『アンの夢の家』モンゴメリ/松本侑子訳(文春文庫) 『Anne's House of Dreams』L. M. Montgomery,1917年。 赤毛のアン・シリーズ第5作です(が、第4作『風柳荘のアン』が晩年の作品なので、書かれたのは4番目になります)。 タイトルからもわかる通り…
『ぼくらはアン』伊兼源太郎(東京創元社) 2021年刊。 何とも印象深いタイトルです。平易な言葉なのに謎めいています。『赤毛のアン』を連想させるこのタイトルに惹かれて手に取りました。結論から言うと『赤毛のアン』は無関係でした。タイトルになってい…
『挑発する少女小説』斎藤美奈子(河出新書) 少女小説9篇について、大人の目で、そして現代の目で読み直したものです。わたしが少女小説を好きなのは、思春期特有の繊細な心理描写であったり、健気で凜とした芯の通った主人公が格好いいからであったりしま…
『幻の「長くつ下のピッピ」』高畑勲×宮崎駿×小田部羊一(岩波書店) 高畑勲は1968年の映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』の制作が遅れ興行的にも失敗したことで、東映動画での将来が絶たれてしまいます。しかし1971年、東京ムービーの制作会社Aプロダクシ…
『美女と竹林のアンソロジー』森見登美彦リクエスト!(光文社文庫) 森見登美彦編纂の本書のテーマは美女と竹林。そのまんまです。森見登美彦にしか編纂できないアンソロジーではあります。 「来たりて取れ」阿川せんり(2018)★★★☆☆ ――北海道に竹林はない…
『夏休みの拡大図』小島達矢(双葉文庫) 印象的なタイトルは、登場人物の一人であるちとせの一言「夏休みって人生の縮図だと思うんだ」(p.185)と、それに対する語り手・百合香のアンサー「だって夏休みが終わったらさ、二学期が始まるじゃない」(p.279)…
『BUTTER』柚木麻子(新潮文庫) 木嶋佳苗事件をモデルにしたという、これまでの柚木作品のイメージからはまったく想像できない内容紹介に、戸惑いを感じずにはいられません。 蓋を開けてみればいつもの柚木印ではありました。週刊誌記者の町田里佳は、友人…
『南風吹く』森谷明子(光文社文庫) 俳句甲子園を題材にした『春や春』の続編――というか、同じ大会を舞台にした別高校の話です。 本書の方がドラマ性もあって楽しめました。 過疎の島なのでまずは出場人数が集まらないところからスタートするのですが、短歌…
『風柳荘のアン』モンゴメリ/松本侑子訳(文春文庫) 『Anne of Windy Willows』L. M. Montgmery,1936年。 村岡花子訳では『アンの幸福』のタイトルで知られたアン・シリーズの第4作ですが、書かれたのは『炉辺荘のリラ(アンの娘リラ)』よりあとの晩年…
『傷痕』桜庭一樹(文春文庫) 巻末の参考文献を見てもわかる通り、マイケル・ジャクソンをモデルにしたキング・オブ・ポップを取り巻く人々をめぐる連作長篇です。マイケルは日本に移植され、ザ・タイガースとフィンガー5を思わせる「セクシーな青年たちに…
『わしらは怪しい探険隊』椎名誠(角川文庫) 久しぶりに読み返しましたが、いま読むとキツイ。。。昭和だなあ。 まったく中身のない内容を説明的な饒舌体で延々と紡いでゆくスタイルは、いま読むと一部のラノベにも通ずるような気もします。 SFマガジンに…
『麻雀放浪記(一)青春編』阿佐田哲也(角川文庫) 戦後直後、語り手である18歳の阿佐田哲也青年は、仕事もないまま日々を暮らしていましたが、戦時中に工場で知り合った工員・上州虎に誘われて、博打の世界に足を踏み入れます。 第一章、サイコロ賭博のチ…
『サブマリン』伊坂幸太郎(講談社文庫) 同じ講談社から出ている『チルドレン』のシリーズ第二作です。 本書を読んでもフィクションならではのすっきりした爽快感はありません。勧善懲悪でもハッピーエンドでもなく、もやもやが残ります。 悪い人たちではな…
『不思議なシマ氏』小沼丹(幻戯書房 銀河叢書)★★★☆☆ 小沼丹の単行本未収録作品のなかから娯楽作品を集めたもの。 「剽盗と横笛」(1947)★★☆☆☆ ――五か月ぶりに町に戻ってきた。「大沢殺しでとっつかまった野郎じゃねえか」。私は酒店を追い出された。私を…
『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社) 『The Pavilion on the Links and Other Stories』Robert Louis Stevenson,2019年。 本邦初訳や初訳ヴァージョンを含む日本オリジナル短篇集。『寓話』が短篇集なので実質26篇収…
『プリズム少女~四季には絵を描いて~』八重野統摩(メディアワークス文庫) 2013年、文庫書き下ろし。 『還りの会で言ってやる』『ペンギンは空を見上げる』の著者の第二作。 地味な男子が美少女二人と恋人未満の友だち関係という、少年漫画のラブコメみた…
『アンの愛情』モンゴメリ/松本侑子訳(文春文庫) 『Anne of the Island』L. M. Montgomery,1915年。 アン・シリーズ第三作。カナダ本土の大学に進んだアンの18歳から22歳までが描かれています。 級友と過ごしている最中に空想に耽ったり(p.61)するとこ…
『アンの青春』モンゴメリ/松本侑子訳(文春文庫) 『Anne of Avonlea』L. M. Montgomery,1909年。 『赤毛のアン』の続編、完訳&訳註版です。 教師になったとはいっても、アンがまだ16歳と半分だということに驚きです。現代の感覚ではまだまだ子どもとい…
『中欧怪奇紀行』田中芳樹/赤木毅(講談社文庫) ドイツ周辺の怪奇ネタを肴に対談するという内容ですが、紀行文としても怪奇談義としても中途半端で、どうでもいい話しかしていません。 ほとんどの内容は有名な怪異の教科書的な説明をなぞっているだけで、…
『赤毛のアン』モンゴメリ/松本侑子訳(文春文庫) 『Anne of Green Gables』Lucy Maud Montgomery,1908年。 1993年に集英社から刊行された訳註&完訳シリーズが、改稿のうえ第4作以降も発売されることになりました。本書のその第1作です。 アンのクレバ…
『伊藤くんA to E』柚木麻子(幻冬舎文庫) 自意識過剰で自信家で傍若無人で共感力がなく野心家で――というキャラはこれまでの柚木作品にもいないわけではありませんでしたが、女から見たそんな男が登場しているのが本書の特徴で、とにかく気持ち悪い!頭おか…
『幻影の牙』戸川昌子(双葉文庫) 1970年初刊。 ミステリではなく経済小説でした。詐欺師でもある漁色家の男が美容院業界に狙いをつけて、狙った女と金をモノにしようとするという話なのですが、びっくりするほどつまらない内容でした。 この手の話の常とし…
山崎まどかと千野帽子が獅子文六の短篇群のなかからセレクトしたうちの「モダンガール篇」です。「断髪女中」(1938)★★★★☆ ――本多さんの家では奥さんが脾弱なのに女中に帰られて困っている。近頃は女中が払底している。やっと見つかったのは、女中のくせに…
柚木麻子のデビュー連作集。ちょっと悪ノリしすぎのものもある最近の作品とは違い、リアルで地に足の着いた登場人物たちに親しみと共感を覚えます。またシリアスな作品も書いてほしい。 「フォーゲットミー、ノットブルー」(2008)★★★★★ ――一体いつ終わるの…
俳句甲子園に出場する高校生を、章ごとに視点人物を変えて描いた作品で、文学少女や書道経験者に楽器演奏者といった個性的なメンバーがそれぞれの持ち味を活かしてチャレンジするのですが、せっかくの個性がさほど生かされていないように感じました。でもあ…
ミステリでないのはともかく、冒頭60ページにわたって続く五十代おじさんおばさんのだべりを読むのはとてつもない苦行でした。会話を通して古いタイプの映画会社について説明している……という側面もないことはないのですが、ほとんどが同窓会のノリでした…
「バクの見た夢」★★★★☆ ――ふたりが二度と会わないためには、どちらかが死ぬしかないと、結論が出た。心中をすることも、お互いの配偶者をあざむいて密会をつづけることもできない道雄と沙織里だから、そう決めたのだった。デパートの玩具売り場で娘に尋ねら…
沢村凜は非常に幅広い作風の持ち主で、デビューこそファンタジーですが、働く人と労基官に焦点を当てた『ディーセント・ワーク・ガーディアン』、タイトル通り脇役に焦点を当てたミステリ『脇役スタンド・バイ・ミー』、講談社文庫では『タソガレ』と本書『…
タイトルが印象的だった講談社ノベルス『角のないケシゴムは嘘を消せない』の全面改稿版です。別作品といっていいほど変わっているとのこと。 離婚したばかりの「俺」の部屋に逃げ込んできた透明人間との共同生活。組織に追われる透明人間に関わるうちに、主…
相変わらずタイトルだけでグッと来ます。 おまけに、著者の作品のなかでもとりわけ前向き度と本好き度の高い方です。 黒髪のお嬢様と、金髪キャバ嬢の娘――正反対の二人は、大の親友になります。 著者の作品を読んでいつも驚かされるのは、主人公たちの成長を…