『怪異雛人形』角田喜久雄(講談社大衆文学館文庫コレクション) 戦前戦後に伝奇小説・時代小説・探偵小説をものした作家の、初期捕物帳を集めた作品集。「いろはの左近」もの二篇、「女形同心」もの二篇、その他三篇から成ります。著者が平成6年まで生きて…
『雪旅籠』戸田義長(創元推理文庫) 『The Casebook of Detective Toda Sozaemon vol.2』2020年。 鮎川賞候補作『恋牡丹』の姉妹編。前作のその後の物語ではなく、前作各話の間を埋める八篇の作品集ということで、続編ではなく姉妹編ということのようです。…
『漂砂のうたう』木内昇(集英社文庫) 2010年初刊。第144回直木賞受賞作。 273ページ登場人物の台詞に、どんなにシンとしていても川や海の底では水の流れに乗って砂は動いている――とあるように、タイトルの漂砂とは底辺で暮らす人々の謂です。維新後の明治…
『見破り同心 天霧三之助』誉田龍一(徳間時代小説文庫) ミステリマガジン2019年11月号の時代ミステリ特集で刑事コロンボに挑んだ作品として紹介されていたので読んでみました。 犯人の犯行場面から始まり、予期せぬ事態に余計なことをしてしまうところは、…
『オルレアンの少女《おとめ》』シルレル/佐藤通次訳(岩波文庫) 『Die Jungfrau von Orleans』Friedrich Schiller,1801年。 『ヴィルヘルム・テル』のシラーによる、戯曲ジャンヌ・ダルクです。 百年戦争で劣勢のフランス、豪農アルクのチボーは、娘のジ…
『陰仕え 石川紋四郎』冬月剣太郎(ハヤカワ時代ミステリ文庫) ミステリマガジンの紹介文で「トミーとタペンス」が引き合いに出されていて、掲載されていた冒頭(友人の同心と共に連続辻斬りを追う紋四郎と、独自の捜査で無茶をする妻のさくら)もまさにそ…
『恋牡丹』戸田義長(創元推理文庫) 『The Casebook of Detective Toda Sozaemon』2018年。 第27回鮎川哲也賞最終候補作。英題はさしずめ『同心戸田惣左衛門捕物帳』でしょうか。現代においてはベタ過ぎる恋愛観を、江戸時代を舞台にした大河ドラマに移植す…
『Famille-Sans-Nom』Jules Verne,1889年。 ここ数年つづいているヴェルヌの新訳・初訳・復刊もののなかでは段違いに面白い作品でした。明治時代に森田思軒『無名氏』という抄訳がありますが、恐らく完訳は初めてだと思います。 副題にあるとおり、カナダの…
「町入能」★★★★☆ ――大工の初五郎は、朝な夕なに江戸城の富士見櫓を仰ぎ見ていた。お城の御用達の大工になれば、お城に入る機会はある。だが長男に大工の修行をさせたかったし、今の親方に恩もある。大家の幸右衛門から、町入能の話があった。勅使に見せる御…
著者の最高傑作、だと思います。 歴史的にも百年戦争という大きな節目を迎えたため、『カペー朝』と比べてもそれだけで読み物として格段に面白い。 著者の小説にあるような余計な心理描写・人物描写がないので、読んでいる途中に停滞することなくぐんぐん読…
『日本の1/2革命』池上彰・佐藤賢一(集英社新書) フランス革命を二段階の革命と捉え、対して日本は明治維新以来いまだ1/2の革命史か経験していない――という佐藤氏の持論に基づく対談集。初版は2011年6月の発行なので、民主党による政権交代と東日本…
『幽剣抄』菊地秀行(角川文庫)「影女房」★★★★☆ ――偏屈で通っている久馬のところに、女が通っているらしい。大堀進之介が久馬を訪れると、女の気配はあるのに姿はない。大堀は一計を案じて夜に訪れてみれば、女というのは辻斬りにあった織物問屋の娘。久馬…
『ボルジア家風雲録(上・下)』アレクサンドル・デュマ/吉田良子訳(イースト・プレス) 『Crimes célèbres』「Les Borgia」Alexandre Dumas,1840 この作品には二つの特徴があります。一つには「評伝」だということ、二つ目は「ロマンスや冒険」が描かれ…
『La Tulipe noire』Alexandre Dumas,1850年。 カバーあらすじには「黒いチューリップの創造に没頭する青年コルネリウス」とありますし、あまり面白いという評判も聞かなかったので、チューリップ栽培家がひたすら研究を重ねるだけの地味〜な話なのかと思っ…
文学作品を通して十九世紀のフランスの社会を見通そうとする鹿島氏の一連の仕事の原点、新装版。 あらすじ&解説になっているので、未読者でもストーリーの流れを把握できるうえに作品の理解度も深まるという、一粒で二倍おいしい作品です。 岩波文庫版にも…
著者自身あとがきで『馬車が買いたい!』の続編と書いているとおり、本書もまた十九世紀フランス社会のリファレンス本として、また読み物として非常にためになる一冊でした。 日本にはなじみのない「代訴人」はもちろんのこと、警察の階級や、二種類の医者の…
ふくろうの本シリーズではまだフランス革命は出ていなかったっけかな?といぶかりつつ手に取ってみたところ、なるほど最新の研究が反映されているのですね。 絶対王制とは何なのか、フランス革命はブルジョワ革命だったのか――といったところから革命期の歴史…
かげりの見えつつある実在の寵姫の立場を、うまく事件にからめてあるところは面白いし、その思惑も含んだ複数の事件が錯綜していたという真相も見事なのだけれど、せっかくの複数の事件を解き明かしていく手際がごちゃごちゃしているうえに必然性があるよう…
ついに完結!なのだが、どうも今までのと比べると面白くない。原因はわたしがこの時代の美術をあまり好きではない、という一点に尽きるのだろうけれど。 井上安治の回やアール・デコの回などはナルホド!と思ったりもしたものだが、黒田清輝とか梅原龍三郎な…
『Marie Antoinette』Stefan Zweig,1932年。 たまたまこの時期のフランスについて調べていたので、基本の資料として買ったのですが、意外なことに読み物としてもたいへん面白く、ちょっと得した気分でした。 宮廷でマリー・アントワネットをとりまく周囲の…
アカイアの王アガメムノンが、トロイアの神官クリュセスの娘クリュセイスを奪ったせいで、アカイア軍はクリュセスの呪詛を受け窮地に立たされた。アカイア一の英雄アキレウスが、クリュセイスを返還するよう進言すると、アガメムノンは受け入れる代わりにア…