「Le ventre de Tom Joë」「La bouteille à la mer」「La preuve」「Conte moral」Gabriel de Lautrec(『Les veillées du Lapin Agile』より)

 この人もジョルジュ・オリオール同様『笑いの錬金術』で知った作家。ガブリエル・ド・ロートレック。こちらは比較的入手しやすいようですが、取りあえずネット上で読めるものを拾い読み。

「Le Ventre de Tom Joë」★★★☆☆
 ――私は病院の敷居をまたいだ。手術室ではトム・ジョーが手術台に寝かされ、三人の残忍な外科医に取り囲まれて開腹手術を受けていた。手術が終わり、医師たちはお祝いの歌を歌っていたが、不意に一人が声をあげた。「眼鏡がない!」どこにもない……ということは、お腹のなかだ! 糸を抜き、腹を開けて、眼鏡を取り出した。二人目の医師がハンカチで汗を拭……おうとした。お腹のなかだ!

 「そんなにしょっちゅう腹を開けるんだったら、ボタンで留めておいた方がいいと思いませんか?」。ちょっとオチが弱い。だけどこういうのは細かいことを考えるとますます可笑しくなってきます。ハンカチや嗅ぎ煙草なら、一仕事終えて「さて……」というのもわかるのですが、眼鏡って……? 老眼ってことなのかな、それとも見えてなかったのか。。。とか、無駄にリアルに考えてしまいます。
 

「La bouteille à la mer」★★★★☆
 ――トム・ジョーがラムの壜を持って釣りに行き、壜を落としてしまった。釣糸を垂らしてみた。網を投げてみた。銛を打ってみた。潜水夫を雇ってみた。すべて無駄に終わった。ところが三年後、とうとう壜を釣り上げると、ラム酒は空っぽで、一匹の魚が入っていた。大きすぎて壜の首でつかえている。どうやってなかに入ったんだ? ボトルシップみたいに部品ごとに? 馬鹿げてる! 生きた魚だぞ! 小さなときに壜に入って、ラムを飲み干したせいで大きくなって出られなくなったに違いない……。

 で、その魚はどうしたんだい?とたずねる語り手に、トム・ジョーは一言「食べたよ。ラムの香りがして美味しかった」。驚いた語り手が「何で!?」と問いつめると、「何で? 別に普通に、栓抜きでだよ」。これは古典的なギャグですね、「何で来た」「電車で」というやつです。
 

「La preuve」★★★☆☆
 ――死刑囚のトム・ボビンズはダイヤを偽造することができると豪語していた。だがその方法を口にすることも実行することもなく、処刑の日がやって来た。電気椅子に座らされ、いましもスイッチが押されたそのとき……。

 ユーモアではなく、シリアス・タッチの作品でした。いや、でも、電気椅子で黒こげどころか雷に打たれまくって炭素のかたまりのダイヤになった、というのはユーモアなのかも。
 

「Conte moral」★★★☆☆
 ――ぼくが流れ着いた島は、トム・ジョーという人食い人種の王様が支配していた。「何か欲しいものはないか」「牛乳をください」「わかった、おい、黒い牛を連れて乳をしぼらせろ」「それが陛下、黒い牛は六頭とも病死してしまいまして……でも白い牛なら……」「La traite des blanches(白い牛の乳搾り/婦女子売買)? それはいかん」

 フランス語の駄洒落でした。トム・ジョーというのは作者の持ちキャラなんですね、ほかの作品では語り手の友人だったのに、この作品では人食い酋長になっています。
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 『笑いの錬金術』(「節酒の教え」「ダモクレスの剣」収録)


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