『ミステリマガジン』2018年5月号No.728【アガサ・クリスティーをより楽しむための7つの法則】

 編集方針が変わったのでしょうか、先月のSFマガジンも今月のミステリマガジンも創作の多い号でした。

「死がいちばんの贈りもの」若竹七海(2003)★★★☆☆
 ――大会社社長の孫娘サトミが自殺したため、財産狙いの関係者たちがサトミの霊を呼び出すというインチキ降霊会を開こうとしていた。そこに死んだはずのサトミが現れ……。

 ミステリ専門劇団フーダニットのために書き下ろされた戯曲。お屋敷に集まった利害関係者たちに怪しげな降霊会……という内容は、クリスティーはもちろんもはや若竹七海らしさの一端になっていると思います。とはいえサトミが現れてからのブラックユーモアに満ちたドタバタ劇に関しては若竹氏の色濃さが出ている部分です。
 

「戯曲を書くつもりはなかった」若竹七海
 

「『アガサ・クリスティー完全攻略〔完全版〕』刊行記念座談会」霜月蒼×杉江松恋×小野家由佳
 かつて本格ミステリー大賞シンジケートで連載されていた「アガサ・クリスティー攻略作戦」の単行本がいよいよ文庫になります。座談会では特に目新しいことは話されていませんが、「攻略作戦」はほんとうに素晴らしかったので文庫化は楽しみです。
 

「追悼 仁賀克雄」

「谷間は静かだった」マンリイ・ウエイド・ウェルマン/仁賀克雄訳(The Valley Was Still,Manly Wade Wellman,1939)★★☆☆☆
 ――パラダインは北軍の所在を確認する任務についていた。だが村には生き物のしるしも動きも見えない。罠ではないのか? ようやく見つけた北軍の兵士たちは、倒れたまま静かに固まっていた。逃げずに残っていた老人が言うには、呪術師から手に入れた呪術書を用いて動けないように呪文をかけたそうだ。

 再録。『ミステリーゾーン(第3シリーズ)』エピソード76「魔書と南軍」の原作です。映像化版も駄作でしたが原作もしょうもありませんでした。信仰というものに理解があればあるいは主人公の葛藤に理解が及ぶのかもしれませんが、奥の手があったのに南軍が負けた理由としてひねりも何もありません。
 

切り裂きジャック最後の事件」仁賀克雄(2002)★★★★☆
 ――切り裂きジャックの最後の事件であるメアリ・ケリー殺害の真相記録を発見した。メアリの部屋をアリスという娼婦が訪れた。二人はもともと男のことで敵対していたのだが、メアリの出自を知ったアリスがメアリを脅していた。

 再録。オリジナルの小説作品です。切り裂きジャック事件は劇場型で派手なだけに謎として魅力的ですが、真相が島田荘司の『切り裂きジャック百年の孤独』くらいトリッキーなものでないと、無名の真犯人と異常者的な動機が明らかにされたところでだからどうしたんだという感想しか覚えません。ですがこの作品は事件のうちメアリ・ケリー殺しだけに絞ることで、ミステリ的に面白い真相になっていました。
 

「夏のワイン」A・M・バレイジ/仁賀克雄訳(Wine of Summer,A. M. Burrage,1928)★★☆☆☆
 ――これはぼくが十三歳ぐらいのころに起こった事件です。年長のぼくらは、ダービーにわずかな金額を投じていました。食堂支配人がノミ屋の役をしてくれました。ある時オウロークが、新しい食堂支配人から「夏のワイン」という馬が勝つと聞いたのです。けれど誰に訊いてもそんな名前の馬など知りませんし、食堂支配人が変わったという話も聞きません。

 未発表の翻訳作品。「夏のワイン」というおかしな名前が不可思議さを掻き立てるものの、内容自体は自殺した男が地縛霊となって今も現れるという古典的な怪談でした。
 

「追悼 井家上隆幸」 
 

「真夜中シネマ」降田天 ★★☆☆☆
 ――コンパで会った男がしつこく言い寄って来る。チャラいからチャラ山にしておこう。木葉はかまわず『ウエスタン・ドラゴン』を観に映画館に入ろうとしたとき、チャラ山が意外なことを言った。子どものころにこの映画を観に行く途中、友だちが神隠しにあったのだという。

 映画の内容と神隠しの必然性との関わりがやや強引なのはともかくとして、主役二人にまったく魅力がありませんでした。
 

「無間畏怖協会」意思強ナツ子
 ――主婦の美恵が始めた在宅のパートは、誰かの死を怖れつづける簡単な仕事だった。

 ミステリ漫画。『ミステリーゾーン』――いやどちらかといえば『世にも奇妙な物語』を思わせる、ちょっと不気味な作品でした。
 

「映画『レッド・スパロー』公開 フランシス・ローレンス監督インタヴュー」
 

「おやじの細腕新訳まくり」田口俊

「ミスター・ベアストウがおっしゃるには……」アントニー・バークリイ/田口俊樹訳(Mr. Bearstowe Says...,Anthony Berkeley,1943)★★☆☆☆
 ――ロジャー・シェリンガムがパーティで出会ったご婦人はミスター・ベアストウに熱をあげていた。どうやらベアストウとは文学者の取り巻きを気取ったジゴロらしい。二年後、海水浴場で死んだ男の妻が夫の身元確認をやけにすらすらと口にしている場面に出くわした。見ればあの時のご婦人だった。

 あまりにもわかりやすい構図のせいでシェリンガムが疑念を持つところや、頭の悪すぎる共犯者を途中から巻き込まざるを得なくなるところに意地の悪い皮肉が効いていますが、肝心の真相がやっぱりわかりやすすぎるものでした。
 

「書評など」
伊兼源太郎『地検のS』はさまざまな視点から綴られる地検が舞台の連作短篇集。蒼井碧『オーパーツ 死を招く至宝』は、「オーパーツの特性を活かしたトリックがまたおもしろい」。石川宗生『半分世界』、宮内悠介『ディレイ・エフェクト』は創元SF短編賞の受賞者によるデビュー作と新作短篇集。

ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』は、東宣出版という出版社から出たブッツァーティの短篇集。収録作はほぼ初訳。しかも「短篇集I」となってます。『折りたたみ北京』は、副題にあるとおりの「現代中国SFアンソロジー」。篠原健太『彼方のアストラ』全5巻は、『スケットダンス』の著者による本格SFミステリ。掛け値なしの傑作でした。
 

◆ディズニー映画ズートピアも、「バディものの定石に忠実な正統派のミステリ作品」と評価されています。
 

『戯作屋伴内捕物ばなし』「第一夜 鎌鼬の涙」稲葉一広 ★★☆☆☆
 ――鎌鼬に殺されたとしか思えない事件が起こった。周りには足跡もなく、人が近づいた形跡もない。戯作屋を名乗る伴内は、岡っ引きの源七が聞き込んでいるところに首を突っ込み、真相を探った。

 『下町ロケット』『人形佐七捕物帳』の脚本家による新連載。良くも悪くも軽めのトリッキーなミステリです。
 

「工藤殺し 続・探偵物語小鷹信光原案/木村二郎贋作
 ――

 小説版『探偵物語』の「新作」です。
 

  


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