『現代小説38の謎』J・サザーランド/川口喬一訳(みすず書房)★★★★☆

 著者自身の若いころを作品に反映させてしまったため、90年代が舞台なのにパソコンのない法律事務所、戦時中に書かれ当時の影が落ちているにもかかわらず、戦後だいぶ経ってから発表された『カーテン』。

 自分の若いころを書いてしまう、というのは人情としてはわからないでもない。単なるミスなのか、時代設定を犠牲にしてまでもの思い入れなのかはわからないけれど。

 クリスティの伝記などでは、自分の老後も子どもたちが困らないために『カーテン』『スリーピング・マーダー』を執筆した、と書かれてたような記憶があるのだけれど、はっきり戦時中の時代背景が描き込まれているのであれば、本書で紹介されているように、空襲によるもしものときの「遺作」的な意味合いの方が強かったのかもしれない、と思えてきます。

 なかにはしょうもない「謎」もあるんだけれど、精読の面白さを伝えてくれる作品集でした。
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『世界文学全集1-06 暗夜/戦争の悲しみ』残雪/バオ・ニン(河出書房新社)

 残雪を読んでみたくて購入しました。

 『暗夜』は短篇集。初めて読んだけど、現代アメリカ女流文学と言われても完全に信じてしまったかもしれない。なんつーか、「わたし」をもてあましてる人が、必死でもがいているんだけど、はたから見るとわけわからん、って感じでしょうか。

 これまで読んだ現代中国文学は、村上春樹を百分の一くらいに薄めて中学高校の演劇部みたいな〈シリアス〉をまぶした作品しか知らなかったので、びっくりしました。
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