『S-Fマガジン』2022年4月号No.750【特集 BLとSF】

『S-Fマガジン』2022年4月号No.750【特集 BLとSF】

 そりゃ百合特集があれば次はBL特集があっても不思議はありません。ただし百合と違ってBLについての定義や説明は一切ありません。歴史や認知度の違いかなあ。まあ「女性同士の関係性」という気持ち悪い表現で逃げている百合よりはよほど潔いです。海外創作も3篇掲載されていて、3篇ともBLというイメージに囚われずバラエティに富んでいました。
 

「分離」サム・J・ミラー/中村融(Calved,Sam J. Miller,2015)★★★★☆
 ――環境変動によって水没したニューヨークから難民として逃れ、氷山での過酷な資源採掘に従事する主人公の唯一の楽しみは、別居している息子にときたま会ってその成長を見届けることだった。しかしながら久しぶりに出会った息子はどこかよそよそしい。母親の話によると息子は学校でいじめを受け、また誰かに恋をしているらしい。息子の信頼を取り戻すために街を駆けずり回る父親だったがいくつもの誤解が重なっていき、やがて取り返しのつかない出来事が起きてしまう――(解説より)

 これはBLなのでしょうか。まあそうなのでしょう。それもいじめの理由のようですし。自分が着ているTシャツを友だちにあげたりは普通しないでしょうし(そのTシャツが貴重品というSF的背景はあるにせよ)。それにしても父親が不器用すぎます。弁解や取り繕うことはもちろん、開き直ることさえ出来ないなんて。父親がああいう行動を取ったのは、どちらかと言えば見下される側に属するであろう父親が、中国人をさらに見下すという差別意識も絡んでいそうです。国や原因は違えど、それはまさに今の世界の映し鏡でした。
 

「ロボット・ファンダム」ヴィナ・ジエミン・プラサド/佐田千織訳(Fandom for Robots,Vina Jie-Min Prasad,2017)★☆☆☆☆
 ――博物館に収められた知性を持つロボット・コンピュートロンは来場者の質問をきっかけにとある日本のアニメを視聴することになる。ファンサイトで二次創作の概念と出会い、アニメの主人公と相棒のロボットのカップリングの小説を読んだコンピュートロンは、ロボット描写の正確性へのこだわりから思わずコメントを投稿してしまい、やがて自分でも二次創作を始めることになるのだが……(解説より)

 これはBL小説というより腐女子小説ですね。そういう界隈の人には伝わるのかなあ。あらすじ以上のものには感じられませんでした。
 

「男性指数」オン・オウォモイエラ/赤尾秀子訳(Three Points Masculine,An Owomoyela,2016)★★★☆☆
 ――物語の舞台となる内戦状態にある国家では、市民が性別評価試験を受けさせられ、その結果によって就ける仕事が決められる。性転換手術を受けたものの兵士になるためには〝男性度〟が三点足りず、警備隊員として働くぼくと、憧れの看護の仕事に就くため自らの性別を偽るジョン。紛争地域に派遣された二人の男は、お互いに対して複雑な感情を抱きながらも生き延びるために協力して闘うことになる。(解説より)

 BLではなくジェンダーSFだと思うのですが、救護隊員になりたいがゆえに女の恰好をする心も体も男、心が男で生誕時の体が女で男性指数が男、迷うことなく自分の仕事に誇りを持つ女、という組み合わせに、新しいタイプのBL成分を感じ取る人もいるのかもしれません。
 

「漫画家よしながふみインタビュー」聞き手&構成 三宅香帆
 

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