『ミステリマガジン』2007年10月号【特集:戦争とミステリ】★★★★☆

 今月号は戦争とミステリということで、主に冒険小説ガイド。ただし独立戦争が舞台のホックの短篇も掲載。
 

スーダンの鷹」デイヴィッド・グーディス高橋知子(Hawk of the Sudan,David Goodis)★★★★☆
 ――セイトは上官の決めた戦略に異を唱えた。軍法会議は翌日の予定だ。何かするとしたら、今日しかない。セイトは独房から脱走すると、ホーカー・ハリケーン戦闘機に乗り込み、離陸した。めざすはエチオピア山の頂――。

 『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』の作家による、エチオピア独立戦秘話。ここにあるのは現実の戦争というよりもほとんど理想化されたヒーローものでしかないんだけれど、それだけに読んでいて痛快。
 

「鳥かごの果樹園」エドワード・D・ホック/対馬妙訳(The Orchard of Caged Birds,Edward D. Hoch)★★★☆☆
 ――ジョージ・ワシントンの部下アレグザンダー・スウィフトは、ベネディクト・アーノルドとホレイショ・ゲイツの部隊から近況を聞いたあと、偵察に向かった。果樹園の木の枝に鳥かごを吊るして百種類以上の鳥を飼っている農場だった。中に入ると、インディアンの斧で頭を割られた禿頭の男がいた。

 ホックらしく手堅くまとまった好篇。何というか、誉め言葉として、ミステリクイズ向き(犯人当て向き)なのである。
 

「戦争とミステリ/エッセイ」
 日本の戦争ミステリと海外の戦争ミステリ。それぞれが「冒険小説で読む○○」というタイトルであることからわかるとおり、つまり戦争ミステリとは冒険ミステリのことなのだ。子どものころ読んだジュール・ヴェルヌのような小説が読みたくて「冒険小説」を手に取ったわたしを待っていたのは、愚にもつかない国際政治謀略小説であった……というトラウマを抱える身としては、このジャンルは未開地なのでこういうガイドはありがたい。

 ほかに、数藤康雄によるクリスティーと戦争、小山正によるウッドハウスと戦争に関するエッセイ。

 特集はここまで。 

「ミステリアス・ジャム・セッション第77回」柄刀一
 柄刀一に限らず、最近のエンタメ創作全般は、流れや構成と無関係に無理矢理社会派ぶった演説を持ち込むから、それが嫌でいつの間にか遠ざかってしまったのだけれど、『密室キングダム』という開き直ったかのようなアホなタイトルにはちょっと惹かれるなあ。
 

ポルトガルの四月」第01回 朝暮三文★★☆☆☆
 ――記憶をなくした男がたどる、ヤバい展開の奇妙なハードボイルド。

 下手な比喩ほどしんどいものはない。「普通は空から降らないような痛いなにか」とか「中身がブリジッド・バルドーであれば」とか...○| ̄|_
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第114回 叙述トリックと探偵小説的真相」笠井潔

「新作戯曲“豪華客船ミステリ”上演間近「汽笛が殺意を誘うとき」へのお誘い(後編)」若竹七海インタビュー
 戯曲、出版してほしいな。
 

「映画と私」石上三登志×逢坂剛×山野辺進★★★★☆
 いやもう見どころは何と言っても、早撃ちを披露してしまうお茶目な逢坂さんでしょう(^_^)。
 

「今月の書評」など
◆今月はウッドハウス『マリナー氏の事件簿』クレイトン・ロースン『虚空から現れた死』くらいですかねえ。

小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
 何よりも「日本の歌が「演歌」になる前、歌謡曲や流行歌と呼んでいた時代の日本の歌」というフレーズに惹かれまつた。

◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
 今回は佐藤亜紀翻訳のジョン・バンヴィル『バーチウッド』です。
 

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第34回 江戸川乱歩『ペテン師と空気男』(後篇)」野崎六助
 最近はさすがにそういうこともなくなっただろうと思うけれど、ちょっと昔の文庫解説などを読むと、ほとんど乱歩評の引き写しだったりしたことがよくあった。乱歩がいいと言えばいい、乱歩がだめと言えばだめな作品という、“一般的な評価”がなされていることになっていたのだ。そういう意味で、この『ペテン師と空気男』の読み直し評も面白かった。
 

「新・ペイパーバックの旅 第19回=デル・マップバックのジャンル表示マークの謎」小鷹信光
 最近レックス・スタウトの新訳が続々と登場してうれしい限りなのだけれど、やっぱりファンはウルフものを待ちわびてるのである。他シリーズもいいけど、ウルフもの全訳されたし。
 

「フィンガー・マン」レイモンド・チャンドラー田口俊樹訳(Finger Man,Raymond Chandler,1934)★★★☆☆
 ――大陪審の法廷からは四時すぎに解放された。ティネンはシャノン殺しで午後にも起訴されるだろう。今度ばかりは気をつけた方がいい。フランク・ドーアとティネンは親密な間柄で、ドーアはあちこちにつてを持つ男だ。オフィスのドアを開けると、ルー・ハーガーが座っていた。「今夜ルーレットでひと勝負しようと思ってね。こっちには必勝パターンがある。銃を持っている人間が要るんだが」

 新刊告知を見ると、チャンドラー新訳短篇集は『ロング・グッドバイ』に倣って、『トラブル・イズ・マイ・ビジネス』『キラー・イン・ザ・レイン』『トライ・ザ・ガール』『レイディ・イン・ザ・レイク』と全冊カタカナ表記で行くことにした模様。でも「スマートアレック・キル」や「フィンガー・マン」じゃあ何のことだかわからないよ。

 チャンドラーといえば悪女(?)なわけだが、本篇の悪女はあんまり魅力がない。なんかただの小悪党という感じで。人の命大安売りのアメリカン・ハードボイルドにおいてもとりわけ大安売りな本篇である。しかし新訳短篇を続けて読んでみると、チャンドラーはプロットが弱いというイメージが覆される。まあ長篇になると別なんだろうけど。やっぱ長篇のイメージが強かったからなあ。
 

『ファイナル・オペラ 呪能殺人事件」(第2回)山田正紀

『藤村巴里日記』第07回 池井戸潤
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