『秘密(上)』ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫)★★★★★

『秘密(上)』ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫

 『The Secret Keeper』Kate Morton,2012年。

 ケイト・モートンの第四作。

 一九六一年、弟ジェリーの誕生日の日、ボーイフレンドとの約束の時間を待っていた十六歳のローレルは、見知らぬ男が訪ねて来たのを目撃する。「やあ、ドロシー。ひさしぶりだね」と話しかけられた母親は、持っていたケーキナイフで男を刺し殺した。

 五十年後、余命幾ばくもない母親の見舞いに訪れたローレルは、妹のローズから、母親の持ち物である『ピーター・パン』の台本に「ヴィヴィアン」という女性からの献辞があったことを聞かされる。

 ヴィヴィアン――。かつて母親が殺した男ヘンリー・ジェンキンズの妻と同じ名前だ。いったい母とヴィヴィアンとヘンリー・ジェンキンズのあいだに何があったのか。ローレルは母親の若い頃のことを調べ始めた。物語を作りあげて語り聞かせるのが好きだったとはいえローレルが女優になるのも反対していた母親だ……。

 一九三八年。ドリーは夢を追う写真家のジミーを追うように、家族を捨ててロンドンに出た。二年後、老嬢レディ・グウェンドリンのメイドとなり、老婦人に気に入られるようになっていた。近所には小説家ジェンキンズ夫妻が住んでいて、国防婦人会で一緒になった妻のヴィヴィアンは美しさといい気品といいドリーの憧れだった。今もジミーを愛している。とはいえジミーはレディ・グウェンドリンやヴィヴィアンのような人間に紹介できるような相手ではない。だからドリーには計画があった。

 少女が母親の殺人を目撃するという、衝撃的な場面から幕を開けます。なぜ殺したのか? しかも男とは知り合いであるらしい。衝撃に加えてそんな魅力的な謎まで付いて来ました。

 過去と現在が交互に語られるため、若き日のドロシーのことはだんだんとわかってきます。誰もが若い頃は反発し、歳を取ると変わってしまう、そんな当たり前ことが描かれているように思えます。けれどドロシーのそばにいるのはジミーです。ヴィヴィアン夫妻こそ登場しますが、ジェンキンスと確執が起こるようには思えません。二十年のあいだにいったい何があったのか、ジミーはいつの時点でドロシーの前から消えてしまうのか。

 それにしても勝気で上昇志向のドロシーは魅力的です。そりゃジミーもレディ・グウェンドリンも夢中になるはずです。それだけに、もともと娘たちにオリジナルの物語を語るというエピソードが書かれていたとはいえ、ここまで妄想癖があるという展開は思いもよらず、愕然としました。これではほとんどサイコパスではありませんか。

 1961年、少女ローレルは恐ろしい事件を目撃する。突然現われた見知らぬ男を母が刺殺したのだ。死亡した男は近隣に出没していた不審者だったため、母の正当防衛が認められた。男が母に「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と言ったことをローレルは誰にも話さなかった。男は母を知っていた。母も男を知っていた。彼は誰だったのか? ケイト・モートンが再びあなたを迷宮に誘う。(カバーあらすじ)

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