『ミステリマガジン』2009年11月号No.645【ドイル生誕150周年】

「迷宮解体新書23 森谷明子
 図書館とか古典文学とか、わたしのツボを突いてくる作家さんです。

「私の本棚23 戸梶圭太
 

「ドイル生誕150周年」 ドイルではなく、ほぼホームズ特集。

「ホームズのお店探訪記2 大阪篇」日暮雅通

「ホームズ・グッズの広い世界」
 

「拝啓ワトスン先生」スティーヴ・ホッケンスミス/日暮雅通(Dear Dr. Watson,Steve Hockensmith,2007)★★★☆☆
 ――拝啓ワトスン先生。ホームズ先生はほんとは死んじゃいないんだ、あの人のことが忘れられずにいるかぎり、ほんとの意味であの人がいなくなったことにはならない。おれはそれが真実だってことを証明してみせます。おれと兄貴は、なんと探偵を始めてしまいました。

 『荒野のホームズ』シリーズの短篇作品。探偵を目指した兄弟が、ピンカートン探偵社に売り込みに行く。いやそれ違うでしょ! 当然相手にされずに向かった先は、「ジ・アイ」と「われわれは決して眠らない」ならぬ、「鼻」と「われわれは真実をかぎつける」(^_^;。推理自体は依頼人をびっくりさせるあのいわゆる「ホームズ」じゃないけれど、『ライゲイトの地主』が効果的に使われていました。
 

「あなたに天使が見えるとき」腹肉ツヤ子

シャーロック・ホームズタイタニックの謎」レン・デイトン日暮雅通Sherlock Holmes and the Titanic Swindle,Len Deighton,2006)★★★★☆
 ――出版社に持ち込まれた、幻のホームズ物を巡る顛末は?(袖惹句より)

 ホームズがタイタニック沈没の謎に挑んでいた!?――という魅力的なテーマ自体が作品にうまく組み込まれています。できることならホームズが手がけたタイタニック事件そのものも読みたかった。スピンオフ作品として書いてくれないかな。
 

ベルグレーヴィアの騒乱」キム・ニューマン小田川佳子(Shambles in Belgravia,Kim Newman,2004)★★★★★
 ――モリアーティ教授は、彼女のことをいつも“あのあばずれ女”と呼ぶ。「ストレルソウ大公は知っているわね? 最近暇だったから、ちょっとつきあっていたの。実は、わたしたち二人を写真に撮られたの。わたし、脅迫されているの!」彼女は、ハンカチで涙を拭うと、そのままポーズを取った。純潔のかけらも感じられない。モリアーティが、首を振った。アイリーンは鼻を鳴らした。「ちょっとやってみたかっただけよ。批評家が言うよりは、いい女優ぶりだったでしょう?」

 裏返しの「ボヘミアの醜聞」。出てくるのはワトスンとホームズではなく、モラン大佐とモリアーティ教授。アイリーン・アドラーは「あのひと」ではなく「あのあばずれ女」。べーカー街イレギュラーズならぬコンディット街コマンチ団。もちろんキム・ニューマンなので単なるパロディじゃありません。ほかにもこのシリーズの作品があるそうなので読みたいなあ。
 

「ドイルとホームズ、この二年」日暮雅通
 特集作品解説と、ここ二年のドイル&ホームズ関連の新刊書籍紹介。アレックス・アウスワクス編訳『Sherlock Holmes in Russia』が気になった。「一九〇八年にロシアの作家二人が書いた短篇パスティーシュの英訳」だそうである。
 

「アドルトンの悲劇」エドワード・D・ホック/日暮雅通(The Addleton Tragedy,Edward D. Hoch,2006)★★★☆☆
 ――ホームズを訪ねた考古学者は、呪われて死んだのか?(袖惹句より)

 語られざる事件もの。ホックにしてはトリッキーではない。
 

アーサー・コナン・ドイル作品紹介」日暮雅通
 ホームズもの以外のドイル作品を紹介。チャレンジャーもの、歴史もの、最近出た短篇集など。

「ドイル伝記最新読書案内」日暮雅通

「不敬な召喚」エドワード・ゴーリー/濱中利信訳(The Disrespectful Summons,Edward Gorey,1973)
 悪魔との契約もの、であるらしい。
 

ジョルジュ・シムノン 小説家と愛娘の異常な愛」(1)長島良三

「虚実往還」(3)吉岡忍
 今回はオーウェル「象を撃つ」。わりとまっとう。

「独楽日記(第23回)「いい奴、悪い奴、変な奴」佐藤亜紀
 マカロニ・ウェスタン韓国映画『グッド・バッド・ウィアード』の話。
 

「誰が少年探偵団を殺そうと。」15 千野帽子「ジャック・ルーボーの《オルタンス》シリーズ。」
 よっぽど好きであるらしいのが伝わってきます。

「Dr.向井のアメリカ解剖室(11)」

「お茶の間TV劇場(15)ベン・ケーシー」千葉豹一郎

「旅人本の虫レベ(23)」レベッカ・スーター
 

『トッカン 特別国税徴収官』(1)高殿円
 ――調査対象、グランドールカフェ一号店。珈琲を味わうふりをしながら、わたしはさりげなく店内に視線を泳がせる。なんと、潜入捜査である。徴収官であるわたしが。考えられることは、この通常の調査方法では証拠が見つからなかったということだった。明らかに、この店は脱税をしている。密告と、店主の生活ぶりを調べればわかる。

 新連載。ミステリというよりは、新人さんが頑張って巻き起こる事件の数々……というような王道テレビドラマっぽい作品。『ミステリマガジン』っぽくはないが、それだけに、和む。
 

「書評など」
トム・ロブ・スミス『グラーグ57』は、いろんなところで話題になっている『チャイルド44』の続編。古典ミステリアントニー・レジューン『ミスター・ディアボロもいろんなところでけっこう評判がいい。オカルト!とか密室!とか過度に騒いでしまうと裏切られる。傑作ではないが小粒の良作というところでしょうか。ジャン=フランソワ・バロ『ニコラ警視の事件2 鉛を呑まされた男』は、ルイ十五世治下ミステリ第二弾。

ドン・ウィンズロウ『犬の力』も気になるところ。ウォーレン・フェイ『フラグメント 超進化生物の島』は、「人間側のストーリーは(中略)「ぼくの考えた最強モンスター」を見せるための器に過ぎない」「むしろ重要なのは随所に挿入されたイラストだ」。アホっぽい感じが好きそうな話ではある。これも気になる。

◆風間賢二「文芸とミステリのはざま」で紹介されているユーリ・ツェー『シルフ警視と宇宙の謎』は、『SFマガジン』で牧眞司氏も紹介していました。やっぱり複数の人が紹介していると、面白い確率が高そうな気がして興味が湧きます。
 

「ミステリ・ヴォイス・UK」(第23回 ハロゲート・ミステリ祭1)松下祥子
 レジナルド・ヒルベンジャミン・ブラックのインタビューを一部掲載。

「ヴィンテージ作家の軌跡(79)」直井明

「郭公の盤(13)」牧野修田中啓文

「紙の砦の木鐸たちの系譜(15)」井家上隆幸

「夜の放浪者たち 第59回 谷崎潤一郎残虐記』」野崎六助

「仁賀克雄のできるまで(7)ミステリ・クラブ活動開始」仁賀克雄
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