『素晴らしき哉、人生!』(It's a Wonderful Life,1946,米)★★★★★

 ジェームズ・スチュアート主演。フランク・キャプラ監督。

 素晴らしいのは、天使が実は何もしていないところ。自殺するのを止めただけで、あとはジョージ自らの力なのだ。くさい話、とか初めから約束されたハッピーエンド、とかに見えるかもしれないけれど、断じて奇跡ではない。自殺を思い立つまでのジョージの人生を見てきた観客にはそれがわかるはず。

 こんな見え見えの奇跡譚に見えながら、冒頭の会話を別にすれば、クラレンスのシーンは実はすべてジョージの妄想だったという解釈だって可能な作りになっているのだ(あくまで作りとしてそうなっているというだけで、実際にそういう解釈をする人はいないだろうが)。単純なことだけど、そういうところがうまいと思うし、物語としての作法だと思うし、だからこそ名画として語り継がれているのだろう。

 わたしが動物ものや子供ものを嫌いなのは、動物なら何をしてもいい、子供を出しておけば観客は泣いて(笑って)くれる、という安易な発想だけで映画を作り、物語や構成をすっかりおろそかにしている映画が多いからです。同じ理由でセガール(というかアメリカン・ヒーロー)の映画も苦手。ヒーローだから何をしてもいい。『素晴らしき哉、人生!』とはまったく関係のないことをちょこっと書いたのには理由がありまして、ジェームズ・スチュアートとかフランク・キャプラの映画というのももしかすると、彼らが出てくればハッピーエンドに決まってる、という観客の側の了解事項をもとに成り立っているのかな、と思ったりもしたからなんです。

 そういう疑問を持ったればこそ、ハッピーエンドは天使のおかげではなくジョージ自身の半生のおかげだという設定が、この映画のすばらしさであり作法であると思ったのであります。

 ドナ・リードの健気な演技や、ヘンリー・トラヴァースのお茶目な天使、粋なジョージの友人たちや、子供たちのかわいい演技……ライオネル・バリモア演じるポッター氏の悪人っぷりも貫禄充分。絵に描いたような嫌味っぷりは、時代劇ならさしずめ越後屋と呼ばれるのがぴったりの名演技。
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 素晴らしき哉、人生!
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