『十和田操作品集』十和田操(冬樹社)★★★☆☆

『十和田操作品集』十和田操(冬樹社) 北村薫・宮部みゆき編『名短篇、さらにあり』に収録されていた「押入の中の鏡花先生」が面白かったのでほかの作品も読んでみることにしました。著者自選。その鏡花に最初に評価されたという「饒舌家ズボン氏の話」は未…

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★☆

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚) 『黄泥街』残雪,1986年。 残雪のデビュー作。 幻想というよりはラチガイ。 マジック・リアリズムというよりは、中国の田舎の現実(の誇張)。 会話も理屈も成立しないよ…

『丘の上 豊島与志雄メランコリー幻想集』豊島与志雄/長山靖生編(彩流社)★★★☆☆

『レ・ミゼラブル』翻訳で有名な著者の作品集です。『文豪怪談傑作選・昭和篇』に二篇が収録されていたので、読んでみました。徹頭徹尾内省的で、ちょっとはずした結末をつける作風は、繊細とうじうじの間の揺れ幅が大きかったです。 「蠱惑――瞑目して坐せる…

『終点のあの子』柚木麻子(文春文庫)★★★★★

柚木麻子のデビュー連作集。ちょっと悪ノリしすぎのものもある最近の作品とは違い、リアルで地に足の着いた登場人物たちに親しみと共感を覚えます。またシリアスな作品も書いてほしい。 「フォーゲットミー、ノットブルー」(2008)★★★★★ ――一体いつ終わるの…

『耳瓔珞 女心についての十篇』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★★

安野モヨコ選画シリーズ第2弾。なぜか初出の記載がなくなってしまいました。 「桃のある風景」岡本かの子(1937)★★★★☆ ――肉体的とも精神的とも言い難いあこがれが、しっきりなしに自分に渇きを覚えさせた。「蝙蝠傘を出して下さい。河を渡って桃を見に行く…

『女体についての八篇 晩菊』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★☆

読書好きで知られる安野モヨコ氏によるアンソロジー第1弾。各篇に挿絵が一葉ずつ描かれています。 「美少女」太宰治(1939)★★★★☆ ――甲府市の近くの音声が皮膚病に特効を有する由を聞いたので、家内を毎日通わせることにした。ともかく別天地であるから、あ…

『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ/木村榮一訳(国書刊行会 文学の冒険)★★★★★

『La Casa de Los Espiritus』Isabel Allende,1982年。 語り自体が予言的だ、というのはあります。例えば第一章の冒頭でまず犬が来たことが書かれ、しかるのち「以後」「九年間」と将来のことが語られます。こうした語られ方が、あらかじめすべてが定められ…

『若かった日々』レベッカ・ブラウン/柴田元幸訳(新潮文庫)★★★★☆

『The End of Youth』Rebecca Brown,2003年。 「天国」(Heaven)★★★★☆ ――最近、天国のことをよく考える。あるバージョンでは、天国は庭だ。菜園には年配の女性がいる。もうひとつのバージョンでは、天国は野原だ。鴨狩りの服装をした男がいる。 天国の描写…

『婦系図』泉鏡花(新潮文庫)★★★★☆

早瀬主税の愛人お蔦が酸漿を吹いているところに、魚売りのめ組の惣介が顔を出した。主税から頼まれたのに学士・河野英吉のところに魚を売らずに喧嘩してきたらしい。折りしも静岡から出てきた河野の母親が、ガラの悪いめ組の出入りを断りに来たところだった…

『ナボコフの文学講義』(上)ウラジーミル・ナボコフ/野島秀勝訳(河出文庫)★★★★☆

『Lectures on Literature』Vladimir Nabokov,1980年。 以前は入手困難だった『ヨーロッパ文学講義』の改題文庫化。 「良き読者と良き作家」 あの有名な「ひとは書物を読むことはできない、ただ再読することができるだけだ」を含む評論。 「ジェイン・オー…

『七時間半』獅子文六(ちくま文庫)★★★☆☆

東京−大阪間を走る特急“ちどり”内で起こる七時間半の出来事を描いた群像劇。 中心となる出来事は二つあります。一つには、食堂係の純日本人的小町藤倉サヨ子と、サヨ子にプロポーズされたコック助手の矢板喜一の恋の行方です。互いに憎からず思いながらも、…

『文学全集を立ちあげる』丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士(文春文庫)★★★☆☆

この手の企画って、たいていはページ数なんかの関係で、ほとんどタイトルを挙げるだけで終わっちゃったりするものなのだけれど、世界文学編に関しては残念ながら本書もそんな感じでした。まあ世界文学の場合はほぼ評価も定まっちゃってて、オリジナリティを…

『アッシュベイビー』金原ひとみ(集英社文庫)★★★★☆

読みやすいからすいすい読めるんだけど、初めにうおっと思ったのは果物ナイフのシーンでした。 むしゃくしゃしてどうにもならない気持を饒舌体で吐き出すように抉るように書きながら、同時にその文体で書かれた足から血が噴き出すシーンを笑いまみれに描き出…

『蹴りたい背中』綿矢りさ(河出文庫)★★★★☆

今ごろになって読みました。 正直言ってこんなに面白い作品だとは思いませんでした。最初のほんの何ページかで、高校という特殊すぎる世界の空気を伝えてしまえる。まずはこの、世界を見る目とそれを表現する技術の的確さに引き込まれました。五十、六十でこ…

『エトロフの恋 無限カノン3』島田雅彦(新潮文庫)★★★★☆

ついに完結編。恋の〈その後〉を描く――とは言ってももちろん、恋は終わってはいない。 けれど表面上は、ぷつんと途切れてしまっています。カヲルの一人称による、カヲルだけの物語。これまでの登場人物はほとんど登場しない。出てくるのはカヲルが暮らす択捉…

『美しい魂 無限カノン2』島田雅彦(新潮文庫)★★★★★

作中で皇太子自身が、いまここには『源氏物語』の世界はないと述べる場面がある。ああ、そうか。これって源氏物語でもあったのか、と気づく。皇太子を一人の男として描くことが不敬に当たるのならば、これは確かに充分な不敬小説と呼べる。ここにいるのは、…

『石川淳長篇小説選』石川淳/菅野昭正編(ちくま文庫)★★★★☆

「白描」★★★★☆ ――そうだ、彫刻こそ自分のえらぶべき仕事なのだと少年はひそかに決心しつつ、そのほうが美術家的だと名を金吾と改めた。兵作としては留守居のつもりで、金吾をリイピナ夫人のもとにやった。金吾が興奮したには理由がある。建築家のクラウス博…

『石川淳短篇小説選』石川淳/菅野昭正編(ちくま文庫)★★★★★

やっぱ石川淳はすごいよなあ。上手い上手くない、面白い面白くない以前に、パワーがある。圧倒的な意思と尽きせぬパワー。かっこいい。 活字がほかの文庫と違うんだけど、どうしたんだろう。慣れるまで読みづらかった。昔風?「マルスの歌」★★★★★ ――「わーっ…

『書評家〈狐〉の読書遺産』山村修(文春新書)★★★★☆

読んでみたいと思わせるのがやはり書評家の力というものであって、だから普段自分が手に取らないような本の紹介にこそ、著者の魅力が詰まっているというべきでしょう。 句に詠まれた「スカアト」が如何なるものであるのかを執拗に追求する山本健吉『俳句の世…

『彗星の住人 無限カノン1』島田雅彦(新潮文庫)★★★★★

島田雅彦の作品はマニアックな印象があったのだけれど、ここにきて大河ドラマ的にスケールの大きな王道本格小説です。 アンジュという名前の日本人を登場させたり、プーさんがあくびをしたような音楽だの、巨乳好きの御曹司だの、人を食ったようなところは相…

『文壇アイドル論』斎藤美奈子(文春文庫)★★★★☆

帯の惹句には「『作家論』論」とある。ははあ、なるほど本書の内容をぴたりと言い当てていると思います。 単なる作品・作家の再評価とかそういうんではなくって、当時の批評家たちの言説とブームを論じることで、その作家・作品の特徴自体がすっきり浮かび上…

『文学賞メッタ斬り! 2007年版』大森望・豊崎由美(パルコ出版)★★★★☆

3冊目である本書から、「2007年版」と相成りました。予定通りに行けば、これからは年に一回出るのかな……? 今回は中原昌也がゲスト。前回の島田雅彦といい、今回もゴシップ的に(も)楽しめる。 本文の方は、対象作品そのものよりも、相も変わらず選考委員…

『ぼくの人生案内』田村隆一(光文社知恵の森文庫)★★★★★

文庫で出してくれるのはありがたいけど、知恵の森文庫……戦後最高の詩人のエッセイという位置づけではなく、あくまで実用系そのものずばりの人生案内という位置づけなのだネ。 しかしけっこう実用的かもと思ったりもする。引っ越し先について悩んでいる人に対…

『世界は村上春樹をどう読むか A Wlid Haruki Chase』柴田元幸・沼野充義他(文藝春秋)★★★★☆

言っちゃ悪いが、文化的に成熟していない国というのは、おしなべて読みも浅い。佐藤亜紀氏が日記で『テヘランでロリータを読む』を批判していたけど、本書みたいなのを併せ読むと、しょうがないのかな、という気はする。まだまだこれからの国なのだ。それに…

『サウンドトラック』(下)古川日出男(集英社文庫)★★★★☆

どうなることかと思った上巻も終わり、下巻を読み始めたらめっぽう面白いので助かった。不自然な文体もいつの間にかなくなっている。 もはやトウタの話でもヒツジコの話でもない。二人とも狂言回しに過ぎなくなっている。もちろんレニの話でもピアスの話でも…

『サウンドトラック』(上)古川日出男(集英社文庫)★★★☆☆

古川日出男っておしゃれでもかっこよくもなく、ださださの剛腕なのかも、って思った作品。 はじめて読んだのは『ルート350』だったけど、結果的にはそれでよかったかも。肩の力を抜いた感じの、それこそおしゃれな作品群。次に読んだのが『アラビアの夜の…

『翻訳教室』柴田元幸(新書館)★★★★★

こういう風に原文、学生の訳、柴田元幸訳、既訳が並べられていると、傍目八目とでもいえばいいのか、わるいところといいところが不思議とよくわかる。そこに柴田元幸の解説があって、微妙なニュアンスとか絶対暗記の常識とかも身につくし。 よくわかるという…

『小説のストラテジー』佐藤亜紀(青土社)★★★★★

佐藤亜紀による、小説の読み方講座。 「全てを判らなければならない、というのは、裏返せば、理解力を欠いた事柄も判るべきだ、ということになります。当然、判る訳はない。ということは、実際には理解力を欠いた事柄さえ理解しているふりをしなければならな…

『ちんちん電車』獅子文六(河出文庫)★★★★☆

味わい深いノスタルジックな枯淡の随筆かと思っていたら、かなり爆笑でした。いや、もちろん、昭和の匂いの懐かしい名エッセイには違いないのですが。 著者は言います。「私は、東京の乗物の中で、都電が一番好きである」。なぜなら揺れないし、空いているし…

『太陽の塔』森見登美彦(新潮文庫)★★★★★

何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。この手記を始めるにあたって、私はどこで生まれたとか、どんな愛すべき幼稚園児だったかとか、高校時代の初恋はいかにして始まりいかにして終わったかとか、いわ…


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