初刊2006年。
猫ばかりの島、通称・猫島。高校生の虎鉄は海岸でナイフを突き立てられた猫の剥製を見つける。たまたま観光で島を訪れていた葉崎署の刑事・駒持は、猫アレルギーに苦しみながらも事件の背後に何かが潜んでいると感じて調査を続ける。剥製は土産物屋兼書店店主でありポルノ小説の翻訳家でもある三田村成子の店で売られたものだった。買っていったのは猫目的の観光客とは思えないラテン系の男だ。
虎鉄の幼なじみ響子は祖母の営む民宿〈猫島ハウス〉を手伝っていたが、祖父の弟・幸次郎が十八年前に起こった勧当銀行三億円強奪事件の一味だったと知り、衝撃を受けていた。宿泊客の原アカネは島に移り住むため古民宿を買って改築中だったが、積み上げておいた廃材に猫が小便をしてしまい、あまりの臭さに苦情が来ていた。アカネは猫島ハウスでラテン系の男を見かけたと言うが、宿泊客のなかにそんな男はいない。
葉崎市シリーズの一冊。葉崎半島の海の先にある猫島が舞台です。
いろいろイベントは起こるものの、島特有の時間感覚のゆえでしょうか、テンポは遅めでちょっともっさり気味です。猫アレルギーの本署刑事とやる気のない地元警官の凸凹コンビも、おふざけが過ぎていまいち笑い切れません。三田村成子をはじめとする魅力的なお婆さんはいるものの、群像劇というほど各キャラクターが引き立っているわけでもなく、さりとて能動的に事件を引っかき回す探偵役もいないため、全体として平板な印象を受けてしまいます。
事件自体もさほど意外性なく終わってしまいました。あるかもしれない三億円を夢見て覚醒剤がらみの者たちが起こしたという、そのまんまの話でした。崖からの転落者とマリンバイクの衝突事故の真相に、ミステリらしい発想の転換【※崖から落ちたのではなく、崖下のほこらに三億円を探しにきているときに衝突した】がありましたが、その他のごたごたに埋もれてしまっていました。
響子と虎鉄が疎遠になるきっかけになった修学旅行のエピソードは最後まで明かされないままでした。これまでの葉崎市シリーズで描かれた過去エピソードというわけでもなく、今後スピンオフとして書かれることになるのか、このまま謎のままなのかもよくわかりません。
それにしても柴田よしきによる解説がひどい。コージーミステリについての薄っぺらい“私はこう思う”が書き連ねられているだけで、本書についてはほとんど言及なし。たぶん中身を読んでないでしょ、この人。
葉崎半島の先、三十人ほどの人間と百匹以上の猫がのんきに暮らす通称・猫島。その海岸で、ナイフが突き刺さった猫のはく製が見つかる。さらに、マリンバイクで海を暴走する男が、崖から降ってきた男と衝突して死ぬという奇妙な事件が! 二つの出来事には繫がりが? 猫アレルギーの警部補、お気楽な派出所警官、ポリス猫DCらがくんずほぐれつ辿り着いた真相とは?(カバーあらすじ)
周知の通り、猫とミステリの相性はよくて、『猫は知っていた』からシャム猫ココまで山ほどの猫ミスが世に送り出され、愛されてきた。なにしろ、ちょこっとしか登場しない猫の名前をシリーズ・タイトルにしちゃった本もあるくらいなのだ。アメリカには〈猫ミステリライター連合〉みたいな名称の団体まであって、猫ミス専門ライターが佃煮にするほどいるらいい。本書にも猫がたくさん登場(かつちゃんと活躍)するが、うち八割の名前は小説や映画に出てくる猫の名前からとってあります。ただし、出典が全部わかったら、相当の猫バカだと思う。(ノベルス版「著者のことば」)
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