『カラマーゾフの兄弟 全5巻』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)★★★☆☆

『カラマーゾフの兄弟 全5巻』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)★★★☆☆ 『Братья Карамазовы』Ф. М. Достоевский,1880年。 『罪と罰』と並ぶドストエフスキーの代表作、ではありますが、曲がりなりにも初めからピカレスクや犯罪小説風の…

『罪と罰3』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆

『罪と罰3』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ 『Преступление и наказание』Федор Михайлович Достоевский,1866年。 最終巻も第2巻と同様に雑多なエピソードが集まっていますが、第2巻ほど散漫な印象はなく、一つ一つのエピソー…

『罪と罰2』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)★★☆☆☆

『罪と罰2』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫) 『Преступление и наказание』Федор Михайлович Достоевский,1866年。 2巻はかなり取っ散らかっていました。 前巻でドラマチックに登場した母と妹ですが、家族の口からもラスコーリニコフ…

『罪と罰1』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)★★★☆☆

『罪と罰1』ドストエフスキー/亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫) 『Преступление и наказание』Федор Михайлович Достоевский,1866年。 冒頭で「あれ」の実行を前に逡巡する主人公ラスコーリニコフの姿は、なるほど倒叙ミステリのようで、そういう評価が…

『挑発する少女小説』斎藤美奈子(河出新書)★★★☆☆

『挑発する少女小説』斎藤美奈子(河出新書) 少女小説9篇について、大人の目で、そして現代の目で読み直したものです。わたしが少女小説を好きなのは、思春期特有の繊細な心理描写であったり、健気で凜とした芯の通った主人公が格好いいからであったりしま…

『あなたの自伝、お書きします』ミュリエル・スパーク/木村政則訳(河出書房新社)★★★★☆

『あなたの自伝、お書きします』ミュリエル・スパーク/木村政則訳(河出書房新社) 『Loitering with Intent』Muriel Spark,1981年。 名誉毀損を恐れずに自らの人生を記録したいという俗物たちが、小説家志望の語り手フラー・トールボットを雇って自伝のサ…

『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』パオロ・コニェッティ他/関口英子、橋本勝雄、アンドレア・ラオス編(国書刊行会)★★★☆☆

『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』パオロ・コニェッティ他/関口英子、橋本勝雄、アンドレア・ラオス編(国書刊行会) 日本オリジナルの21世紀イタリア文学アンソロジー。 小野正嗣による序文が収録されていますが、内容にがっつり踏み込…

『暗闇にレンズ』高山羽根子(東京創元社)★★★☆☆

『暗闇にレンズ』高山羽根子(東京創元社) 現代を舞台に監視カメラの死角で自撮りする女子学生二人が、やがて「エンバーミング」の映像を撮り始める「Side A」。 明治時代に始まり現代にまで連なる、カメラと映画に関わる嘉納一族の歴史をひもとく「Side B…

『20世紀ラテンアメリカ傑作選』野谷文昭編訳(岩波文庫)★★★☆☆

『20世紀ラテンアメリカ傑作選』野谷文昭編訳(岩波文庫) 一番新しい作品で1991年、古いものだと今から百年以上前の1912年の作品が収録されています。テーマごとに四つの部に分けられていますが、各テーマの範囲が広すぎてテーマ別に分ける必要性が感じられ…

『夏の花・心願の国』原民喜(新潮文庫)★★☆☆☆

『夏の花・心願の国』原民喜(新潮文庫) 原民喜というと原爆文学というイメージしかありません。編者の大江健三郎も一作家一テーマという持論によって戦後作品だけを採用しています。わたしの持っている『新潮文庫20世紀の100冊』というシリーズはカバーに…

『アスペクツ・オブ・ラブ ガーネット傑作集II』デイヴィッド・ガーネット/新庄哲夫訳(河出書房新社)★★★★☆

『アスペクツ・オブ・ラブ ガーネット傑作集II』デイヴィッド・ガーネット/新庄哲夫訳(河出書房新社)★★★★☆『Aspects of Love』David Garnett,1955年。 舞台が散々な結果となり、次の舞台まで文無しで過ごさなければならなくなった女優のローズは、熱心な…

『岡本かの子 アムール幻想傑作集 美少年』長山靖生編(彩流社)★★★★☆

『岡本かの子 アムール幻想傑作集 美少年』長山靖生編(彩流社) 『Beauty Boy』2019年。 復刻アンソロジー・シリーズの一冊。 「豆腐買い」(1934)★★★★☆ ――加奈子は潜戸を勇んで開けた。永年居慣れた西洋の街や外景と何も彼もが比較される。電柱を見上げる…

『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社)★★★☆☆

『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社) 『The Pavilion on the Links and Other Stories』Robert Louis Stevenson,2019年。 本邦初訳や初訳ヴァージョンを含む日本オリジナル短篇集。『寓話』が短篇集なので実質26篇収…

『龍蜂集 澁澤龍彦泉鏡花セレクションI』泉鏡花/澁澤龍彦編/山尾悠子解説/小村雪岱装釘(国書刊行会)★★★☆☆

『龍蜂集 澁澤龍彦泉鏡花セレクションI』泉鏡花/澁澤龍彦編/山尾悠子解説/小村雪岱装釘(国書刊行会) 泉鏡花の再評価前、全集も品切れだったころ、種村季弘と澁澤龍彦による鏡花選集の企画が立ち上がったものの、企画は途中で立ち消えとなり、澁澤によ…

『体温 多田尋子小説集』多田尋子(書肆汽水域)★★★☆☆

『体温 多田尋子小説集』多田尋子(書肆汽水域) 約30年前、芥川賞候補に6度なったことのある著者の、候補作「体温」「単身者たち」+「秘密」の全3作を収録した作品集です。著者あとがきに書かれた復刊の経緯によると、どうやら小説書きを引退しているら…

『『罪と罰』を読まない』岸本佐知子・三浦しをん・吉田篤弘・吉田浩美(文春文庫)★★★☆☆

『『罪と罰』を読まない』岸本佐知子・三浦しをん・吉田篤弘・吉田浩美(文春文庫) 何となくは知っているけれど何となくしか知らない名作を、最低限の知識だけをもとに、読まないままで内容を推し量ってみようという、聞くだけで面白そうな企画です。最後に…

『諸国物語』(上)森鷗外訳(ちくま文庫)★★★☆☆

『諸国物語』(上)森鷗外訳(ちくま文庫) 森鴎外訳による世界各国のアンソロジー。 「尼」ヴィーズ("Kyddet",Gustav Wied,1890)★★★☆☆ ――ブレドガアデからの帰道。兄とおれである。歩いていると、尼が二人向うから来た。年上の方は太っていて、若い方は…

『不機嫌な女たち キャサリン・マンスフィールド傑作短篇集』キャサリン・マンスフィールド/芹澤恵訳(白水社 エクス・リブリス・クラシックス)★★★★★

『The Collected Fiction of Katherine Mansfield』 不機嫌な女たちという作品が収録されているわけではなく、従来のマンスフィールド観とは一線を画す〈不機嫌な女たち〉というキーワードで編集した日本オリジナル作品集です。作品自体はこれまでの翻訳傑作…

『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ/米川良夫訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★★

『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ/米川良夫訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚) 『Il cavaliere inesistente』Italo Calvino,1959年。 鎧のなかに肉体は存在せず意思の力によって存在している――という観念的な設定からは思いも寄らないユーモア小…

『月の文学館 月の人の一人とならむ』和田博文編(ちくま文庫)★★★☆☆

『月の文学館 月の人の一人とならむ』和田博文編(ちくま文庫) 月がテーマの日本文学アンソロジー。ヒグチユウコによるカバーイラストに味があります。月の形を巻き貝という生き物で表現する発想と目の表情。姉妹編に『星の文学館』も。学者さんが編纂して…

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー/黒原敏行訳(ハヤカワepi文庫)★★★★★

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー/黒原敏行訳(ハヤカワepi文庫) 『The Road』Cormac McCarthy,2006年。 荒廃した世界で旅を続けながら生きてゆく父と息子の物語です。 いわゆる終末ものの多くで描かれるのが、変容してしまった世界であったりサバ…

『十和田操作品集』十和田操(冬樹社)★★★☆☆

『十和田操作品集』十和田操(冬樹社) 北村薫・宮部みゆき編『名短篇、さらにあり』に収録されていた「押入の中の鏡花先生」が面白かったのでほかの作品も読んでみることにしました。著者自選。その鏡花に最初に評価されたという「饒舌家ズボン氏の話」は未…

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★☆

『黄泥街』残雪《ツァンシュエ》/近藤直子訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚) 『黄泥街』残雪,1986年。 残雪のデビュー作。 幻想というよりはラチガイ。 マジック・リアリズムというよりは、中国の田舎の現実(の誇張)。 会話も理屈も成立しないよ…

『丘の上 豊島与志雄メランコリー幻想集』豊島与志雄/長山靖生編(彩流社)★★★☆☆

『レ・ミゼラブル』翻訳で有名な著者の作品集です。『文豪怪談傑作選・昭和篇』に二篇が収録されていたので、読んでみました。徹頭徹尾内省的で、ちょっとはずした結末をつける作風は、繊細とうじうじの間の揺れ幅が大きかったです。 「蠱惑――瞑目して坐せる…

『終点のあの子』柚木麻子(文春文庫)★★★★★

柚木麻子のデビュー連作集。ちょっと悪ノリしすぎのものもある最近の作品とは違い、リアルで地に足の着いた登場人物たちに親しみと共感を覚えます。またシリアスな作品も書いてほしい。 「フォーゲットミー、ノットブルー」(2008)★★★★★ ――一体いつ終わるの…

『耳瓔珞 女心についての十篇』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★★

安野モヨコ選画シリーズ第2弾。なぜか初出の記載がなくなってしまいました。 「桃のある風景」岡本かの子(1937)★★★★☆ ――肉体的とも精神的とも言い難いあこがれが、しっきりなしに自分に渇きを覚えさせた。「蝙蝠傘を出して下さい。河を渡って桃を見に行く…

『女体についての八篇 晩菊』安野モヨコ選・画(中公文庫)★★★★☆

読書好きで知られる安野モヨコ氏によるアンソロジー第1弾。各篇に挿絵が一葉ずつ描かれています。 「美少女」太宰治(1939)★★★★☆ ――甲府市の近くの音声が皮膚病に特効を有する由を聞いたので、家内を毎日通わせることにした。ともかく別天地であるから、あ…

『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ/木村榮一訳(国書刊行会 文学の冒険)★★★★★

『La Casa de Los Espiritus』Isabel Allende,1982年。 語り自体が予言的だ、というのはあります。例えば第一章の冒頭でまず犬が来たことが書かれ、しかるのち「以後」「九年間」と将来のことが語られます。こうした語られ方が、あらかじめすべてが定められ…

『若かった日々』レベッカ・ブラウン/柴田元幸訳(新潮文庫)★★★★☆

『The End of Youth』Rebecca Brown,2003年。 「天国」(Heaven)★★★★☆ ――最近、天国のことをよく考える。あるバージョンでは、天国は庭だ。菜園には年配の女性がいる。もうひとつのバージョンでは、天国は野原だ。鴨狩りの服装をした男がいる。 天国の描写…

『婦系図』泉鏡花(新潮文庫)★★★★☆

早瀬主税の愛人お蔦が酸漿を吹いているところに、魚売りのめ組の惣介が顔を出した。主税から頼まれたのに学士・河野英吉のところに魚を売らずに喧嘩してきたらしい。折りしも静岡から出てきた河野の母親が、ガラの悪いめ組の出入りを断りに来たところだった…


防犯カメラ