『Les histoires de Tom Joë』Gabriel de Lautrec(L'édition Française Illustrée)★★★★☆

 『笑いの錬金術 フランス・ユーモア文学傑作選』[amazon]に「節酒の教え」「ダモクレスの剣」が掲載されているガブリエル・ド・ロートレックの短篇集。1920年発行。
 

「Les amours de Tom Joë」(トム・ジョーの恋)★★★☆☆
 ――久しぶりに会ったトム・ジョーはげっそりとやつれていた。驚いた僕に、トム・ジョーは恋の顛末を話してくれた……。

 ラブレターを牛乳箱に投函しては牛乳をひっくり返してしまう……等々、わざわざ馬鹿なことばかりしでかして相手を怒らせ、軒先の赤ん坊を見ては「ラブレターが赤ん坊に化けた」と斜め上の発想をしてくれる、典型的な与太郎物語。
 

「Une cure merveilleuse」(驚異の治療法)★★★★★
 ――リューマチで悩んでいる老婦人は、これまでいろいろな温泉に通ったが効果がなかった。そしてどうやらこの町も……だが同席した老紳士がそれをはげました。「この町は健康に効果がありますよ。昔のわたしはひどく身体が弱かったのですが……」

 歩くこともままならなかった虚弱な老人がたくましく生まれ変わった驚異の治療法とは!? 叙述トリックだ(^_^;。切れ味のいい一発ネタ。「昔は50リーヴル(25kg)しかなかった」という老人の発言も、大げさなギャグかと思ってスルーしてしまいましたが。ギャグ小説であること自体がひっかけになっているんですね。→ 翻訳 しました。
 

「L'homme aux deux jambes de bois」(二本足の義足の男)★★★☆☆
 ――Samは義足でどんなことでもできた。ダンスをしたり、木に登ったり……。あるとき農夫に右足を折られてしまったが……。

 ん? よくわからない。膝がなくなったから膝を曲げられなかった、ってことなのかな?
 

「Le chevalier Van der Proof」(勲爵士Van der Proof)★★★☆☆
 ――Van der Proofが知人を招いて晩餐を取ろうとしていると、役人の訪問があった。城壁の警備当番の催促だった。勲爵士は不吉な思いに囚われながらも、晩餐を中断して警備に出かけた。そこに兎が現れた。兎を間近で見たことがない勲爵士は、大量の兎が踊っているのを見て逃げ出した。朝になっても戻らない勲爵士を心配して探していると、老婦人が自分の目撃したことを聞かせてくれた。勲爵士は城壁を破ろうとする敵の兵士たちと勇敢に戦っていた――と。

 駄目人間な主人公なのに、周りが勝手にいい方に解釈してくれる……というツボを押さえた笑い話。役人にやって来られて、「何か悪いことをしただろうか?」といちいちメモを調べる(ふつうは悪いことをしてもメモなんかしません!)のが可笑しい。
 

「L'épée de Damoclès」ダモクレスの剣

 『笑いの錬金術』[amazon]に邦訳があります。
 

「Tom Joë au Pôle Nord」(北極のトム・ジョー)★★★☆☆
 ――天文学に興味を持ったトム・ジョー。まずは地球から調査することにした。ものの本によると、子午線とは経線のことであり、パリを通っているらしい。そこで子午線に会いに天文局に出向いたがいないと言われた。仕方がないので北極を目指すことにした。トラブルの連続だった。肉がないので魚を食べざるを得ず、罐詰には手をつけたくないのでエスキモーを食べざるを得なかった……。だが北極があるはずの場所には極はなかった。仕方がないので周囲を調べると、洞窟があり、そこには太古の動物たちが眠っていた。プレシオサウルス、マンモス、デイノテリウム、モラトリアム……。「モラトリアム?」「ああ、正真正銘の本物さ。みんなシカゴ博物館に寄付したよ。北極は見つけられなかったけれど……ああ、そうそう、熱湯が湧き出していたのも大発見だったな!」

 これも「北極」を文字どおり「北の柱」と解釈して振り回される、古典的なタイプの笑い話です。動物園か観光地のパロディでしょうか、現場にはご丁寧にも「極は夏のあいだは外に出ません」という看板までありました。
 

「La Petite Semaine」(La Petite Semaine)★★★☆☆
 ――Élodie Semaineは7歳か8歳の可愛い女の子だ。あるとき父親は、娘が大金を支払っていることに気づいた。75歳の老人が人に言えない目的でお金を貸していた。老人は逮捕され、petite Semaineは感化院に入れられた。

 Semaineはフランス語で「週」。ところがフランス語で「一週間」は「huit jours(八日)」。Smaineの年齢が7か8というのは、それと無関係ではないでしょう。「petite semaine」には「無計画」という意味もあります。
 

「Le sire de Quiquengrogne」(モンクアルカ卿)★★★☆☆
 ――ベルが鳴った。従僕が扉を開けると、びしょぬれになった小柄な男が書類鞄を抱えて立っていた。案内されるあいだ「杖で殴っているに違いない」とぶつぶつと呟いていた。「お邪魔して申し訳ありません」「まあ一杯どうぞ」「喉は渇いておりませんので」客はびくびくしながら逃げようとした。ぼこぼこに殴られて、這々の体で逃げ出した。ふたたび扉が開き、今度は堂々とした若者が立っていた。「ワインをどうですかな」「これは美味い!」「そうでしょう。気に入った。わたしは勇敢な者が好きでね。臆病者は大嫌いだ」「このワインはどうだね?」「素晴らしい!」「ガラス工場で壜を作って、その壜にワインを詰めているんだ」「素晴らしい!」「昼のあいだはね」「夜は?」「夜は中身を空けるんだよ」

 本書のなかではちょっと長めの作品。笑いどころがよくわかりませんでした。
 

「Sur les ponts」(橋の上)★★★☆☆
 ――人類は昔から川を渡るために橋を架けてきた。材料には石や木、後の時代には鉄がある。

 ちょっと真面目ふうに橋の歴史を紹介しつつ、あくまでも真面目な語り口のまま「橋とは通常は縦に長い」。
 

「Le ventre de Tom Joë」(トム・ジョーのお腹)★★★☆☆
 ――私は病院の敷居をまたいだ。手術室ではトム・ジョーが手術台に寝かされ、三人の残忍な外科医に取り囲まれて開腹手術を受けていた。手術が終わり、医師たちはお祝いの歌を歌っていたが、不意に一人が声をあげた。「眼鏡がない!」どこにもない……ということは、お腹のなかだ! 糸を抜き、腹を開けて、眼鏡を取り出した。二人目の医師がハンカチで汗を拭……おうとした。お腹のなかだ!

 以前にネット上のテキストで読んだことあり。http://d.hatena.ne.jp/doshin/20101018
 

「Le poisson mal récompensé」(恩を仇で返された魚)★★★☆☆
 ――Simoneが両親と船に乗っていると、嵐に遭って海に投げ出されてしまった。親切な魚が家まで送ってくれたが、母親はお礼をするどころか、捕まえて食べてしまった。Simoneもたらふく食べたが、因果応報、お腹を壊して寝込んでしまいましたとさ。

 母親はおんおんと泣いていた。という文章があるから、娘を失くして泣いているのかと思ったら、砂糖抜きのコーヒーを飲まされたため、とかいうところが馬鹿馬鹿しいくらいで、あとはわりと穏やかな話でした。
 

「L'héroïque reporter」(英雄的な特派員)★★★☆☆
 ――トム・ジョーがぼくに言った。「あの列車事故を覚えているかい? 勇敢な新聞記者が線路の不具合を発見して、列車が来るまで土手で何時間も粘ったんだよ。特ダネのためさ。独立戦争でも、ワシントンから直接勲章をもらったんだ」「ワシントン? 君はどうやってその記者と知り合ったんだ?」「うるさいな。英雄は歳を取らないんだよ。とにかくワシントンは捕虜を捕まえることにした。記者は五人のイギリス人を捕まえた。一捕虜、二捕虜、三捕虜……」「三捕虜?」「三捕虜さ、それに中二階に地上階も、エレベーター付きだよ」

 む。駄洒落でした。「人質(otage)」と「建物の階(étage)」。フランス語で一、二、三階はそれぞれ日本の二、三、四階に当たります。地上階(rez-de-chaussée)が日本の一階です。一、二、三と地上階と中二階で五階(étage/otage)ということみたいです。
 

「Le bon constructeur」(よい大工)★★★☆☆
 ――Tom Bobbinsは家を建てることにした。中を傷めないようにドアを塗り込めたら、部屋に入れなくなったので、塗り込めるのはやめて錠をつけることにした。床には錠をつけられなかったので、大学に入って学ぶことにした。晴れて弁護士になってparquet(板張り床/検察)に取りつけた。

 このあと屋根をつけるために両替商に行ってcouverture(屋根/担保)を手に入れたり、馬鹿の極み(comble極み/屋根)や内気の極みを手に入れたり、とことん駄洒落のめします。最後は野次馬たちを追い払う奥の手が――落成式に招待して人肉パーティとか。
 

「Conte oriental」(東洋小咄)★★★☆☆
 ――創世以来、スルタンAli-Babaほど醜い人間はいなかった。スルタンは宮殿中の鏡を処分させた。だが清掃中の部屋の隅から、古い鏡が見つかった。スルタンがそれを見ると、醜い男が映っていた。スルタンはさめざめと泣いた。大臣も泣きじゃくった。いつまでも泣いている。「いい加減にしろ。悲しいのは余の方じゃ」「スルタンはお顔を先ほどちらっと見ただけですが、私はそれをいつも見ているのです」そこでスルタンは自分の写真を撮らせ、それをダイヤで縁取って大臣に渡した。それ以来、大臣はスルタンの顔に見とれているということです。

 よくわからない。根本的な解決になっていないような。
 

「L'aéroplane sous-marin」(海中飛行機)★★★☆☆
 ――伯母の遺産を相続したトム・ジョーが商売を興した。ゴムの巻き尺を発明したが、工場が燃えてしまった。つねづね気嚢のない気球を考えていたから、「飛行機」と呼ばれる凧ができても驚かなかった。海中飛行機ができるのも近いね。形状は飛行機ではなく飛行船のようになるだろう。海の中だから魚に似ている方が都合がよい。危険はないよ。エンジンが止まったって底に沈まず浮かぶだけだからね。そう言うとトム・ジョーは酔いつぶれてエンジンの唸りのようないびきをかいた。

 ゴムの巻き尺。何を計っても長さは一メートル(^^。燃料がウィスキー・ソーダっていうのがよくわからなかったのですが、そういうオチか!
 

「À la brasserie」(ビアホールにて)★★★☆☆
 ――ビアホールでイギリス人がビールを飲んでいた。見ていると、コースターを齧り始めた。諦めてテーブルに戻したかと思うと、今度はナイフで細切れにして飲み込みだした。イギリス人は悪食だと聞いていたが、これほどまでとは。すべて食べ尽くすと、そのイギリス人は給仕に言った。「ビールをおかわり。ただしビスケットは無しだ」

 残念ながら「le rond de feutre」というものがどんなものなのかわからないのでピンと来ませんが、話の内容から言ってビスケットに似ているのでしょう。フェルトというか、コルクのコースターだったら湿気ったビスケットに見えなくもないような気もします。
 

「Le voyage dans la lune」月世界旅行)★★★☆☆
 ――シラノ・ド・ベルジュラックは空き瓶に空気を溜めて月まで浮かんでいった。月世界人に拉致られたシラノは、地球への希望から(重力が強いので地球人の方が力持ちだから)鉄格子をひん曲げ、脱出。水浸しになって日を浴びた。やがて太陽光が水分を蒸発させ、シラノは湯気とともに空中に浮かび、無事地球に帰還したのだった。

 月は死んだ詩人の国だとプラトンが書いていたので期待していたシラノでしたが……。水蒸気とともに空中に、というのは原作通り。
 

「Le passage à niveau」(水平路)★★★☆☆
 ――川を渡るために塀を造ったら、川の水が溢れて周囲が水浸しになったので、塀に穴を開けた。どんどん穴を開けてとうとう骨組みだけにした。人が落ちないように欄干をつけることも忘れない。

 ふつう「passage à niveau」とは「踏切」のことなのですが、ここでは違う意味のようです。内容はいつものように、過ぎたるは及ばざるがごとしというか、絵に描いた餅というか。
 

「L'école des vacances」(休日の学校)★★★☆☆
 ――数学はもっとも重要な科学である。加減乗除の四つがある。たとえば客の数にワインの壜の数を掛ければよい。長さの単位はメートルだ。海を計るにはどうすればよいか。

 タイトルの通り、算数のお勉強の話。本書のなかでは「Sur les ponts」と同系統。当たり前のことをすっとぼけて語ったうえで時々しょーもないオチをつけたりつけなかったり。
 

「Histoire du serpent」(蛇の話)★★★☆☆
 ――「そんなに言うならマーク・トウェインから聞いた蛇の話を聞かせよう」とトム・ジョーが言った。「アメリカでは州ごとに法律が違うんだ。酒が合法の州もあれば、非合法の州もある。旅人がある州の宿屋で酒を頼むと断られたんだ。喉が渇いて死にそうだったが、隣の州までは馬で150マイル、徒歩で250マイルあった。亭主が見かねて助言してくれた。酒を飲むのは違法だが、薬用なら合法なんだ。たとえば蛇に咬まれたときに、医者の診断書があれば、いくらでも飲むことができる……」

 なぜマーク・トウェインが出てくるかといえば、州ごとに法律が違うアメリカという土地が必要だったからで、深い意味はない(たぶん)。蛇を飼っている薬局に行ったら、1000人くらい順番待ちだった――というオチが弱い。
 

「Le chateau hanté ou la vierge adultère」(幽霊城あるいは姦通した処女)★★★★☆
 ――嵐の夜。老人――Jehan des Entournes男爵が町に向かった。何年も前のこと――JehanはFloraという娘と結婚した。黒人のRipolinがそれに横恋慕して、自分になびかないFloraをJehanの留守中に殺害した。Jehanは復讐を誓った。南極に逃げたと聞いて南極に行くと、「工事中。ご用の方は北極へ」という立て看板があったので、北極に向かった。五十年ぶりに自分のものだった城に泊まろうと思ったが、地元の住民から、「先代が亡くなってからあそこの城には幽霊が出るからやめておけ」と言われた。「一度旅人が泊まったことがあるが、二度と姿を見せなかったんだ」「別のドアから出て行ったんじゃろう」用意してあった(!)夕食を食べ、ベッドに横になった。だが眠らなかった、復讐を誓って以来、五十年のあいだ眠れたことはなかった。物音がする。扉の前に誰かいる。「入って来るがいい!」と告げると、幽霊が現れた。幽霊が帷子をめくると、そこにはRipolinの顔があった。男爵は気絶した。……La Tourprengarde伯爵夫人は美しいご婦人だった。ガラスの仮面をつけた男が走り去った。……男爵は城に囚われていた。パンの皮で穴を掘ったが、岩盤にぶちあたってしまった。絶望して顔をあげると、ドアが開いていることに気づいた。そうして後はすでに読者もご存じの通りである。車を捨てて歩いて来た男爵は、伯爵夫人を一目見ると、ガラスの仮面の男を追った。Floraは死んではいなかったのだ。死体は黒人の使用人のものだった。男爵は剣を振りかぶった。目の前には恐怖に怯えたRipolinの顔があった。復讐はなされたのだ。

 本書のなかではかなり長めの作品です。そうはいっても短めの短篇くらいの長さですが。妻を殺された男が復讐のため何十年にもわたって仇を追いかけるストーリーを主軸に、ところどころに小ネタが散りばめられた作品です。北極の立て看板ネタが好きなんだな、この作者は。
 

「Le reflet perdu」(消えた鏡像)★★★★☆
 ――姿が見えなくなれればいいのに! Jean Loiseleurはオカルト学者から聞いた方法を試してみることにした。金がなかったので、代わりに紙幣を燃やして呪文を唱えた。鏡を見る。自分の顔が見えた。失敗だ! だが翌日、家に帰って鏡を見ると……姿が見えなかった。慌てて確認してみたが、手足は見える。鏡像だけが消えてしまったらしい。だが鏡には姿が見えないのだから、人からも見えないはずだ。そのときチャイムが鳴った。ホテルのボーイが鏡を持って立っていた。「あるご婦人が亡くなったご主人の形見にこの部屋の鏡をご希望でしたので、取り替えて参ったところです。こちらの鏡の方が立派ですよ!」

 姿が消えるのではなく、(影をなくした男のように)鏡像だけが消えるという発想が斬新ですが、すべてはオチのためでした。
 

「La famille de Tom Joë」(トム・ジョーの家族)★★★★☆
 ――トム・ジョーの母親は心配性だった。トム・ジョーが帰って来ないと不安でならなかった。八時、ひきつけを起こした。八時五分、父親が介抱した。十時、葬儀の準備を始めた。翌朝トム・ジョーが帰って来ると……。

 これは「恩を仇で返された魚」のネタと同じですね。母親のペンを持つ手がぷるぷると震えていたのは――悲しんでいたからではなく、父親に笑い話を聞かされていたから(^_^; 心配性という長い長い前フリがあるだけにこのオチが生きてます。
 

「Monsieur House」(ウズ氏)★★★☆☆
 ――ウズ氏は本をこよなく愛していた。蔵書を子どもにいたずらされたウズ氏は、本を天井から吊して子どもには届かないようにした。ある日、地震が起こった。翌日、ウズ氏の遺体が見つかった。鉄で補強された本のおかげで、きれいなものだった。

 吊すというあたりで発想を突き抜けてしまってます。神経質がバカの壁を越えた瞬間でした。
 

「Le bon prisonnier」(模範囚)★★★★☆
 ――借金で二十年服役している男がいた。刑務所の向かいに酒場ができた。外に出かけてビールを飲みたい。模範囚だったので看守もしぶしぶ認めた。だが飲み過ぎて帰りが遅くなることが増えた。ある日囚人が酔っぱらって戻ってくると、とっくに門は閉まっていた。看守は言った。「今度遅れて来たら入れてやらないぞ。どこにでも泊まっちまえ」。囚人はそれ以後遅れることはなかった。

 これは素直な落とし咄。本書のなかにはときどきこういうのがあるのでいい。
 

「Une aventure macabre」(不気味な経験)★★★☆☆
 ――トム・ジョーは船上で知り合いのジャック・ボビンズとばったり出会った。黒人奴隷のロジャー・ベイコンの葬儀のため帰国する途中だった。暑い季節で、船上の氷がなくなってしまった。だがある日ボビンズがどこからともなく氷を調達してくれた。「黒人奴隷の棺桶に詰めていた氷じゃないかと不審に思ったね」「それはショックだっただろう」「そうでもないよ。ただ一つ不気味なことがあったかな。その氷は……」「その氷は?」「ちょっと焦げた味がした」

 そっちかい! それは確かに不気味です。
 

「Le locateire」(借家人)★★★★☆
 ――レストランで出会った男には、こだわりがあった……。気に入った家が見つからない。いい部屋が一つあっても、ほかの部屋がよくない。そこで玄関は△△街の部屋、食堂は○○街の部屋……とそれぞれ別々に借りているそうだ。

 「それで台所は?」とぼくは聞いた。「都会にはいい台所はないね。汽車で一時間の田舎に借りてるんだ」と彼は答えた。「そりゃ不便だね」ぼくは素っ気なく言った。
 

「Conte cubiste」(立体派の物語)???
 ――馬が厩舎から現れた。立派な馬だった。片手で女の足をつかんだ男が走り去った。だが目の前の光景に足を止めた。

 むう。よくわからない。
 

「Un véritable sportsman」(本物のスポーツマン)★★★★☆
 ――William Duckson氏は狂人だった。自分を自転車だと思い込み、毎朝でかけるまえに頬をタイヤのようにふくらませた。やがて自転車から自動車に進化した。夫人が医者に相談したところ、医者から人体の組織を説明されたDuckson氏は、さらに精巧な機械である人間に進化した。

 これぞ名医(^_^)。無理に治そうとはせずに、相手の狂気に合わせて治療してしまいました。ロジカルでいてシュールです。
 

「Le sage conseil」(賢明な忠告)★★★☆☆
 ――先王が死んだ。新国王も賢明な為政者だった。人生は喜劇という哲学を持っていたので、道化を摂政に選んで面白おかしく過ごした。王子の教育係も道化だった。国王が死に、あとを継いだ王子は教育係を牢に入れた。やがて陰謀が企てられ、床屋が買収と恐喝によって国王の喉を切り裂く手筈になったが、いよいよというときになって床屋はすべて打ち明けた。牢から出された教育係は、燻製鰊国の大臣職を賜った。

 これは小咄ではなく、ふつうの物語ふう。
 

「La conversion de Tom Joë」(トム・ジョーの変節)★★★☆☆
 ――久しぶりにトム・ジョーと会った。医者に酒を止められていたはずだったが……。「酒を飲むと夢にネズミの大群が出てくるんだ。医者が言うには、酒をやめて水を飲めと言うんだが……」

 水を飲んだらネズミより嫌いなガマガエルが夢に出てきたので、良薬(酒)を飲むことにしましたとさ――。こりゃ禁断症状に負けて言い訳する典型的なアル中では……。
 

「Un sauvetage」(救助)★★★★☆
 ――ぼくは浜辺で救助員の仕事をしていた。「妻が溺れてる!」若い男が助けを求めた。「助けてくれたら財産の半分をやる!」。言葉の綾だろうに、勇敢にも水夫が飛び込み、女性を抱えて戻ってきた。途端に若い男が笑い出した。「間違った。妻は更衣室だ。これは姑だよ」。水夫はポケットから財布を取り出した。「いくらの貸しになる?」

 愛妻を助けたら感謝されてお金をもらえますが、姑を見殺しにせずに助けてしまったので反対にお詫びしなくちゃなあ、ということらしい。
 

「Conte Boxeur」(ボクサーの話)???
 ――カタコンベの調査中に十年ぶりにトム・ジョーに会った。ボクサーをしていたという。「カンガルーは優れたボクサーなんだ」とトム・ジョーは言った。

 オチがよくわからん。
 

「Voyage en Hollande」(オランダ旅行)★★★☆☆
 ――ぼくはオランダに旅行に行った。海が陸より高いので、船の進水式のときにはたいへんな苦労をする。

 海面やチューリップや風車などのお国ネタで遊ぶシリーズ。よくわからないネタもあった。
 

「Anglomanie」(英国かぶれ)★★★☆☆
 ――M. Lampeはスポーツマンだった。英国の方が北極に近いので、北極探検に行くなら英国が有利だと、自分が英国人でないのを悔しがった。南極のことは気がつかなかった。あるとき闘牛士のところに、ソンブレロをかぶっていった。すると……。

 これもよくわからないところがある。
 

「La leçon de tempérance」(節酒の教え)

 『笑いの錬金術』[amazon]に邦訳あり。
 

「Le carnet d'un humoriste」(ユーモリスト覚え帖)★★★☆☆
 ――編集長から、壜の形に詩を作ってくれと言われた。壜の首の詩は三センチメートル必要だ。小咄はどうかと提案してみる。これは二十センチメートルだ。
 

「Tom Joë, facteur」(郵便配達夫トム・ジョー)★★★★☆
 ――伯母が雨傘しか遺してくれなかったので、トム・ジョーは働かざるを得なかった。女であれば交換手になりたかったが、男なので郵便配達夫になった。trempé(毅然とした/濡れた)性格だったので、雨傘はあってもびしょ濡れだった。

 たばこ屋の店先に郵便ポストを見つけたトム・ジョー。手紙の束をポストに投函して大得意。これぞ落語的おバカさん。その場かぎりにおいてはすべて解決、まるく治まっているのです。その後のことや因果関係など知ったことではありません。
 

「La peuvre」(しるし)

 読み返してみたらそれほどシリアスでもなかった。
 

「Un homme convaincu」(信念を持った男)★★★☆☆
 ――アンリ四世の伝記を読んでカトリックに目覚めたが、形から入ったので滑稽にしか見えず、挫折した友人がいた。久しぶりに再会した友人は、幸せそうだった。

 あらゆる宗教を実践してみることにした友人によれば、宗教は全部で364種類あるのだそうです。一日ごとに改宗して、余った一日は――。うん、正しい。正しいが、それはダミだ。
 

「Le coucher de Tom Joë」(トム・ジョーの就寝)★★★★☆
 ――トム・ジョーは酒場を出て家に帰った。警官に聞かなくとも行き先は知っていた。何年も住んでいる家なのだ。いつも蝋燭をつけたまま頭に乗せて眠る。燃え尽きたときに目が覚めるように長さを調節している。だが今夜は気が立っていて、明かりが目につく。トム・ジョーは蝋燭を消してベッド・サイドに置いて、ぐっすり眠った。

 これはずるいな(^_^;。初めに異常なものを提示しておいてから、普通に戻してそれがオチ。
 

「Histoire des nez」(鼻の話)★★★☆☆
 ――Holdbergの娘Fridaは美しかったので、村中の男が求婚した。Holdbergは求婚者を一年間使用人として雇い、「満足じゃない」と口にした人間の鼻を削ぐという条件を出したところ……。

 民話のトンチ話のような作品です。一人の若者が食糧を平らげる、家を壊す、娘を気絶させる――と傍若無人を繰り返し、父親に「満足ですか?」とたずねて口を滑らせようと企みます。
 

「Conte moral」(倫理の話)

 以前にネット上のテキストで既読。
 

「L'oncle de Tom Joë」(トム・ジョーの叔父)★★★☆☆
 ――トム・ジョーの叔父は池の真ん中で牝牛にまたがって埋葬されたがった……。

 イギリスがノルマン人に征服されたところから家族の話を始めるトム・ジョー。でも数字には弱い奴だからな……と納得してしまう語り手(^_^)。
 

Au clair de la lune」(月明かりの下で)★★★☆☆

 月が散歩して粉ひき水車に興味を覚える。

  


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