『アレクサンドル・デュマ』アンドレ・モーロワ/菊池映二訳(筑摩書房)

 『Les Trois Dumas』André Maurois,1957年。

 原題『三人のデュマ』が示すとおり、三代にわたるアレクサンドルの伝記です。デュマ・ペールの父であるトマ=アレクサンドルについてはほんの少ししか書かれていませんが。

 大デュマと小デュマは活躍した時期が重なっているので、どちらにも同じくらい筆が割かれ、なおかつ二人の往復書簡なども掲載されているのですが、トマ=アレクサンドル将軍は大デュマが小さいころに亡くなっているんですよね。もしももっと長生きをして、しかも軍人として活躍しているときに大デュマも作家として活躍していたりしたら、ものすごく面白かっただろうに、と思います。

 というのもこのトマ=アレクサンドル将軍、それくらい魅力的な人物なのです。足で馬を挟んだまま梁にぶらさがっただの、敵の兵士をひょいひょい放り投げただの、一人で六聯隊やっつけただの、あり得ないくらいの怪力の持ち主。それもそのはず、田舎出の一将軍ゆえか資料もあまりなく、参考になるのは大デュマの『回想録』くらいだというのですから、まったく信用できません(^_^;。

 とはいえ相当にすごい人だったのは間違いないらしく、その強さゆえにぐんぐん出世してナポレオンに取り立てられて、でも遠征の正当性に疑問を抱き、やがて帰国途中にナポリで捕虜となり、毒の入った食事を供され続けたために身体を壊してしまい、失意のうちに亡くなったという、そのまんま小説みたいな人です。

 父が亡くなったときの大デュマと母の会話がほろりとします。

 「どこへ行くの」「天国に行くんだ」「天国で何をするつもり」「パパを殺した神様を殺すんだ」

 さて主役の大デュマと小デュマですが、何しろ本書は〈伝記〉なので、作品がらみの話よりもプライベートなエピソードが大半を占めています。二人ともほとんど女と借金の話じゃないか(^^;。新しい愛人と同棲してから、元の恋人の息子(小デュマ)を引き取ろうとするなんて、責任感が強いんだか滅茶苦茶なんだかよくわかりません。決して借金を返そうとはせず、借金取りが来るたびに食事に招待して帰りは馬車で送り届けていたとか。お金がないのに(^^)――実人生も大デュマの方が豪快で楽しいみたいです。

  『アレクサンドル・デュマ
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