『Die Geburt des Antichrist』Leo Perutz,1921年。
靴直しのフィリッポは元殺人犯でした。ある夜、夢でヨハネのお告げを聞きます。生まれた子どもはアンチクリストだ。人殺しと脱走した尼僧のあいだに生まれた者は、戦争と擾乱をもたらすであろう。靴直しはどうにかして人類の敵を亡き者にしようとしますが、そのたび女房に邪魔され、ついにはかつての囚人船仲間に赤ん坊殺しを依頼します。
幻想的な物語を得意とする印象の強いレオ・ペルッツによる、ユーモア漂う作品でした。お告げを信じて我が子を殺そうとする父親と、そうはさせじと相手取るおっかさんの攻防は、鬼気迫るというよりはドタバタ・コントのような楽しさに満ちていました。「あんたはあの子の父親じゃない。あの子はアンチキリストじゃない」という言葉に、一瞬納得して丸く収まりかける始末です。
アンチキリストの意外な正体が明らかになります。なるほど彼は確かに一つの世界を滅ぼすことになるのでした。