『ハヤカワミステリマガジン』2008年1月号No.623【21世紀の来たるべきミステリ作家たち】★★★☆☆

 今月号からリニューアル、正式タイトルも『ハヤカワミステリマガジン』と改称されたようです。目次ページが文芸誌っぽくない。ちょっとおしゃれ。ロゴも微妙に変わってる。ロゴデザインも森ヒカリ? 見てくれはともかく中身はあんまり変わってませんけどね(^_^;。米澤穂信が『ミステリマガジン』にというのは意外といえば意外なのかもしれないが。
 

「座談会連載 第1回 『新・世界ミステリ全集』を立ち上げる」北上次郎新保博久池上冬樹・羽田詩津子
 架空の新ミステリ全集を編むという企画。単なるベスト作品選びじゃあなくって、どんなコンセプトにしようかとかいうところから入っていてかなり本格的。ただし有り物の傑作選になるのはやむをえない。もし現実に出版するのであれば新訳や初訳を入れるべきなのだけれど……。
 

「迷宮解体新書 第1回」有栖川有栖
 「ミステリアス・ジャム・セッション」を改題しただけ? 主に新作『女王国の城』についてです。

「私の本棚 第1回」逢坂剛
 逢坂氏は拳銃を持った嬉しそうな姿が定番になってしまった(^^)。

「私もミステリの味方です 第1回」映画監督・小泉堯史
 

「特集 21世紀の来たるべきミステリ作家たち」

インタビュー「綾辻行人の未来予想図」「道尾秀介の未来予想図」

「ご自由にお使い下さい」石持浅海★★★☆☆
 ――ことの起こりは小さな事件だった。薬科大学の学生が青酸カリで服毒自殺した。だが見つかった青酸カリは記録簿よりも少なかった。残りはどこへ行ってしまったのか。

 ショート・ショート。この著者らしい、醒めた(というより人間らしい感情の欠落した)登場人物という設定が、この作品の場合は上手く活かされていると思います。
 

「二〇一三年第二回大日本ミステリ学会特別講演録」海堂尊★★☆☆☆
 ――本日ここに第二回大日本ミステリ学会が開催されたことを嬉しく思います。問題になったのは、「ミステリとは何ぞや」という根源的な永久命題でした。

 ショート・ショート。んと、これは、諷刺というかパロディというか。なんですが、こういうのはもっと悪意があったり機知があったりしなければ面白くないわけで。これじゃあそのまま、だものね。
 

「川越にやってください」米澤穂信★★☆☆☆
 ――夢の話をエッセイ代わりに書くことにしました。タクシーに乗り込んだ私はこう言いました。「川越にやってください」と言っても私は川越のことは何も知らないのです。私が知らないことを、私が夢見ている運転手さんが知る道理もありません。

 あらかじめ〈夢〉という設定を用いながら、夢のなかでかろうじてミステリ(風味)を成立させている綱渡り。最後のセリフをミステリの稚気と取るか逃げと取るか。
 

「縛り首が多いほど」イアン・ランキン/延原泰子訳(A Good Hanging,Ian Rankin,1992)★★★☆☆
 ――パーラメント・スクエアに絞首台が作られたのは、久しぶりのことだった。エジンバラにはこの季節、悪ふざけが氾濫している。フェスティヴァルが開催中で、演劇好きの若者が押し寄せている。リーバスは舞台装置の絞首台の前に立っており、その先端からぶらさがっている男の死体が揺れていた。

 ランキンは微妙なんですよねえ。今月号で古山裕樹氏も「ハードボイルドにも通じるものがある」と書かれてますが、問題はそのハードボイルドな主人公が警察小説のフットワークとノリのよさで捜査に当たるというのが、どうにもちぐはぐで。意外とミステリ度が高いのもこの場合むしろマイナス?
 

「プロメテウス・トラップ」福田和代★★★★☆
 ――その夜、男に会った。ショット・バーのカウンターだった。男がカウンターの上をすべらせてよこしたのは、ICチップだった。「あなたなら読めるでしょう。プロメテ。十年前、FBIのシステムに侵入できたあなたなら」能條は思わずグラスを大きく揺らした。

 懐かしい匂いがする(^_^)。扱われているのがICチップだろうと何だろうと、所詮は人間のやること、謀略の中身は変わらないのです。謀略・冒険・スパイ小説は、こういう形で生き残っていくのだろうなあ。
 

「プラスティック・パディ」ジョージ・P・ペレケーノス/佐藤耕士訳(Plastic Paddy,George P. Pelecanos,2005)

「ミステリ相関図 日本篇」杉江松恋/「ミステリ相関図 海外編」古山裕樹
 特集はここまで。
 

「追悼三川基好」田口俊

「映画『ゼロ時間の謎』監督インタビュー」
 『奥様は名探偵』のフランス人監督による、クリスティ第二作。

「クライム・コラム #297」オットー・ペンズラー
 ロバート・パーカー。こんなベタな会話を面白いと思ってるようじゃあ駄目だろう。。。
 

「独楽日記」佐藤亜紀(第1回 不滅の小四魂)
 佐藤氏のことだから驚きはしないけれど、もちろんミステリの話ではない。『ロリータ、ロリータ、ロリータ』は次回だそうで、今回は『サウスパーク』。ミステリ専門誌の連載第1回が『サウスパーク』。素敵すぎます。
 

「ミステリ・ヴォイスUK 第1回」松下祥子
 これも「英国ミステリ通信」の改題ですね。連載が引き続いているものと改題継続のものとの差はいったい何なのだろう。

「新・ペイパーバックの旅 第22回=デル・マップバック拾遺」小鷹信光
 

「書評など」
 国内ページが増えたんだそうであります。
椿三十郎のリメイクについて河原畑氏曰く、「なんせ俳優の顔付きが可愛らしくて」ってのは仕方ないよなあ。オリジナルが三船敏郎と仲代達也だもんなあ。てゆうか、越えられるわけないじゃん。と誰もが思う作品のリメイクに挑戦しただけでも評価しときましょう。とはいえ新聞広告が、パチンコ屋の宣伝みたいでしょぼかったのも事実。。。

◆インフォメーションページにまたもや嬉しそうな逢坂氏の写真が(^_^;。ここまでプッシュしますか(^^)。親近感がわきますけどね。

◆落穂拾いの(?)論創社から、ときどき出される大物ですが、今回はクリスチアナ・ブランド『ぶち猫 コックリル警部の事件簿』であります。オリジナルが2002年刊行ということは、ちゃんと(!)翻訳権を取ったんだ。偉い。訳も深町真理子他と安心できます。

◆せっかく増えた国内ページなのだが、個人的に面白そうだと思ったのが桜庭一樹平山夢明の二冊しかなかったよ。。。

◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
 マシュー・ニール『英国紳士、エデンへ行く』。プラチナ・ファンタジイの一冊です。大森望氏の連載↓も始まったし、このページはSFに乗っ取られた感がありますな(^_^;。

大森望「SFレビュウ」◆
 小川一水『時砂の王』。「邪馬台国を舞台にした「ターミネーター」」という発想は面白そう。小川一水氏は『SFマガジン』掲載の「千歳の坂も」がつまらなかったからスルーしてたんだけど、ちょっと読んでみようかなという気になりました。

◆松坂健「ミステリ・サイドウェイ」◆
 ということで周辺書。久生十蘭『従軍日記』が出ましたねえ。来年は全集(予定?)ですか。楽しみです。
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第117回 叙述による手がかり」
 前回の高木彬光「妖婦の宿」に続いて、鮎川哲也「達也が嗤う」もそういうふうに評価できるんですね。なるほどなあ。しかし「妖婦の宿」はともかく「達也が嗤う」にまでなっちゃうと、もはや小説とは別の何かであるような気もするのです。
 

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第37回 地味井平造「煙突奇談」」野崎六助
 地味井平造も一冊ほしい作家なのだけれど、どうか一冊にするほど作品がないのか。。。絵に描いたディレッタントがかっこいい。
 

「旅人 本の虫レベ」レベッカ・スーター(第1回 故郷イタリアの注目作家集団「元名」
 世界各国の小説を紹介する新連載。
 

「殺人占い」柳原慧
 んー実質はただの星占いをミステリ&ホラーのキャラに置き換えただけなんですけども、それに加えて意味不明の蘊蓄がございます。
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