『武士道シックスティーン』誉田哲也(文春文庫)★★★★☆

武士道シックスティーン誉田哲也(文春文庫)

 アンソロジー収録の「彼女のいたカフェ」が面白かったので、ほかの作品も読んでみました。

 宮本武蔵を尊敬し勝つことだけを考えてきた磯山と、勝ち負けよりも自分のやってきたことが身についたかどうかを重視する早苗の、二人の同窓生が部活に汗を流す剣道小説。

 中学生の全国大会で準優勝だった磯山が、たかだか市民大会で負けた無名の相手――それが東松学園の「甲本」だった。東松に進学すれば、甲本と再戦できる――そう考えた磯山は、数ある推薦校のなかから、東松学園を選ぶ。

 勝負一筋磯山に対し、早苗はおっとりな……ではありません。宮本武蔵五輪書』を読んでいる磯山に対し「へぇ……マニアだねぇ」と呟き、磯山が選んだミスドの選択に「なんか、無難を通り越してつまらないチョイス」というコメントを感じるなど、早苗は意外とふつうの女子高生です。これがただおっとりなだけの天然な女子だったなら、わざとらしくてつまらなかったろうな、と思います。とはいえ早苗の家は基本的にみんなお人好しでマイペースではあるのですが。

 磯山は「勝つこと」にこだわっているので、基本的に周りはすべて「敵」です。怒っている、わけではないのだけれど、普段からかりかりしてます。早苗にも平気で暴力をふるいます。自分が怪我をしたときに、真っ先に「周りは敵だ。さとられるな」と思っちゃうような人です。休み時間に鉄アレイを上げながら『五輪書』を読んでいるヒトですから、推して知るべしです。

 当然行き詰ります。行き詰ったあとの、吹っ切れ方が、でもやっぱりこのヒトらしい。キホン、剣道に真っ直ぐな人なんですね。

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