異稿・座談会・単行本書影などを収録。 顎十郎「都鳥」初出バージョン「猫屋敷」や、キャラコさん「鴎」初出バージョン「赤い孔雀」「幸福の朝」など。 座談会は久生の小説観もわかって面白いのですが、オール読物新人賞の候補者に松本清張や永井路子(黒板…
同時期に刊行された『泡坂妻夫』と比べると、別の叢書だし別の作家だから編集方針が違うのも仕方がないのだけれど、エッセイや評論はいいものは前半だけに固まり、小説は再録ばかり……と、ちょっと残念な出来でした。「久生十蘭のこと」澁澤龍彦「「内地へよ…
月報は平田俊子ほか。 翻訳・翻案を集めた本書のなかでは、ボアゴベ『鉄仮面』が圧倒的に面白い。良い意味で漫画的。てっきり涙香&乱歩の知名度だけで有名なのかと思っていましたが、少なくともこの十蘭翻案版『鉄仮面』は作品自体に魅力がありました。 「…
月報は倉阪鬼一郎と樺山三英。はからずもどちらも十蘭の改稿について。 『真説・鉄仮面』(1954.1〜10)★★★★☆ ――先王ルイ十三世の王命によりブレヴァンヌ殿の領地から一歩も出たことのないマッチョリ殿は、死の前に一目会いたいという母からの手紙を「あの方…
この巻には、三一版全集をはじめとしたこれまでの作品集に収録された作品が多く、未収録作の多くもプロトタイプや変奏作だったりするので、あまりお得感がない。 「無月物語」()★★★★☆ ――後白河法皇の院政中、めずらしい死罪が行なわれた。死刑そのものがめ…
月報は齋藤愼爾と須田千里。 「春雪」(1949.1)★★★★☆ ――新郎新婦がホールに入ってきた。この戦争で、死ななくともいい若い娘がどれだけ死んだか。柚子なら、もっと立派にやり終わすだろう。滝野川で浸礼を受け、自分にはいままで幸福がなかったがいまささや…
「半未亡人」(1946.9)★★★★☆ ――それは夫の生死をたしかめるために、戦争のさなか、バスに乗つてタイのバンコックへ発つて行つた可憐なひとだつた。そのひとはタイへ入つたままゆくかたしれずになつてしまつた。無事なら無事で、収容されたら収容されたで、…
この巻はすべて三一版全集未収録作。戦争ものが多い。 「爆風」(1944.4)★★★★☆ ――けふの月齢は三・四で、満月は十三日とあるから、あと四、五日はまづよし、とすばやく計算した。東京の空襲はあればいつごろか、さういう公算があるのかないのか。南西方面の…
正確には跳訳シリーズではないらしく、久生十蘭というクレジットはどこにもありませんが、あとがきには「刺客」「ハムレット」を翻案した、とあります。というか、樺山氏は『SFマガジン』でも本歌取りのシリーズを連載しているし、デビュー作も『エミール』…
第四巻収録作はすべて三一版全集未収録作。月報は宇月原晴明と宇神幸男。 「女性の力」(1940)★★★★☆ ――少しも便りをくれなかつた伯母が、東京へ帰つて来いといふ手紙をよこした。たやすくは去りかねる聖安土女学院だつたけれども、真波は喜びの中に溺れ込ん…
第三巻の月報は芦辺拓と澤登翠。芦辺氏の方は、十蘭を「いかに書くか」の作家という側面だけではなく、「なにを書くか」の方でも再評価しようというもの。澤登氏は弁士らしく語りについて。「海豹島」(1939,1956)★★★★☆ ――海豹島は膃肭臍《おつとせい》の…
第二巻は『キャラコさん』&『顎十郎捕物帳』という、十蘭の代表的なシリーズ作品が二つも収録されています。代表作「ハムレット」のプロトタイプ「刺客」も収録されていますし、全集の第二巻という中途半端な形ながら、これから十蘭を読もうという人には意…
日記だということは重々承知していましたとも。 いや。でも、ね。そこは久生十蘭のこと、プライベートな日記であってもスタイリッシュであるに違いない、という期待もあったのです。 実際のところは、人に読ませることを前提とした日記文学でも日記という形…