『S-Fマガジン』2016年12月号No.718【特集 VR/AR】

「バーナード嬢、アニメ化記念にSFマガジンに出張して曰く。」施川ユウキ

「シミュラクラ」ケン・リュウ古沢嘉通
 

「キャラクター選択」ヒュー・ハウイー/大谷真弓訳(Select Character,Hugh Howey,2015)★★★★☆
 ――ゲームをしているところを夫のジェイミーに見つかった。わたしはゲームが嫌いだった。それは間違いない。「市場での戦闘を避けたのは弾を節約するため?」「さっきの連中が通ったとき樽を爆発させれば六百点取れるんだぞ」わたしのプレイを見てジェイミーが言った。「わたしはただ、生きてスーパーにたどりつきたいの」

 その分野に興味のない人間と熱中しているファンとのあいだの(しかも夫婦間の)、まるで噛み合っていないすれ違いの会話がリアルで、これだけでも充分に面白い。どちらも極端ではありますが、語り手の発想は新鮮です。あまりにも突き抜けすぎて馬鹿らしさ一歩手前の結末はご愛敬でした。
 

「ノーレゾ」ジェフ・ヌーン/金子浩訳(No Rez,Jeff Noon,2015)
 ――近未来、あらゆる視覚情報は、インプラントを通じ提供されていた。/高解像度にあこがれながら暮らす低解像度者。もっとピクセルが必要だ、もっとピクセルが。(特集解題&袖惹句より)

 バーチャルが当たり前となった世界と、剥がれ落ちて露わになる現実、そして所得による格差、といった構造はありがちですし、実際SFマガジンに以前掲載された作品にも広告のありなしといった話があったように記憶していますが、解像度に焦点を当てた描かれ方もまた今ふうです。
 

「あなたの代わりはいない」ニック・ウルヴェン/鳴庭真人訳(No Placeholder for You My Love,Nick Wolven,2015)
 ――ただ一晩のロマンスを求め、パーティの夜を無限に繰り返す仮想世界。ふたたび会うための条件は、「もう一度会いたい」と口に出すこと。(特集解題より)
 

「SFのある文学誌(49)『君の名は。』の時場 新海ファンタジイの文脈」長山靖生
 わたしは新海誠作品って気持ち悪くて嫌なんですが、こうしてみると評論家やオタクが分析したがる(しやすい)要素がてんこもりみたいです。

「乱視読者の小説千一夜(52)やわらかな遺伝子」若島正
 

「書評など」
ハーラン・エリスン『死の鳥』、『J・G・バラード短編全集1 時の声』は、言うまでもない大家の短篇集。ヘスス・カラスコ『太陽と痛み』はSFでもミステリでもなく早川の文芸枠の書籍のようですが、牧眞司氏の紹介する茫洋としたあらすじに惹かれます。

大森望の新SF観光局(53)七〇年代SFリターンズ」
 

「第4回ハヤカワSFコンテスト最終選考結果発表&選評」

優秀賞『ヒュレーの海』黒石迩守 冒頭掲載

優秀賞『世界の終わりの壁際で』吉田エン 冒頭掲載

特別賞『最後にして最初のアイドル』草野原々 インタビュウ
 

「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(28) 大正末期のジュヴナイル奇想小説3」横田順彌

「幻視百景(5)」酉島伝法
 

  


防犯カメラ