『炎の眠り』ジョナサン・キャロル/浅羽莢子訳(創元推理文庫)
『Sleeping In Flame』Jonathan Carroll,1988年。
一応のところは『月の骨』から続くシリーズ2作目らしいのですが、ウェーバー・グレストンやカレン・ジェイムズと夢の国ロンデュアに言及されるくらいで、本書だけで独立した作品となっています。
前半は脚本家ウォーカー・イースタリングとレゴ建築家マリス・ヨークのロマンスが綴られていました。ミュンヘンの芸術家マリスは、恋人リュックのDVから逃れてウィーンでウォーカーと暮らし始めます。ウォーカーは前妻とダブル不倫の末に離婚した経歴を持ち、マリスは恋人の暴力に脅かされているという、恋愛に失敗した二人が、運命的な出会いによって幸せを築いていけそうな様子は応援したくなります。盲目の猫オルランドの存在も癒やしです。
ところが三分の一ほどまで来ると、一気に不穏な空気に変わります。友人の死。あらすじにも書かれている、三十年前の自分の墓。謎めいた言葉を伝える、墓地で出会った老婆。突如として視えるようになった未来予知。
墓に彫られた名前モーリッツ・ベネディクトとは何者なのか。
正直なところ、ここがクライマックスでした。
ウォーカーが魔法を使えて、ヴェナスクというシャーマンに修行をつけてもらって、幾度となく違う前世の夢を見て……という、完全にファンタジー世界のおはなしになってしまうと、前半とのギャップについて行けませんでした。
ベネディクト(とその父親カスパール)の正体に近づけそうになり、マリスにも危険が迫るに及んで、盛り返しつつありましたが失速してしまいました。
父親はグリム童話の口承者によって創られた架空の存在であり、息子を女に取られないために、息子が生まれ変わるたびに何度も恋路の邪魔をしてきた――という真相は、当時としては新しいものだったのでしょうか。くどいわりに拍子抜けでした。
『神戸在住』10巻で辰木さんが「どうしても理解できなくて」と言っていた、「ぼくらの息子……」という台詞は、ウォーカーの選択が気に入らない赤頭巾たちによって息子が物語の世界に連れ戻される危険を暗示しているのでしょうか。
タイトルは火葬された友人が「炎の中で眠る」ことに由来するようです。
ぼくは呆然としていた。目の前に、三十数年前に死んだ男の墓がある。そこに彫られた男の肖像が、ぼくだったのだ。そのとき、見知らぬ老婆が声をかけてきた。「ここにたどりつくまで、ずいぶん長いことかかったね!」 捨て児だったぼくは、自分がなにものなのか知らない。悪夢が始まった……永劫の闇を覗きこむがごとき旋律の結末。『月の骨』に続く驚愕のダーク・ファンタジィ!(カバーあらすじ)
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