『ナイトランド・クォータリー』vol.10【逢魔が刻の狩人】

「Night Land Gallery 冥界へいざなう蠱惑的な魅力」森馨

「魔の図像学(10)ウィリアム・ブレイク樋口ヒロユキ

「仁賀克雄インタビュー ホラー探求者の飽くなき好奇心」

「藤原ヨウコウ・ブンガク幻視録(2) リットン 岡本綺堂訳「貸家」より」
 

「STRANGE STORIES――奇妙な味の古典を求めて(6) 憑きものの作家ハーヴェイ」安田均
 「炎天」などでお馴染みのハーヴィー。好きな作家です。「Midnight House」は翻訳したこともありました。
 

 特集は「狩人」とはいっても、いわゆる「ゴーストハンターもの」ではありません。ハントには「探求」の意味もある云々と巻頭言にあり、要するに内容はいつもの『ナイトランド・クォータリー』でした。

「異次元の映像」グリン・オーウェン・バーラス/植草昌実訳(Found Footage,Glynn Owen Barrass,2016)★★★★★
 ――キャシーは看護の経験もないのに精神科病院の職を得た。ミス・コームズの依頼で、ベイツ医師が持っているフィルムの在処を探しに来たのだ。ベイツ医師が担当しているジョン・ドウという患者は、まぶたがなく黄色い眼球が飛び出していた。やがてフィルムを見つけたキャシーは、再生して愕然とする。そこに映っている失踪したパイロットは、ジョン・ドウではないか……。

 映像を見ると異世界に取り込まれるところは『リング』、グロテスクな怪物に変身するところは『遊星よりの物体X』、いやそもそもの原題「Found Footage(ファウンド・フッテージ)」自体がホラー定番の手法であるなど、過去の名作を髣髴とさせつつも、そのどれにも似ていない独自の得体の知れなさがありました。私立探偵キャシー・シリーズの第一作とのよし。
 

「すべては回帰する」カイトリン・R・キアナン/小椋姿子訳
(Apokatastasis,Caitlin R. Kiernan,2001)★★★★☆ ――「そこにいたのよ」とテリーは言って廊下を指さしたが、夫は気に留めなかった。これで三夜連続、犬ではない犬みたいな動物が出たのだ。やがて壁の絵に見覚えのない少女の姿が現れ、少女の周りを囲むしみは壁にまで滲んでいた。

 絵に現れた少女が善なるものなのか邪なるものだったのか、犬のようなものは少女の存在を隠そうとしていたのか警告していたのか……いずれにしてもテリーの心に巣食う何らかの感情が形を取って現れたもののようにも思われます。原題の「Apokatastasis」とはキリスト教において、終末にすべてのものが原罪以前の姿に復元されるという思想だそうです。
 

「〈未訳書紹介〉実録“ゴースト・ハンターズ”」植草昌実

「山ノ女忌譚」友野詳(2017)
 ――草壁鬼十郎が助けた老人は、一眼一腕一脚の怪物を見たという。山の娘が死んだから、山ノ女さまが怒ってるんだ、とこのあたりの者は噂していた。

 一本しか足がないのでまっすぐ歩けない幽霊(?)が新鮮でした。
 

「冥府から来た相棒」アラン・バクスター/植草昌実訳(Not the Worst of Sins,Alan Baxter,2013)★★★☆☆
 ――俺は下司野郎だったおやじを探している。殺すためだ。おやじは十八年前、俺が生まれる少し前に行方知れずになった。おやじの顔を知っているのは、おやじの相棒だったという幽霊のマスターズだけだ。

 「ウィアード・ウエスト」とは何ぞやと思いましたが、ウェスタンのウエストのようです。相棒が幽霊であるとはいえ、西部劇でバディとくれば、ストレートなハントものかと思いましたが、ささやかなひとひねりが加えられていました。
 

「名作ガイド 巨匠たちのゴースト・ハント」牧原勝志
 ビアス、ウェルズ、ブラックウッドの作品が紹介されています。
 

「開かずの間」ヘンリー・S・ホワイトヘッド/牧原勝志訳(The Shut Room,Henry S. Whitehead,1930)★★★☆☆
 ――古い宿屋である四輪馬車亭で、四ヵ月ほど前から革製品ばかりがなくなる奇妙な紛失事件が起こっていた。その宿屋には開かずの間があり、かつて強盗が捕えられた場所だった。壁の厚みは何かを隠せそうなほど厚い。だがどうやって壁を通り抜けられるというのか……。

 幽霊狩人カーナッキの名も登場しますが、消えた革靴の謎――幽霊探偵どころか普通の探偵もののようなわくわく感がありました。けれど最後に幽霊出現の理屈づけをしてしまうところにゴーストハンターもののつまらなさが出ていました。
 

「もう一人のエドガー」キム・ニューマン/植草昌実訳(Just Like Eddy,Kim Newman,1999)★★★☆☆
 ――さしあたり私はエドガー・A・ポオと名乗っておこう。机の上には本の形をしたものが鎮座している。『詩と物語』エドガー・アレン・ポオ。最大の誤植が扉にあった。彼がいつ現れたのか覚えていない。だが今ではもう一人の私が、私に代わっって驚くべき作品を送りだしている。

 読んだ覚えがあるような気もしますが定かではありません。ドッペルゲンガーを題材――というかありとあらゆるポウがらみを題材にした、ポウ愛に満ちている作品でした。
 

「マウンディ牧師の呪い」シーベリー・クイン/小椋姿子訳(The Curse of Everard Maundy,Seabury Quinn,1927)

 ゴーストハンターものなのでパス。
 

  


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