)★★★★☆

『Derviš i smrt』Meša Selimović,1966年。 弟のハルンが逮捕された修道師アフメド・ヌルディンは、後援者の老人を訪れた。老人の娘が語るには、卑しい結婚をした弟ハサンのことを父親は勘当したがっているから、ハサンのほうから縁を切るように説得してほ…

『火葬人』ラジスラフ・フクス/阿部賢一訳(松籟社 東欧の想像力9)★★★★★

『Spalovač mrtvol』Ladislav Fuks,1967年。 「十七年前にわたしたちが出会ったのもここだったね」動物園の豹の檻の前で、カレル(ロマン)・コップフルキングル氏は、妻のラクメーに声をかけた。あれからまったく変わっていない。もちろんあのときの豹は天…

『ペインティッド・バード』イェジー・コシンスキ/西成彦訳(松露社 東欧の想像力7)★★★★★

『The Painted Bird』Jerzy Kosinski,1965・1976年。 ポーランドからの亡命作家による英語作品。初訳ではなく新訳です。旧題『異端の鳥』。 第二次世界大戦の波が押し寄せる東欧の大都市から、遠い村に疎開させられた一人の少年。オリーブ色の肌と黒い髪と…

『死者の軍隊の将軍』イスマイル・カダレ/井浦伊知郎訳(松籟社〈東欧の想像力〉5)★★★★☆

『Gjenerali i ushtrisë së vdekur』Ismail Kadare,1963年。 戦死した兵士たちの遺骨を回収して祖国に持ち帰るために、将軍と司祭はアルバニアにやって来た。記録や証言をもとに、掘っては名簿と認識票を照らし合わせ、掘っては照らし合わせ……。同じ任務に…

『あまりにも騒がしい孤独』ボフミル・フラバル/石川達夫訳(松籟社〈東欧の想像力2〉)★★★★☆

『Příliš hlučná samota』Bohumil Hrabal,1980年。 「三十五年間、僕は故紙に埋もれて働いている――これは、そんな僕のラブ・ストーリーだ。」 すごくのんきで夢見る男の一人称のように見えて、実は政府による本の発禁廃棄処分だとかナチズムだとか管理社会…

『砂時計』ダニロ・キシュ/奥彩子訳(松籟社〈東欧の想像力〉1)★★★★★

プロローグを読み終え、第一章を読み始める。ものの名前や人の動作を表わす決まり切った言葉を、著者は使わない。もちろん完全に使わないと文章自体が書けないので、恣意的なものではあるけれど。 例えば、ペン先を振ってから文字を書く場面を、著者はこう書…


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