『暗闇にレンズ』高山羽根子(東京創元社)★★★☆☆

『暗闇にレンズ』高山羽根子(東京創元社) 現代を舞台に監視カメラの死角で自撮りする女子学生二人が、やがて「エンバーミング」の映像を撮り始める「Side A」。 明治時代に始まり現代にまで連なる、カメラと映画に関わる嘉納一族の歴史をひもとく「Side B…

『20世紀ラテンアメリカ傑作選』野谷文昭編訳(岩波文庫)★★★☆☆

『20世紀ラテンアメリカ傑作選』野谷文昭編訳(岩波文庫) 一番新しい作品で1991年、古いものだと今から百年以上前の1912年の作品が収録されています。テーマごとに四つの部に分けられていますが、各テーマの範囲が広すぎてテーマ別に分ける必要性が感じられ…

『夏の花・心願の国』原民喜(新潮文庫)★★☆☆☆

『夏の花・心願の国』原民喜(新潮文庫) 原民喜というと原爆文学というイメージしかありません。編者の大江健三郎も一作家一テーマという持論によって戦後作品だけを採用しています。わたしの持っている『新潮文庫20世紀の100冊』というシリーズはカバーに…

『アスペクツ・オブ・ラブ ガーネット傑作集II』デイヴィッド・ガーネット/新庄哲夫訳(河出書房新社)★★★★☆

『アスペクツ・オブ・ラブ ガーネット傑作集II』デイヴィッド・ガーネット/新庄哲夫訳(河出書房新社)★★★★☆『Aspects of Love』David Garnett,1955年。 舞台が散々な結果となり、次の舞台まで文無しで過ごさなければならなくなった女優のローズは、熱心な…

『岡本かの子 アムール幻想傑作集 美少年』長山靖生編(彩流社)★★★★☆

『岡本かの子 アムール幻想傑作集 美少年』長山靖生編(彩流社) 『Beauty Boy』2019年。 復刻アンソロジー・シリーズの一冊。 「豆腐買い」(1934)★★★★☆ ――加奈子は潜戸を勇んで開けた。永年居慣れた西洋の街や外景と何も彼もが比較される。電柱を見上げる…

『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社)★★★☆☆

『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社) 『The Pavilion on the Links and Other Stories』Robert Louis Stevenson,2019年。 本邦初訳や初訳ヴァージョンを含む日本オリジナル短篇集。『寓話』が短篇集なので実質26篇収…

『龍蜂集 澁澤龍彦泉鏡花セレクションI』泉鏡花/澁澤龍彦編/山尾悠子解説/小村雪岱装釘(国書刊行会)★★★☆☆

『龍蜂集 澁澤龍彦泉鏡花セレクションI』泉鏡花/澁澤龍彦編/山尾悠子解説/小村雪岱装釘(国書刊行会) 泉鏡花の再評価前、全集も品切れだったころ、種村季弘と澁澤龍彦による鏡花選集の企画が立ち上がったものの、企画は途中で立ち消えとなり、澁澤によ…

『体温 多田尋子小説集』多田尋子(書肆汽水域)★★★☆☆

『体温 多田尋子小説集』多田尋子(書肆汽水域) 約30年前、芥川賞候補に6度なったことのある著者の、候補作「体温」「単身者たち」+「秘密」の全3作を収録した作品集です。著者あとがきに書かれた復刊の経緯によると、どうやら小説書きを引退しているら…

『『罪と罰』を読まない』岸本佐知子・三浦しをん・吉田篤弘・吉田浩美(文春文庫)★★★☆☆

『『罪と罰』を読まない』岸本佐知子・三浦しをん・吉田篤弘・吉田浩美(文春文庫) 何となくは知っているけれど何となくしか知らない名作を、最低限の知識だけをもとに、読まないままで内容を推し量ってみようという、聞くだけで面白そうな企画です。最後に…

『諸国物語』(上)森鷗外訳(ちくま文庫)★★★☆☆

『諸国物語』(上)森鷗外訳(ちくま文庫) 森鴎外訳による世界各国のアンソロジー。 「尼」ヴィーズ("Kyddet",Gustav Wied,1890)★★★☆☆ ――ブレドガアデからの帰道。兄とおれである。歩いていると、尼が二人向うから来た。年上の方は太っていて、若い方は…

『不機嫌な女たち キャサリン・マンスフィールド傑作短篇集』キャサリン・マンスフィールド/芹澤恵訳(白水社 エクス・リブリス・クラシックス)★★★★★

『The Collected Fiction of Katherine Mansfield』 不機嫌な女たちという作品が収録されているわけではなく、従来のマンスフィールド観とは一線を画す〈不機嫌な女たち〉というキーワードで編集した日本オリジナル作品集です。作品自体はこれまでの翻訳傑作…

『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ/米川良夫訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★★

『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ/米川良夫訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚) 『Il cavaliere inesistente』Italo Calvino,1959年。 鎧のなかに肉体は存在せず意思の力によって存在している――という観念的な設定からは思いも寄らないユーモア小…

『月の文学館 月の人の一人とならむ』和田博文編(ちくま文庫)★★★☆☆

『月の文学館 月の人の一人とならむ』和田博文編(ちくま文庫) 月がテーマの日本文学アンソロジー。ヒグチユウコによるカバーイラストに味があります。月の形を巻き貝という生き物で表現する発想と目の表情。姉妹編に『星の文学館』も。学者さんが編纂して…

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー/黒原敏行訳(ハヤカワepi文庫)★★★★★

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー/黒原敏行訳(ハヤカワepi文庫) 『The Road』Cormac McCarthy,2006年。 荒廃した世界で旅を続けながら生きてゆく父と息子の物語です。 いわゆる終末ものの多くで描かれるのが、変容してしまった世界であったりサバ…

『十和田操作品集』十和田操(冬樹社)★★★☆☆

『十和田操作品集』十和田操(冬樹社) 北村薫・宮部みゆき編『名短篇、さらにあり』に収録されていた「押入の中の鏡花先生」が面白かったのでほかの作品も読んでみることにしました。著者自選。その鏡花に最初に評価されたという「饒舌家ズボン氏の話」は未…

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★☆

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚) 『黄泥街』残雪,1986年。 残雪のデビュー作。 幻想というよりはラチガイ。 マジック・リアリズムというよりは、中国の田舎の現実(の誇張)。 会話も理屈も成立しないよ…

『丘の上 豊島与志雄メランコリー幻想集』豊島与志雄/長山靖生編(彩流社)★★★☆☆

『レ・ミゼラブル』翻訳で有名な著者の作品集です。『文豪怪談傑作選・昭和篇』に二篇が収録されていたので、読んでみました。徹頭徹尾内省的で、ちょっとはずした結末をつける作風は、繊細とうじうじの間の揺れ幅が大きかったです。 「蠱惑――瞑目して坐せる…

『終点のあの子』柚木麻子(文春文庫)★★★★★

柚木麻子のデビュー連作集。ちょっと悪ノリしすぎのものもある最近の作品とは違い、リアルで地に足の着いた登場人物たちに親しみと共感を覚えます。またシリアスな作品も書いてほしい。 「フォーゲットミー、ノットブルー」(2008)★★★★★ ――一体いつ終わるの…

『耳瓔珞 女心についての十篇』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★★

安野モヨコ選画シリーズ第2弾。なぜか初出の記載がなくなってしまいました。 「桃のある風景」岡本かの子(1937)★★★★☆ ――肉体的とも精神的とも言い難いあこがれが、しっきりなしに自分に渇きを覚えさせた。「蝙蝠傘を出して下さい。河を渡って桃を見に行く…

『女体についての八篇 晩菊』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★☆

読書好きで知られる安野モヨコ氏によるアンソロジー第1弾。各篇に挿絵が一葉ずつ描かれています。 「美少女」太宰治(1939)★★★★☆ ――甲府市の近くの音声が皮膚病に特効を有する由を聞いたので、家内を毎日通わせることにした。ともかく別天地であるから、あ…

『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ/木村榮一訳(国書刊行会 文学の冒険)★★★★★

『La Casa de Los Espiritus』Isabel Allende,1982年。 語り自体が予言的だ、というのはあります。例えば第一章の冒頭でまず犬が来たことが書かれ、しかるのち「以後」「九年間」と将来のことが語られます。こうした語られ方が、あらかじめすべてが定められ…

『若かった日々』レベッカ・ブラウン/柴田元幸訳(新潮文庫)★★★★☆

『The End of Youth』Rebecca Brown,2003年。 「天国」(Heaven)★★★★☆ ――最近、天国のことをよく考える。あるバージョンでは、天国は庭だ。菜園には年配の女性がいる。もうひとつのバージョンでは、天国は野原だ。鴨狩りの服装をした男がいる。 天国の描写…

『婦系図』泉鏡花(新潮文庫)★★★★☆

早瀬主税の愛人お蔦が酸漿を吹いているところに、魚売りのめ組の惣介が顔を出した。主税から頼まれたのに学士・河野英吉のところに魚を売らずに喧嘩してきたらしい。折りしも静岡から出てきた河野の母親が、ガラの悪いめ組の出入りを断りに来たところだった…

『ナボコフの文学講義』(上)ウラジーミル・ナボコフ/野島秀勝訳(河出文庫)★★★★☆

『Lectures on Literature』Vladimir Nabokov,1980年。 以前は入手困難だった『ヨーロッパ文学講義』の改題文庫化。 「良き読者と良き作家」 あの有名な「ひとは書物を読むことはできない、ただ再読することができるだけだ」を含む評論。 「ジェイン・オー…

『七時間半』獅子文六(ちくま文庫)★★★☆☆

東京−大阪間を走る特急“ちどり”内で起こる七時間半の出来事を描いた群像劇。 中心となる出来事は二つあります。一つには、食堂係の純日本人的小町藤倉サヨ子と、サヨ子にプロポーズされたコック助手の矢板喜一の恋の行方です。互いに憎からず思いながらも、…

『文学全集を立ちあげる』丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士(文春文庫)★★★☆☆

この手の企画って、たいていはページ数なんかの関係で、ほとんどタイトルを挙げるだけで終わっちゃったりするものなのだけれど、世界文学編に関しては残念ながら本書もそんな感じでした。まあ世界文学の場合はほぼ評価も定まっちゃってて、オリジナリティを…

『アッシュベイビー』金原ひとみ(集英社文庫)★★★★☆

読みやすいからすいすい読めるんだけど、初めにうおっと思ったのは果物ナイフのシーンでした。 むしゃくしゃしてどうにもならない気持を饒舌体で吐き出すように抉るように書きながら、同時にその文体で書かれた足から血が噴き出すシーンを笑いまみれに描き出…

『蹴りたい背中』綿矢りさ(河出文庫)★★★★☆

今ごろになって読みました。 正直言ってこんなに面白い作品だとは思いませんでした。最初のほんの何ページかで、高校という特殊すぎる世界の空気を伝えてしまえる。まずはこの、世界を見る目とそれを表現する技術の的確さに引き込まれました。五十、六十でこ…

『エトロフの恋 無限カノン3』島田雅彦(新潮文庫)★★★★☆

ついに完結編。恋の〈その後〉を描く――とは言ってももちろん、恋は終わってはいない。 けれど表面上は、ぷつんと途切れてしまっています。カヲルの一人称による、カヲルだけの物語。これまでの登場人物はほとんど登場しない。出てくるのはカヲルが暮らす択捉…

『美しい魂 無限カノン2』島田雅彦(新潮文庫)★★★★★

作中で皇太子自身が、いまここには『源氏物語』の世界はないと述べる場面がある。ああ、そうか。これって源氏物語でもあったのか、と気づく。皇太子を一人の男として描くことが不敬に当たるのならば、これは確かに充分な不敬小説と呼べる。ここにいるのは、…


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