『ドリアン・グレイの肖像』ワイルド/仁木めぐみ訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★

 『The Pciture of Dorian Gray』Oscar Wilde,1891年。

 ただの世間知らずの美少年だと思えていたドリアン・グレイが、突如として芸術至上主義者になったかのごとく豹変する第7章は圧巻です。それまでは、まあ言っても高等遊民のお気楽思想談義に見えなくもなかったんだけれど、ここで一気に人間の醜い素顔がさらけ出されて、物語がぐっと締まったものなあ。

 悪に染まるその様こそがワイルドの面目躍如。解説でも触れられている『ジキルとハイド』「ウィリアム・ウィルスン」で描かれた単純な善悪の構図とは違って、さまざまな宝石の逸話や詩に惹かれて絡み取られてゆく様子には、読んでいるこちらも引き込まれる。耽美?頽廃? シニカルなヘンリー卿の一言一言も、飽きずに読み進めるのに一役買ってくれます。

 “肖像”のことばかりが大きく取り上げられて紹介されることが多いけれど、はっきり言って肖像なんて二の次でした。いや二の次というのは言い過ぎだけれど、肖像という妖異な設定がなくとも充分に読ませる。これは意外だった。解説を読んで思い出したけれど、ワイルドって『まじめが肝心』(『嘘から出た誠』)の作者なんだもんなあ。そういえばあれも(ちゃんと喜劇として)面白かった(記憶がある)。

 初めて読んだけど、このテーマの作品としてはまさに古典、今でも充分に読む価値(面白さを含めて)のある作品でした。

 いやいくら無垢な美少年という設定だからって、「やめて!」「〜なの」はないだろうと思いつつ。

 美貌の青年ドリアンと彼に魅了される画家バジル。そしてドリアンを自分の色に染めようとする快楽主義者のヘンリー卿。卿に感化され、快楽に耽り堕落していくドリアンは、その肖像画だけが醜く変貌し、本人は美貌と若さを失うことはなかったが……。(裏表紙あらすじより)
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