『ミステリマガジン』2011年3月号No.661【特別増大号 ベスト・オブ・ベスト・ショートストーリーズ】

 最近のミステリマガジンからは、新しい読者層を開拓しようという意図が窺えますが、今月の増大号もまさにそんな感じでした。

 ベスト・オブ・ベスト・ショートストーリーズと銘打たれて、海外の名作短篇と、日本人作家によるそのトリビュート新作をが掲載されています。紹介されている海外短篇は、どれも短篇集やアンソロジーで容易に読めるものばかりなので、海外もの好きには物足りませんでした。

 要するにどうやらこれは「海外ミステリの読者が減っている」という現状を踏まえて、日本人作家の新作で国内ミステリ好きな読者を釣って、そのついでに海外の「名作」から海外ミステリの魅力に触れてもらおう――という企画のようです。

 掲載作品は、フランク・R・ストックトン「女か虎か」、ヘンリイ・スレッサー「気に入った売り家」、M・R・ジェイムズ「銅版画」、トム・ゴドウィン「冷たい方程式」、ロバート・L・フィッシュ「アスコット・タイ事件」(新訳)の五篇と、それぞれのトリビュート山口雅也(「アブラハム・ネイサン作/山口雅也訳」名義)「異版 女か虎か」、大倉崇裕「登頂」、三津田信三「祝儀絵」、石持浅海「黒い方程式」、村崎友「T坂のベーグル事件」(ホームズ・パロディを明智小五郎でパロディするという三重のパロディ)。ほかに「私の好きな短篇ベスト3」アンケート多数。アンケートが一番でした。

 
 

「迷宮解体新書(第39回)丸山天寿」
 邪馬台国。昔の大衆小説。
 

第一次大戦での大量死と本格探偵小説との関係についての疑問 笠井潔氏のチャンドラーやヴァン・ダインに関する見解をめぐって」権田萬治
 いきなりぽこんと。単発なのか、『容疑者X』ふたたびなのか。笠井氏の事実誤認に関する指摘は説得力があるのに、時代の流れと個人の執筆意図をごっちゃにしているので、すっきりしない。
 

「独楽日記(39)幸福な男の幸福な本」佐藤亜紀
 ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』。めずらしく毒がない。
 

「幻談の骨法(7)夢オチでなにが悪い。」千野帽子

「トッカン お茶会報告〜ガールズ・トーク
 誰得な感じなのですが、これも女性層に読者を広げようという狙いでしょうか。
 

「DILATED TO MEET YOU―開かせていただき光栄です―」(第07回)皆川博子
 ――エドとナイジェルが襲われた。エヴァンズに脅されたロバートの差し金だろうか……? だがサー・ジョンは証拠がないと釘を刺す。
 

「書評など」
◆ニコロ・アンマニーティ『Io et te(あたしとあんた)』は、自閉症気味の少年が友だちとスキーに行くと嘘をついてしまい、自宅の地下室に一週間閉じこもる。そこに腹違いの姉から電話がかかってきて……10年後、あのときのことを回想し……。

ジェフリー・アーチャー『遙かなる未踏峰は、マロリーの生涯の物語。西崎憲『蕃東国年代記は、翻訳家としてお馴染みの著者による第二作。『グラン=ギニョル傑作選 ベル・エポックの恐怖演劇』、フェリックス・J・パルマ『時の地図』、米澤穂信『折れた竜骨』、佐藤亜紀『醜聞の作法』

「『邪悪の家』を訳して感じたことあれこれ」真崎義博
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  『ミステリマガジン』2011年3月号
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