『ミステリーズ!』Vol.13 ★★★★☆

 北村薫×戸川安宣『ニッポン硬貨の謎』[bk1amazon]対談が掲載されていたので買いました。ジュンク堂トークショーの一部だそうです。しかしミステリファンのあいだでは確かに戸川さん、有名かもしれませんが、インタビューとかじゃなく対談になっちゃうんですね(^ ^。そういえばKAWADE夢ムック『江戸川乱歩』[bk1amazon]でも対談という扱いでした。

シャーロック・ホームズ変奏曲」03喜国雅彦

 さまざまなイラストレーターによるホームズ競作第3弾。「悪戯好きのホームズ」の一言が微笑ましい。

「私の一冊〜そうだったのか――宿題の再開〜」青井夏海

 青井氏の一冊は、アイリッシュ「晩餐語の物語」[bk1amazon]。「遠い異国でほとんど原形をとどめぬまでに焼き直されても、読者の心にミステリの灯をともさずにはおかなかったのだ」。うんうんそのとおり、と、ひとり何度も頷いてしまった。

「『ニッポン硬貨の謎』の謎 北村薫×戸川安宣スペシャル対談」

 マニアックだぁ。でも熱心なファンなら知っているエピソードも多いと思います。それでもやっぱり読む価値あり。エラリー・クイーン・ファン・クラブが「この『シャム双子』[bk1amazon]論を早速ネヴィンズとホックに連絡したって(笑)」なんていうエピソードには、みんなミステリが好きなんだなぁとほんわかした気持になります。東京創元社ホームページで販売していたサイン本に押してあった「落款」がファンのプレゼントだったというので、思わず棚から取り出して確認してしまいました。硬貨型になってました(-o-。

「私がデビューしたころ〜たったいまの出来事〜」桜庭一樹

 『ダ・ヴィンチ』2005年09月号の特集「ライトノベル読者はバカなのか?」のインタビューによれば、かなり文体にこだわる作家だということなので読んでみたい気持はあったのですが、「J・D・カーへの偏愛」(ジョン・ディクスン・カーのことでいいんですよね?)と聞いては読まずにはいられません。『GOSICK』[bk1amazon]チェックしときます。

「桜川のオフィーリア」有栖川有栖《競作短篇》川に死体のある風景

 春がきていた。悲劇の予兆はどこにもなかった。外が騒がしい。耳を澄ますと、桜川で死体が見つかったらしい。「――ちゃんが」。よく知った名前が出てきて愕然とした。嘘だろう。何かの間違いだ。

 有栖川氏の作品は、潔癖なまでの本格ミステリ本格ミステリ風の青春小説に大別される、と思います。『まほろ市の殺人 冬 蜃気楼に手を振る』[bk1amazon]なんてのは明らかに後者でしょう。本編は学生アリスものの一篇ではありますが、潔癖なまでの本格ミステリを期待するとちょっとがっかりするんじゃないかと思います。嫉妬とプライドを描いた苦すぎる青春小説でありました。

「第15回鮎川哲也賞・第2回ミステリーズ!新人賞選評」笠井潔島田荘司山田正紀綾辻行人有栖川有栖加納朋子

 鮎川賞受賞作『六月の雪』と新人賞候補の「点灯人」は読んでみたいと思った。新人賞受賞作「漂流巌流島」は本書に掲載。

「漂流巌流島」高井忍

 巌流の流儀を伝えた者の名は上田宗入。一書には津田小次郎とある。同じ頃、九州に円明流道場を構える宮本無二之助という兵法者がいた。無二之助の養子である武蔵が二十九歳になった頃、二派の対決は避けられないものとなっていた。

 一言で言えば、武蔵vs小次郎の真相やいかに!?というのが本編の内容です。資料だけを手がかりに歴史の真相にせまる、作法通りの歴史ミステリ。おそらくほとんどの人は、映画や小説といった創作の中の武蔵しか知らないと思います。わたしもそうでしたが、本編で紹介される資料を読んであっけにとられてしまいました。いやおもしろい。資料間の矛盾なんてものではありません。どれもこれもまったく別の話じゃないですか。ひとつひとつのエピソードを読んでいるだけでも興味深いのですが、最後にいたってすべてがぴたりと嵌ってしまったときの快感こそはミステリの醍醐味です。

「ト・アペイロン」芦原すなお

 デビラと呼ばれるカレイの干物を庭で叩いていると、「ふっふっふっふ」と不気味な笑い声が聞こえてきた。夢なら覚めてくれ。米国研修帰りの河田刑事が、事件について妻に意見を聞きに来たのである。凶器はナイフ。遺体は死後にもういちど刺されていた。

 『ミミズクとオリーブ』[bk1amazon]の新作、ということです。わたしはシリーズはおろか芦原氏の作品を読んだのも初めてでした。食べ物を美味しそうに書ける作家は小説も巧い、だったか、食べ物を書くのが下手な作家の作品は内容もダメ、だったか、食べ物じゃなくて着るものだったか、まったく記憶が定かではないのだけれど、金井美恵子かあるいは金井美恵子を評した斉藤美奈子豊崎由美が似たようなことを書いていたのは確かです。で、要するに本編冒頭のチラシ寿司がものすごく美味そうだということなのです。美味しい料理と軽妙なやり取り、美味しく読ませていただきました。

「あなたの明日」北川歩実

 母親が来る。里佐が言う。「わたしを産んだ母親が来るの」。養子である里佐の遺伝上の父親は、遺伝病の家系だった。もし病が遺伝していれば里佐は若くして死ぬ。

 ミステリ的状況を作り出すために、設定に不自然なところがあるのは否めない。探偵役の推理も勘や常識によるところが大きいし、本格ミステリ的な部分とサスペンス的な部分のバランスがちぐはぐ。サスペンスであるなら不自然なところをなくしてほしいし、本格であるなら伏線を埋め込んだ論理的な推理を展開してほしかった。明かされる真相は意外なもので面白かった。シリアスでしんどい話である。

「理不尽な酔っぱらい」近藤史恵《ビストロ「パ・マル」》シリーズ

 「パ・マル」はそんなに気取ったところのないビストロだ。商店街の甘味屋主人はかつて、野球の名門高校のキャプテンだった。三年の夏、部員が酒を飲んで酔っぱらったため、甲子園出場辞退というはめに追いやられた。不思議なことには、合宿所には酒など一滴もなかった。

 なんじゃこりゃ……。酒を飲んだ部員の限りない悪意だけが印象に残る作品。しかも登場人物の誰一人として、その悪意に憤るでもなく、謎の解明にしか興味がないのが気持ち悪い。悪意の持ち主も不気味だが、悪意を意に介さない人たちもかなり不気味でした。ミステリネタは推理クイズレベル。

「シャルロットだけはぼくのもの」米澤穂信《小市民》シリーズ

 すべてはこの忌々しい暑さのせいだ。よりによってこのぼくが、小山内さんにあんなことをするなんて。何かが違い始めたのは昨日のことだった。小山内さんがぼくに地図を見せた。町内のお菓子屋さんの地図だね。「明日、お店に行こうね」。ぼくが? 小山内さんと?

 米澤穂信氏の作品は『さよなら妖精』[bk1amazon]と「Do*you*love*me?」(『ミステリーズ!extra』[bk1amazon]所収)しか読んだことがなかったけれど、無理に本格ミステリをからませている感じがあってあまり面白いとは思いませんでした。せっかく才能のある作家さんなんだから、無理矢理ミステリ仕立てにしなくてもいいのに。本編を読んでその印象は強まりました。一般的な意味ではミステリとは言い難い本編がたいへん面白かったのです。日常の〈謎〉ですらない、日常の一こま。そんな日常の一こまに賭けた二人の知恵比べが微笑ましくもスリリングです。同じシリーズの『春期限定いちごタルト事件』[bk1amazon]も読んでみようかな、という気になりました。

「イツカ、静カノ海ニ〜真紅―Shinku―最終話」朱川湊人

 「インスタントラーメンでよければ分けてあげるよ」。腹の虫の鳴いていた私は、結局うなずいてしまった。台所の向こうの部屋に置かれたベッドに、若い女の人が寝ているのに気づいた。私はなぜか、喉元を絞められるような感覚に捉われた。

 異形の美女という設定は数あれど、こんな奇想は読んだことがありませんでした。少しずつ成長する鉱物。このアイデア、この幻視に尽きます。最後がすこし乱歩チック。

「カオスコープ」第10回(最終回) 山田正紀

 連載ものなので、最終回を迎えたところで第一回から読むことにしてます。というわけでまだ未読。

「ミステリーズ・バー12〜アンカレッジ空港の「ナポレオン」」後藤均

 ナポレオンとは銘柄名ではなく、等級の一つである、という豆知識に、酒飲みではないわたしは「へぇ〜」。

「氷橋 モザイク事件帳」小林泰三

 編集者の乙田は、担当作家の里香美を殺さなければならなかった。

 もっとアクの強い作家かと思っていたのに、実際に読んでみると『金田一少年』や『コナン』のノヴェライズみたいな話。

「オランダ水牛の謎」松尾由美安楽椅子探偵アーチー》シリーズ

 「駅の公衆電話で見つけてなんとなく持ってきちゃったんだ。アーチーに謎解きをさせよう、なんて思ったわけじゃない」。衛が手にしているのは、枝つきの葉っぱが入った白い封筒。表には薄い走り書きがあった。「オランダ水牛 7000〜8500,植民地,スパイ=N?」

 文字どおりの「安楽椅子探偵」アーチー[bk1amazon]と衛の活躍するシリーズ新連載。14号掲載の次作タイトルは「エジプト猫の謎」。どうやら国名シリーズになる模様。こういうところがおしゃれなんです。

 探偵が情報を隠すというのはミステリとしちゃあ“アンフェア”な行為、安楽椅子探偵ものでは禁じ手と言ってもいいと思うのですが、探偵はこう言います。「青少年に夢を与えるため」だと。

 天藤真による「安楽椅子探偵」もの『遠きに目ありて』[bk1amazon]のことを、新保教授がこう書いておりました。「(純粋な安楽椅子探偵ものは)全五話のうち初めの二話だけで、あとは警部に連れられて現場検証に出かけたりする。その点が推理小説としてこのシリーズの弱点あると、私は考えてきた。ところが(中略)読み返して、わが身のアサハカサを思い知らされたものだ。/(中略)書きようによっては安楽イス探偵ものに仕立てるのは容易だっただろう。だが信一を安楽イスの名探偵に祭り上げておくのは、作者の本意ではなかった。家に閉じこもらされている才能を、作者は外の世界に羽ばたかせてやりたかったのだ。(そのためには)まず少年の驚くべき推理力を示す必要があった。」

 本編の主人公はあくまで衛。ただの推理ゲームなどではない、少年たちが「外の世界に羽ばた」くミステリなのです。

オッカムの剃刀」(前編)大倉崇裕

 後編と併せて読む予定。

「カラバ侯爵―長靴をはいた猫―」諸星大二郎

 童話を幻想怪奇風にアレンジしたシリーズ。猫は魔女の使い。

「陰樹の森で」石持浅海

 「牧原さんが死んでいるのを見つけた英恵さんが、後を追うように自殺した」。人間ではないギンちゃんはわたしたちに言った。「でも引っかかることがあります。どうやってナイフを取ったのでしょう」

 『本格ミステリ・ベスト10 2004』[bk1amazon]ランクインの『月の扉』[bk1amazon]が面白そうだったので期待して読み始めたのだけれど、可もなく不可もなくといったところかな。不可能ミステリってわけでもないし、『象は忘れない』[bk1amazon]みたいに「妻が夫を殺したのか」「夫が妻を殺したのか」のような下世話な興味で引っ張るわけでもない。本編では「人間ではない」という設定がまったく活かされていなかったので、連載第一回も読んでみなくてはと思います。

ミラーリング・ブラック〜ピイ・シリーズ6」菅浩江

 杉坂亮平の店は地下にあった。無抵抗なロボットを痛めつけて憂さ晴らしをする人間が店の客だ。

 ダークSFっつうところかな。あまり好きなタイプの作品じゃない。

「私の一枚」坂木司

 「BUMP OF CHICKEN」だって。

「COMICAL MYSTERY TOUR」いしいひさいち

 『女王様と私』『愚か者の祈り』『事件当夜は雨』『震度〇』『天使のナイフ』。原作を未読の場合に単独の漫画としても楽しめないし、原作を読みたい気持にもさせないというのはパロディとしてどうなんだろうと思ってしまう。

「わが返礼」クリスチアナ・ブランド/藤村裕美訳

 わたしは弟を殺した。だからすべての人生を通じて、弟殺しのしるしを身につけていた。あの人は言った。「流されるわたしの血によって、そのしるしを洗い流すのだ」

 常に罪を背負っている者。本編は本格ミステリではありませんが、まったくつながりのない(ように思われる)人間を、上記のキーワードでひとつに結びつけてしまう手腕は本格ミステリ的とも言えます。さすが女王ともいうべき忘れがたい作品です。

「愚行録」(最終回)貫井徳郎

 これから第一回から読みます。

「結末と驚異――麻耶雄嵩神様ゲーム』」笠井潔《人間の消失・小説の変貌》13

 ミステリ的な解釈の可能性を、やりすぎとも思えるほどの丹念さで考察しているが、考察後に導き出される「どうして作者は、正道から逸脱したのか」という問いの方にページを割いてほしかった。

「お楽しみTV 12回 フーダニット」

 「刑事コロンボ」のスタッフが担当したというエラリー・クイーンのテレビシリーズは見てみたいものです。NHK放送の『名探偵ポワロ』にはカットされた部分があった、というのはなんともはや。

「パット・マガーの『アメリカの悲劇』」杉江松恋《路地裏の迷宮調査》13

 パット・マガーのほんとうの面白さとはなんぞや?なのである。

「MYSTERIES BOOK REVIEW」

 宮脇孝雄評による『逆説探偵』鳥飼否宇bk1amazon]、若竹七海評による『太陽ぎらい』小泉喜美子bk1amazon]、中村有希評による『ウォータースライドをのぼれ』ドン・ウィンズロウbk1amazon]、臼井惣介評による『明治探偵冒険小説集4 傑作短編集』伊藤秀雄編[bk1amazon]。ドン・ウィンズロウがひさびさです。何年ぶりだろう。これを機会にニールものを一作目から読み直そうと思います。

本格ミステリ鑑賞術 第二章 伏線の妙味」福井健太

 評論自体は面白いのだけれど、高木彬光バカミスとか(鼠色だから、って……)、鮎川哲也の稚気を通り越してだから何なんだっていう作品とかはまったく評価できないので、せっかくの評論から説得力が弱まっています。高木作品や鮎川作品に感動した方には申し訳ないけれど。

 裏表紙は「安楽椅子探偵の系譜」ということで、創元推理文庫安楽椅子探偵もののカバー紹介です。
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