『S-Fマガジン』2008年9月号No.629【中国SF特集】★★★★☆

 今月は何と中国SF特集。こんな調子でときどきは世界のSFを特集してほしい。

「水棲人」韓松/立原透耶訳(水栖人,Song Han,2001)★★★☆☆
 ――水棲人が誕生したのは、ある秋の日だった。大部分は失敗したが、この横浜基地だけが成功したのだ。それはただちに最重要軍事機密となった。無邪気な時代は過去のものとなってしまった。水棲人でさえ、戦争の噂を耳にしていた。

 硬めの文体に人種間戦争という、クラシックな味のあるSF作品。古くさいのはわざとなのか天然なのか。全体的にイデオロジカルな匂いのぷんぷんする作品です。中国では大人気作家なのだそうですが、日本では無理だろうな。
 

「さまよえる地球」劉慈欣/阿部敦子訳(放浪地球,Cixin Liu,2000)★★★★☆
 ――わたしは闇夜を見たことがない。わたしは星を見たことがない。春を、秋も冬も、見たことがない。わたしはブレーキの時代に生まれた。当時地球は自転を停止したばかりだった。地球が自転を止めるには、連合政府の初期計画より三年長い、四十二年を要した。

 よくこんなこと思いつくなあというアイデア、しかも思いついたって普通はハードSFとして書こうとは思わないだろうに。いや正直ムチャクチャだと思うんだけど、アイデアのバカバカしさ(誉め言葉)だけでも面白い。派手さ、ロマンス、スペクタクル、科学的興味、はったり、スリル、人情、アクション、どんでん返し……ハリウッド映画の要素を15分に詰め込んだような贅沢な(でも詰め込みぎな)作品。
 

「シヴァの舞」江波/阿部敦子訳(湿婆之舞,Bo Jiang,2000)★★★☆☆
 ――人生なんて生きるに値しない。問題はいかに死ぬべきかということだ。志願者の募集があった。アイボウィルスのワクチン実験の被験体が必要らしい。ウィルスはあらゆる隙を狙って侵入してきたが、低温にだけは弱く、南極と北極海だけが避難場所として残された。

 破滅SFに始まり、ミイラ取りがミイラになって新たな人類という相手の思想に取り込まれる、災厄ものの一つのパターンです。為すすべもない致死のウィルスの脅威が、俯瞰的に、科学的に、直接的に次々と描かれる前半。ウィルスの正体が明らかになってからは、その思想に筆が割かれます。
 

「中国SFの現状」姚海軍/林久之
「〈科幻世界〉の今日」林久之
 SF雑誌『科幻世界』の副主編(副編集長?)による、中国のSF状況紹介。SFは科普(科学普及?)小説であるべきか否かだなんて問題が今も根を張っているということは、裏を返せば中国SFはこれからどんどん飛躍する可能性を秘めているともいえるのかな。集団ヒステリー気味なのは国民性ですね。
 

「My Favorite SF」(第33回)吉田親司
 『マザーズ・タワー』刊行に合わせて吉田親司が登場。クラーク『楽園の泉』の読み方ガイドの趣もある。
 

「SFまで100000光年 60 隣の早川さん」水玉螢之丞

「樹海」丸山幸子《SF Magazine Gallary 第33回》
 その名の通り、「樹海」。樹々の洪水が町を襲う。飛び魚のような鳥が飛び交う。
 

「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀鷲巣義明・添野知生・福井健太・飯田一史・毛利公美
◆しまった。星新一ショートショート劇場なんてものがやっていたのか。見たかったな。

◆映画はバットマン最新作『ダークタウン』。渡辺氏は否定的です。ということはバットマン・シリーズ自体があまり好きではないわたしには意外と合うかも。ナイト・シャマラン監督最新作は『ハプニング』。現存の監督のなかでは、監督の名前で観る数少ない一人です。
 

「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之牧眞司長山靖生・他
伊藤計劃メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット、取りあえず買っておいてまだ未読なんだけれど、プレイヤー以外には難しいのか。ううむ。

◆ほかにはジェフリー・フォード『緑のヴェール』、松尾由美『人くい鬼モーリス』、水沫流人『マリオのUFO』、ハートリー『ポドロ島』

モーウッド他『ホモ・フロレシエンシスは新しく発見された人類「ホビット」に関するノンフィクション。
 

「地球移動作戦」03 山本弘
 ――地球に破滅をもたらす星・シーヴェル。その観測船に原因不明の異常が発生する――。(袖あらすじより)

 この手の作品は連載だとキツイな。前回までの設定の細かいところまで覚えていられない。
 

「魔京 14」朝松健

イリュミナシオン 15」山田正紀
 

「5017」草上仁
 ――国際知的所有権管理局に提出された一枚の登録申請書。審査官の判断は?(袖あらすじより)

 著作権にまつわるショート・ショート。
 

宇野常寛インタビュウ」
 「いろんなものを混ぜて書くことで、読者を刺激したかった」って、言っていることはわかりますが、連載を読んでその意図を汲むのは無理があったと思うけどなあ。
 

大森望のSF観光局」21 人生に必要なことはメリルに学んだ(その2)

「デッド・フューチャーRemix」(第74回)永瀬唯【第12章 ハイ・フロンティア】

「SF挿絵画家の系譜 30 秋好巒」大橋博之

「サはサイエンスのサ 163」鹿野司
 究極の謎について。ははあ。面白いな。
 

「家・街・人の科学技術 21」米田裕「HSDPA」
 

「センス・オブ・リアリティ」
「黒く塗れ」金子隆一……何をやってるんだ(^_^;。飛行機の味って。。。
「刑が執行されても……」香山リカ……宮崎勤について。
 

「綺幻燈玻璃繪噺《きねおらまびいどろゑばなし》」今日泊亜蘭★★★☆☆
 ――その料亭の奥座敷は、さすが大江戸目貫の場所だけに、築山・泉水の配置の妙に、五十畳の大広間と、その上手床柱寄り、女将の言葉にうなずいてゐる、これぞ琉球王の裔:英侯爵その人である。「そこで本題だが、皆は活動写真といふものをご存じか?」

 これぞクライマックスという言葉が相応しい、畳みかけるような展開が面白い。いや展開自体は珍しくないんだけど、改行したらもう次の展開になっているみたいな語り口がいい。たぶん講談とか紙芝居とかはこんな感じなんだろう。凝った文体は慣れるまで読みづらいけど。
 

「MAGAZINE REVIEW」〈アシモフ〉誌《2008.2〜2008.4/5》深山めい
 エムシュウィラー「どこにも続かぬ道の覇者」(Master of the Road to Nowhere)のほか、S・P・ソムトウ(ソムトウ・スチャリトクル)「異端裁判」(An Alien Hersey)は中世を舞台に不時着した宇宙人=怪物と遭遇する神父たちの物語。ジル・ド・レの城のある村という設定がいやがうえにも雰囲気を盛り上げます。この二作は邦訳してほしいな。
 

「おまかせ!レスキュー Vol.123」横山えいじ

「(They Call Me)TREK DADDY 第17回」丸屋九兵衛

「閃光ビーチ」菅浩江/佳嶋イラスト
 ――健康的な日灼け肌を映し出す〈シャクドウ・ギア〉の効果とは?(袖あらすじより)
 -----------------------

  『SFマガジン』2008年9月号
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ