『S-Fマガジン』2024年6月号No.763【特別対談 宇多田ヒカル×小川哲】
「特別対談 宇多田ヒカル×小川哲」
視点の切り替え、実体験なのかよく聞かれる、などの共通点が。
「Netflix独占配信シリーズ『三体』公開記念特集」
「『三体』ドラマ比較レビュー」加藤よしき
Netflix版と中国テンセント版の比較。
「テリー・ビッスン追悼」
「熊が火を発見する」再録
「ビリーとアリ」「ビリーと宇宙人」テリー・ビッスン/中村融訳(Billy and the Ants,Terry Bisson,2005/Billy and the Spacemen,2006)★★☆☆☆
――ビリーはアリたちを踏みつけました。ビリーは水鉄砲でアリたちを流しました。ビリーはアリたちをハンマーで叩きました。「敵発見! ドカン・ドカン・ドカン」。「お昼寝の時間よ」とビリーのお母さん。ビリーはお昼寝が大嫌いでした。ベッドに寝そべっていると、外で何かを引っかく音がします。見ると、窓の外にネズミくらいの大きさのアリがいます。ビリーはおもちゃの弓矢を射ました。お昼寝の時間が終わって裏庭に行くと、猫くらいの大きさのアリがいました。ビリーは熊手でアリを串刺しにしました。
ブラック童話のシリーズ。初訳。
「ハワード・ウォルドロップ追悼」
「みっともないニワトリ」ハワード・ウォルドロップ/黒丸尚訳(The Ugly Chickens,Howard Waldrop,1980)★★☆☆☆
――ぼくはバスに乗って『世界の絶滅鳥および消えゆく鳥』をパラパラと眺めていた。「長いことそのみっともないニワトリは見てないわ」と近くで声がした。そんなことありえない。これはモーリシャス島の絶滅した鳥の絵なんだから。だがぼくはそう言う代わりに、バスから降りたご婦人の後を追った。ぼくの名はポール・リンドバール。テキサス大学鳥類学部の院生だ。ぼくはそのご婦人から情報を聞き出し、ドードー鳥を追った。
再録。絶滅したドードー鳥のことをみっともないニワトリだと思って飼っている人たちの存在を知り、大発見をものするべくドードー鳥を目指す珍道中。導入はものすごく好きなのですが、その後の面白さがわかりませんでした。
「世界の妻」イン・イーシェン/鯨井久志訳(The World's Wife,Ng Yi-Sheng,2023)★★★★☆
――あの惑星がお見えになりますか? あなたのご主人ですよ、パンさん。改めてお悔やみ申し上げます。脱出ポッドから放り出されたご主人の腐敗の過程はきわめて常軌を逸したものでした。ご主人の最期の息が吐き出されると、その体を包む始源の大気が形成され、その後、急速な自己分解が始まりました。そして最終的に、遺体の中に化石、粘土、水という三つの層が形成されたのです。その結果、ご主人の頭部は地球のミニチュアのような特徴を備えるようになったのです。これは慰めになるでしょうか、われわれはご主人から知的生命体を発見しました。
頭も惑星も丸いわけで、そういう発想が生まれること自体はわからないではありませんが、それを漫画ではなくSF小説にしてしまい、あまつさえ文明まで発生させてしまう頭山的な奇想には脱帽します。そのあとも凡人作家であれば新世界の発生と終焉できれいにまとめるところでしょうが、組織の責任逃れにより予想も付かない方向にボールが放り投げられる、黒い笑いのセンスがただものではありません。どうして Ng で「イン」と読むのかと思ったら、シンガポール出身なので福建語読みで「黄」を「Huang フアン」ではなく「Ng ン/イン/エン」と読むらしい。
「SF BOOK SCOPE」
◆『噓つき姫』坂崎かおるは、新鋭の初作品集。紹介文からは幻想小説っぽい好みの雰囲気がします。
◆『眠りの館』アンナ・カヴァン。このまま行くと、全作品刊行されそうな勢いです。
「SFのある文学誌(94) 鳩山郁子――純粋少年結晶〜あるいは魂の羽ばたき〜」長山靖生
「大森望の新SF観光局(94) ネトフリ三体への長い道」
「乱視読者の小説千一夜(84) 夢の浮橋」若島正
イアン・バンクス『The Bridge』
「歌よみSF放浪記 宇宙《そら》にうたえば(1) 余白と想像力」松村由利子
新連載。SF的な短歌を選んで解説したもの。紹介されているなかでは、松木秀「煮えたぎる大地を打たぬまま消えていたはじめての地球への雨」のスケール感にくらくらします。
「バーレーン地下バザール」ナディア・アフィフィ/紅坂紫訳(The Bahrain Underground Bazaar,Nadia Afifi,2020)★★★☆☆
――末期癌を患う主人公ザーラは最期の日に備えて、他者の記憶を仮想体験できる地下バザールに通い、あらゆる種の死に方を経験してきた。ある日いつものように一人の老女の死を経験するが、その記憶は死への衝動や死後の安寧など、これまで経験したことのない事柄であふれていた。その意味を解き明かすために、老女が暮らしたヨルダン・ペトラへと壮大な旅に出る――(解説紹介文)
今後もしも自分が大病を患ったりして死が身近になったときに刺さるかもしれません。
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