『地上最後の刑事』ベン・H・ウィンタース/上野元美訳(ハヤカワ・ポケミス1878)★★★★☆

 『The Last Policeman』Ben H. Winters,2012年。

 半年後に地球が滅びるかもしれないときに、人を殺してまわること(そしてそれを捜査すること)に意味はあるのか――明らかになったのは、極限状態によってひときわ浮き上がらせたシンプルな問題でした。

 そんなシンプルな解答になかなかたどり着けないところや、ひたすら捜査に邁進するところに、新人刑事――それも「やりたいことリスト」をやるために辞めた刑事の穴埋めに急遽刑事に抜擢された新人警官――らしさが出ているようにも思えます。

 164ページで明らかにされる、泡坂妻夫のを髣髴とさせるような、それでいて実際には極めて論理的でもある、関係者の考え方がユニークです。

 終末に耐えられない同僚刑事が、比較考察サイトに入れ込むさまは、何気ないだけにいっそうの狂気を感じました。同じく「考えないようにする」ことができない同僚に語り手がコーヒーをこぼして、考えても「どのみち、床にこぼれた」と諭す場面には、その機転と鷹揚さにしびれました。

 「そんな考えは傲慢だよ(中略)二つの天体は(中略)おなじ時間におなじ場所にいあわせる。“おれたちの頭の上に落ちてくる”わけじゃないんだよ、いいか? “おれたちに向かって飛んでくる”わけじゃない。そういうものなんだよ」

 これは「小惑星が『頭の上に落ちてくる』ときに一人でいたくない」と言った妹に対し、語り手が答えた台詞です。こういう考え方ができたなら、どれほどいいか。誰もができるわけではないし、ましてや実際に落ちてくる状況とあっては――。

 三部作の第一作。さらに時間が進んだ状態の、残る二作もポケミスから刊行されています。

 ファストフード店のトイレで死体で発見された男性は、未来を悲観して自殺したのだと思われた。半年後、小惑星が地球に衝突して人類は壊滅すると予測されているのだ。しかし新人刑事パレスは、死者の衣類の中で首を吊ったベルトだけが高級品だと気づき、他殺を疑う。同僚たちに呆れられながらも彼は地道な捜査をはじめる。世界はもうすぐなくなるというのに……なぜ捜査をつづけるのか? そう自らに問いつつも粛々と職務をまっとうしようとする刑事を描くアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞作!(裏表紙あらすじより)

  


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