「82黒髪の長きやみぢも明けぬらむおきまよふ霜のきゆる朝日に」~「93 あかつきはかげよわりゆく燈火に長きおもひぞ一人きえせぬ」塚本邦雄『定家百首/雪月花(抄)』より

82・83いずれも遊び心のある歌(いにしえの歌人を読み込んだ歌と、各歌の頭をつなげて言葉にする歌)です。「ありつつも君をば待たむうち靡くわが黒髪に霜の置くまで」を本歌にした82の歌については、「おきまよふ」の一語にのみ反応しています。「83 昨日ま…

「明治文学はなぜ面白いのか?」高橋源一郎×坪内祐三×水原紫苑(『ダ・ヴィンチ』2000年11月号)

「明治文学はなぜ面白いのか?」高橋源一郎×坪内祐三×水原紫苑 ちょうど坪内祐三編による『明治の文学』全25巻が刊行された時期だったらしく、それが理由による鼎談のようです。一応のところ「明治に最も注目している(と思われる)3人に」と書かれていま…

『大正の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』東雅夫編(メディアファクトリー幽BOOKS)、『うたう百物語』佐藤弓生(メディアファクトリー幽BOOKS)

『大正の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』東雅夫編(メディアファクトリー幽BOOKS)★★★☆☆ 本書も収録作も一応は「怪談実話」とは謳っているものの、どう考えても実話じゃなさそうなものばかりでウケました。初対面の人に妻の不倫を打ち明けちゃったり、…

『あくがれ わが和泉式部』水原紫苑(ウェッジ選書)

和泉式部の伝記小説。随所に和歌の解釈を含む。 ということなのですが、いまいち中途半端。もっと踏み込むなりもっと創作するなりしてほしかった。和泉式部の感情に沿って生涯を再解釈し和歌を再解釈するという方法論は面白いのですが。 [楽天]

『横断歩道《ゼブラ・ゾーン》』梅内美華子(雁書館)

I・横断歩道「膝頭に春の光をあつめつつ発泡性の年齢をいとう」 本書には瑞々しくてこれぞキャンパス・ライフといったような感性の歌が集められていました。この歌の「発泡性」とは「はじける」ということでしょうか。でも一瞬で「ぱちん」ではなく、「ぶく…

『ユリイカ』1月臨時増刊号(平成24.12.25/44-16)【百人一首 三十一文字にこめられた想い】

水原紫苑の対談が掲載されているので購入しました。『ちはやふる』のおかげで競技かるたブームであるらしく、それにともなう百人一首特集のようです。目次の裏に百首すべて掲載されています。「百人一首の魅力 恋歌を主軸として」有吉保 百人一首の大部分を…

『黒耀宮 黒瀬珂瀾歌集』黒瀬珂瀾(ながらみ書房)

・夜への餞別「The world is mine とひくく呟けばはるけき空は迫りぬ吾に」 じっと眺めていると、呟きを修飾する「ひくく」という副詞が、ぼやけて全体と混じり合って、まるで空がひくくなるようにも感じられてきます。いずれにしても空が自分に近づいてくる…

『武悪のひとへ 水原紫苑歌集』水原紫苑(本阿弥書店)

狂言師・山本則直への挽歌集。能や狂言には詳しくないので腰を引き気味に手に取りましたが、ストレートな悲しみがぶつかってくるような歌が多く、専門知識がなくともどうにか読むことはできました。ストレートなだけに、「死なんとぞ」「死を恋ふ」という言…

『釈迢空歌集』折口信夫/富岡多恵子編(岩波文庫)

『海やまのあひだ』より。「かそけし」「さびし」て言い過ぎだよね。俳句みたいな味わいの歌が多い。 「かの子らや われに知られぬ妻とりて、生きのひそけさに わびつゝをゐむ」 結句の「わびつゝをゐむ」の意味がわかりません。。。 一連の「島山」連作は、…

「60かへるさのゆふべはきたに吹く風の浪たてそふる岸のうの花」〜「79おもかげにもしほの烟たちそひて行く方つらきゆふ霞かな」(塚本邦雄『定家百首/雪月花(抄)』講談社文芸文庫より)

66「はやせ河みなわさかまき行く浪のとまらぬ秋をなに惜しむらむ」 人麻呂「長々し夜」の長ったらしさとは異なり、急流の勢いあふれる上の句が好きな作品です。が、なるほど塚本の指摘のとおり、この序詞には「秋」にかかる必然性はないのですね。 67「この…

「42立ちのぼるみなみの果に雲はあれどてる日くまなき頃の虚」〜「59たちばなの花ちる里の夕月夜そらに知られぬかげやのこらむ」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』より)

42「立ちのぼるみなみの果に雲はあれどてる日くまなき頃の虚《おほぞら》」 ほとんど勇み足といってもいいくらいの読みをおこなっているという意味では、本書中でも印象深い文章の一つ。「この歌の南のはては焦熱地獄を聯想させ、雲は救済の豫兆とでもこじつ…

『古今和歌集 日本古典文学全集7』小沢正夫校注(小学館)

7「心ざし深くそめてし折りければ消えあへぬ雪の花と見ゆらむ」 9「霞たち木の葉もはるの雪降れば花なき里も花ぞ散りける」貫之 24「ときはなる松の緑も春くればいまひとしほの笹まさりけり」源宗于 28百千鳥、29呼子鳥、208稲負鳥 31「はるがすみ立つを見す…

『さくらさねさし』水原紫苑(角川書店)

第八歌集。角川書店が創立60周年記念で〈角川短歌叢書〉というシリーズを出しているらしい。紫の布装が嬉しい。これまでにも増してむずかしい。 巻頭の「たまかぎる」はおそらく(というかまず間違いなく)春日井健に捧げる歌なのでしょう。「死して少年とな…

『萬葉集(二) 日本古典文学全集3』(小学館)

807「現には逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ」 頭注によると、「夢にを」の「を」は「意志や命令を表わす内容の文の連用格の下に置かれる間投助詞」とあります。それってつまり、「ぬばたまの夜の夢にOh!継ぎて見えこそ」ということ……で…

『竹取物語/伊勢物語/大和物語/平中物語 日本古典文学全集8』片桐洋一ほか校注・訳(小学館)

『竹取物語』 日本独自に成立したものではなく、アジアの説話と何らかの影響関係があったのではないか――というのが、新見解として月報に記されているところに時代を感じます。別に戦前とかじゃなく三十年ちょい前の出版なのに。こうしてみると、国文学研究っ…

「37匂ふより春はくれ行く山ぶきの花こそはなのなかにつらけれ」〜「41しののめのゆふつけ鳥の鳴く聲にはじめてうすき蝉の羽衣」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』より)

37「匂ふより春はくれ行く山ぶきの花こそはなのなかにつらけれ」 淡紅の花から、やがて晩春の紅紫の花、そしてしんがりに、はつなつに近づくと山吹。それだからこそ「はなのなかにつらけれ」。こういうのは、頭ではわかっていても、もう実感することはできな…

「33鳴く千鳥袖のみなとをとひ來かしもろこし船も夜のねざめに」〜「36袖のうへも戀ぞつもりてふちとなる人をば峯のよその瀧つ瀬」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』より)講談社文芸文庫

33「鳴く千鳥袖のみなとをとひ來かしもろこし船も夜のねざめに」 泣いていることを表す「袖の湊」という譬喩表現に、実際に(?)千鳥と船を呼んでしまった作品です。『伊勢物語』の「思ほえず袖にみなとのさわぐかなもろこし船のよりしばかりに」なども踏ま…

『モンキービジネス 2009春vol.5』対話号(ヴィレッジブックス)★★★★★

「「成長」を目指して、成しつづけて――村上春樹インタビュー」 古川日出男による村上春樹ロング・インタビュー掲載。ご本人は普通を強調していますが、やっぱり普通じゃないよと思う場面もしばしば。 村上氏が『ノルウェイの森』をリアリズムと言っていてち…

『歌舞伎ゆめがたり』水原紫苑(講談社)★★★★☆

歌舞伎を再話(?)した幻想小説。歌物語ではなく純粋な小説作品です。「勧進帳」★★★★★ ――富樫という男に会ったのは、銀座の外れの安い小料理屋だった。「富樫さんですね。」「あなたがシオンさん。あなたは一体、」「私はあなたの欲望に応じるために来たん…

『短歌ヴァーサス』007【水原紫苑の世界】

水原紫苑特集。なんだけど……インタビューくらいあればよかったのに。 ゼミで教えていた頃の生徒さんの話が、インタビュー代わりに、水原紫苑という人間を伝えてくれてはいます。 ------------- 『短歌ヴァーサス』007 水原紫苑の世界 オンライン書店bk1で…

『某マイナス二号 矢野目源一 揺籃』(エディション・プヒプヒ)★★★☆☆

プヒプヒさんのエディション・プヒプヒから、翻訳者として(たぶん)有名な矢野目源一の詩歌集が出ました。 若き日の作品集ゆえか、以外と素直で普通の詩歌です。 「春の山の霞かたはや麗人の衣かとぞ見る紫のふじ」や「篁のうすしめりせる黒土に灯としも見…

「28浪の音に宇治の里人よるさへや寝てもあやふき夢のうきはし」〜「32ひとりぬる山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床のつきかげ」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』(講談社文芸文庫)より)★★★★★

28「浪の音に宇治の里人よるさへや寝てもあやふき夢のうきはし」 意外なことに文法的な説明もしてくれるのがありがたい。「『よるさへや』は寄るさへ、夜さへと二つの意味を持ち、寄るは里人に、かつは初句の浪にもかすかに關る」。なるほどなあ。浪に「かす…

「25ぬぎかへてかたみとまらぬ夏衣さてしも花のおもかげぞたつ」〜「27駒とめて袖うちはらふかげもなしさののわたりの雪の夕ぐれ」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』(講談社文芸文庫)より)★★★☆☆

25「ぬぎかへてかたみとまらぬ夏衣さてしも花のおもかげぞたつ」26「いくかへりなれても悲し荻原や末こすかぜのあきのゆふぐれ」 区切れと意味の切れが一致していない「秋はぎの散り行くを野の朝露はこぼるる袖もいろぞうつろふ」の歌は、当時は「めづらしい…

「19おほかたの露はひるまで別れけるわがそでひとつのこる雫に」〜「24しのばじよわれふりすてて行く春のなごりやすらふ雨の夕暮」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』(講談社文芸文庫)より)★★★★★

19「おほかたの露はひるまで別れけるわがそでひとつのこる雫に」 「別れける」は連体形だから、「わが袖」にかかると考えるのが普通。だけど塚本は「露は」に通底する「露ぞ」という係助詞を見る(幻視する?)。「露は昼まで・別れけるわが袖」と「露は干る…

「1見渡せば花ももみぢもなかりけり浦のとまやのあきの夕ぐれ」〜「18雲かかりかさなる山をこえもせずへだて増るは明くる日の影」塚本邦雄(『定家百首/雪月花(抄)』(講談社文芸文庫)より)★★★★★

期待していなかったがなんと正字正仮名遣いのままである。やればできるんじゃん。石川淳なんかもそうしてほしかったな。 塚本邦雄とか澁澤龍彦の評論というのは、ほとんど観念的で感覚的で、通常の意味での評論からすると隙間だらけなのだけれど、何百という…

かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしにくる村祭(寺山修司)

この子は違う。 きみのさがしているのはこの子じゃない。 逃がしておやり。その子は違う。 きみのさがしているのはその子じゃない。 離しておやり。きみのさがしているその子のおじいさんは 去年の夏祭りにお隠れになりました。 だからあなたは また 鬼 にな…

くれなゐのつゆけき束を捧ぐるは薔薇殺法の君の五月よ(秋谷まゆみ)

薔薇殺法。 忍術。格闘ゲームの必殺技。古豪の剣の奥義。 歌に詠まれているのは、もちろん恋の必殺技だ。だけど「殺法」という言葉からわたしが真っ先に連想したのは忍術だった。忍法薔薇殺法。木の葉隠れのように、両手で印を結び風を巻き起こす(この忍術…

「革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ」塚本邦雄

歌とは呪文であり、楽とは祭祀であった。耳で聴き、髪膚を震わし、預言を渇望し、神を視、奇禍の臭を嗅いだ。五感のすべてで感じるとともに、五行すなわち世界と交感する手段であった。 メッセージソングというジャンルがあります。曲にのせたメッセージ。伝…

「だいあろおぐあきらめに似て照る月は言葉の海を笑つてゐるのさ」紀野恵

昔のフォークソングには、英単語をひらがなで表記したものがありました。中島みゆき「りばいばる」、井上陽水「はーばーらいと」……。この歌が歌っているのも、そんな時代の景色でしょうか。果てしない対話を、月があきらめ顔で笑っております。あるいは、あ…

「鬼やんまの翅の下なる少年期 水平に網かまえていたり」吉川宏志

鬼やんまは地面すれすれを飛びます。だからこそ「水平に網かまえて」いるわけです。北杜夫氏のエッセイによると、氏は「地面をするように飛ぶ」鬼やんまをステッキで叩き落としていたそうです。http://www.pippo.jp/tombo/kita/ 「鬼やんまの翅の下」には少…


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