『七時間半』獅子文六(ちくま文庫)★★★☆☆

東京−大阪間を走る特急“ちどり”内で起こる七時間半の出来事を描いた群像劇。 中心となる出来事は二つあります。一つには、食堂係の純日本人的小町藤倉サヨ子と、サヨ子にプロポーズされたコック助手の矢板喜一の恋の行方です。互いに憎からず思いながらも、…

『アッシュベイビー』金原ひとみ(集英社文庫)★★★★☆

読みやすいからすいすい読めるんだけど、初めにうおっと思ったのは果物ナイフのシーンでした。 むしゃくしゃしてどうにもならない気持を饒舌体で吐き出すように抉るように書きながら、同時にその文体で書かれた足から血が噴き出すシーンを笑いまみれに描き出…

『蹴りたい背中』綿矢りさ(河出文庫)★★★★☆

今ごろになって読みました。 正直言ってこんなに面白い作品だとは思いませんでした。最初のほんの何ページかで、高校という特殊すぎる世界の空気を伝えてしまえる。まずはこの、世界を見る目とそれを表現する技術の的確さに引き込まれました。五十、六十でこ…

『エトロフの恋 無限カノン3』島田雅彦(新潮文庫)★★★★☆

ついに完結編。恋の〈その後〉を描く――とは言ってももちろん、恋は終わってはいない。 けれど表面上は、ぷつんと途切れてしまっています。カヲルの一人称による、カヲルだけの物語。これまでの登場人物はほとんど登場しない。出てくるのはカヲルが暮らす択捉…

『美しい魂 無限カノン2』島田雅彦(新潮文庫)★★★★★

作中で皇太子自身が、いまここには『源氏物語』の世界はないと述べる場面がある。ああ、そうか。これって源氏物語でもあったのか、と気づく。皇太子を一人の男として描くことが不敬に当たるのならば、これは確かに充分な不敬小説と呼べる。ここにいるのは、…

『石川淳長篇小説選』石川淳/菅野昭正編(ちくま文庫)★★★★☆

「白描」★★★★☆ ――そうだ、彫刻こそ自分のえらぶべき仕事なのだと少年はひそかに決心しつつ、そのほうが美術家的だと名を金吾と改めた。兵作としては留守居のつもりで、金吾をリイピナ夫人のもとにやった。金吾が興奮したには理由がある。建築家のクラウス博…

『石川淳短篇小説選』石川淳/菅野昭正編(ちくま文庫)★★★★★

やっぱ石川淳はすごいよなあ。上手い上手くない、面白い面白くない以前に、パワーがある。圧倒的な意思と尽きせぬパワー。かっこいい。 活字がほかの文庫と違うんだけど、どうしたんだろう。慣れるまで読みづらかった。昔風?「マルスの歌」★★★★★ ――「わーっ…

『書評家〈狐〉の読書遺産』山村修(文春新書)★★★★☆

読んでみたいと思わせるのがやはり書評家の力というものであって、だから普段自分が手に取らないような本の紹介にこそ、著者の魅力が詰まっているというべきでしょう。 句に詠まれた「スカアト」が如何なるものであるのかを執拗に追求する山本健吉『俳句の世…

『彗星の住人 無限カノン1』島田雅彦(新潮文庫)★★★★★

島田雅彦の作品はマニアックな印象があったのだけれど、ここにきて大河ドラマ的にスケールの大きな王道本格小説です。 アンジュという名前の日本人を登場させたり、プーさんがあくびをしたような音楽だの、巨乳好きの御曹司だの、人を食ったようなところは相…

『文壇アイドル論』斎藤美奈子(文春文庫)★★★★☆

帯の惹句には「『作家論』論」とある。ははあ、なるほど本書の内容をぴたりと言い当てていると思います。 単なる作品・作家の再評価とかそういうんではなくって、当時の批評家たちの言説とブームを論じることで、その作家・作品の特徴自体がすっきり浮かび上…

『文学賞メッタ斬り! 2007年版』大森望・豊崎由美(パルコ出版)★★★★☆

3冊目である本書から、「2007年版」と相成りました。予定通りに行けば、これからは年に一回出るのかな……? 今回は中原昌也がゲスト。前回の島田雅彦といい、今回もゴシップ的に(も)楽しめる。 本文の方は、対象作品そのものよりも、相も変わらず選考委員…

『ぼくの人生案内』田村隆一(光文社知恵の森文庫)★★★★★

文庫で出してくれるのはありがたいけど、知恵の森文庫……戦後最高の詩人のエッセイという位置づけではなく、あくまで実用系そのものずばりの人生案内という位置づけなのだネ。 しかしけっこう実用的かもと思ったりもする。引っ越し先について悩んでいる人に対…

『世界は村上春樹をどう読むか A Wlid Haruki Chase』柴田元幸・沼野充義他(文藝春秋)★★★★☆

言っちゃ悪いが、文化的に成熟していない国というのは、おしなべて読みも浅い。佐藤亜紀氏が日記で『テヘランでロリータを読む』を批判していたけど、本書みたいなのを併せ読むと、しょうがないのかな、という気はする。まだまだこれからの国なのだ。それに…

『サウンドトラック』(下)古川日出男(集英社文庫)★★★★☆

どうなることかと思った上巻も終わり、下巻を読み始めたらめっぽう面白いので助かった。不自然な文体もいつの間にかなくなっている。 もはやトウタの話でもヒツジコの話でもない。二人とも狂言回しに過ぎなくなっている。もちろんレニの話でもピアスの話でも…

『サウンドトラック』(上)古川日出男(集英社文庫)★★★☆☆

古川日出男っておしゃれでもかっこよくもなく、ださださの剛腕なのかも、って思った作品。 はじめて読んだのは『ルート350』だったけど、結果的にはそれでよかったかも。肩の力を抜いた感じの、それこそおしゃれな作品群。次に読んだのが『アラビアの夜の…

『翻訳教室』柴田元幸(新書館)★★★★★

こういう風に原文、学生の訳、柴田元幸訳、既訳が並べられていると、傍目八目とでもいえばいいのか、わるいところといいところが不思議とよくわかる。そこに柴田元幸の解説があって、微妙なニュアンスとか絶対暗記の常識とかも身につくし。 よくわかるという…

『小説のストラテジー』佐藤亜紀(青土社)★★★★★

佐藤亜紀による、小説の読み方講座。 「全てを判らなければならない、というのは、裏返せば、理解力を欠いた事柄も判るべきだ、ということになります。当然、判る訳はない。ということは、実際には理解力を欠いた事柄さえ理解しているふりをしなければならな…

『ちんちん電車』獅子文六(河出文庫)★★★★☆

味わい深いノスタルジックな枯淡の随筆かと思っていたら、かなり爆笑でした。いや、もちろん、昭和の匂いの懐かしい名エッセイには違いないのですが。 著者は言います。「私は、東京の乗物の中で、都電が一番好きである」。なぜなら揺れないし、空いているし…

『太陽の塔』森見登美彦(新潮文庫)★★★★★

何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。この手記を始めるにあたって、私はどこで生まれたとか、どんな愛すべき幼稚園児だったかとか、高校時代の初恋はいかにして始まりいかにして終わったかとか、いわ…

『熊の場所』舞城王太郎(講談社文庫) ★★★★★

単行本を買って持っているのに、読みそびれているうちに文庫化されてしまった。単行本は表紙とカバーのさわり心地が面白いし、舞城イラストも入っているから、これはこれでいいか、と思いながら文庫を購入し読了。やっぱ文庫の方が読みやすいし。「熊の場所…

『イリアス トロイアで戦った英雄たちの物語』アレッサンドロ・バリッコ(白水社)★★★★★

アカイアの王アガメムノンが、トロイアの神官クリュセスの娘クリュセイスを奪ったせいで、アカイア軍はクリュセスの呪詛を受け窮地に立たされた。アカイア一の英雄アキレウスが、クリュセイスを返還するよう進言すると、アガメムノンは受け入れる代わりにア…

『我が名はアラム』サローヤン(福武文庫、三浦朱門訳)

サブカル系の雑誌とかではなく、文芸ものの単行本でここまでひどい本は初めてだった。誤字・脱字が多い。訳者が最低(訳文が最低、解説の日本語が最低、解説の論旨が最低)。 文章についちゃ人にどうこう言えるレベルじゃないけどさ。でも本書の訳者はお金も…

「イノック・アーデン」テニスン

幡谷正雄訳。「物語倶楽部」のテキストを拝読。今さらながらに初めて読みました。キャロルを訳したりしているくせに、テニスンの詩を読んだことなかったんです。 面白かった。詩の感想にしてはヘンな言い方かもしれないけど、面白かった。 『伊勢物語』第二…

「仇討三態」菊池寛

ちくま文学の森6『思いがけない話』より 〈菊池寛〉という作家は思い込みの激しい正義漢というイメージがある。そのイメージからして、〈仇討〉というものに肯定的であるのに違いない、という先入観をもって読み進めました。 そのように読んでみると、一見…


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