新潮文庫『ヴェニスに死す』でむかし読んだはずだから、再読になります。「新訳」ならではという箇所は特に感じませんでした。
ト書きと心理的ト書きとでもいうような文章が交互にえんえんと続くという、とんでもない小説であります。
じじいの目には世界はこういうふうに映っているのか。生きててもつまんないんじゃないの?と思ってしまう。恋をしても、恋よりも苦悩ですか。
芸術と生活――別にそれは仕事とプライベートでも純文とエンタメでもなんでもいいんだけど、切り替えられない人ってのが世の中にはいるんですよね。
本来なら、恋って芸術ではないはずなんです。でも芸術と同じように考えることしかできない人がいる。だから、帯に書かれているように「『美』と『エロス』」だとか「人間の全体性の回復」だとかいう恐ろしい話になってしまう(^^;。
俗界の世事も芸術となりうるのか、はたまた文豪のご乱心か。
まあ他人事なのでいいんですが、ちょっと鹿爪らしい気分にはなれないときに読んだもので、付き合ってられませんでした。
『Der Tod In Venedig』Thomas Mann,1912年。
高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオに惹かれていく。おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて……。(裏表紙あらすじより)
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