今月号は翻訳小説が一篇しかなく、ちょっとものたりません。
「迷宮解体新書25 詠坂雄二」
前号の書評で気になっていた『電氣人間の虞』の著者ですが、インタビューを読むかぎりでは、イタイ人っぽくて、読む気が失せる……。
「ダシール・ハメット講義」小鷹信光×諏訪部浩一
小鷹氏と大学研究者の対談です。
「焦げた顔」ダシール・ハメット/小鷹信光訳(The Scorched Face,Dashiell Hammett,1925)★★★★☆
――「娘さんたちの行方がわからなくなった理由は?」「何もない」わたしはバンブロック夫人からもらったリストに載っている人たちに会いに出かけた。「最後に会ったとき、ふたりは何かいっていましたか?」「いいえ」コーレル夫人の唇がピクリと動いた。
ただの登場人物の背景紹介だと思って読み飛ばしていたら、伏線だったので驚きました。「私立探偵小説」とはいっても、私立探偵社の一員なので、いざとなると捜査方法が組織的なところも新鮮。いろいろな「オプ」を主役にした群像劇を書いていてくれたらきっと面白かったろうになあ(本意ではないのだろうけど)。長篇『デイン家の呪い』の原型中篇。
「幻島はるかなり 翻訳ミステリ回想録(1)」紀田順一郎
新連載。今回は翻訳ミステリにいたるまでの前段階。乱歩。
「トーキョー・ミステリ・スクール(1)」石上三登志
これも新連載。『現金に体を張れ』。
「顔のない女(1)影男」高橋葉介
「夢幻紳士」ではない新連載。扉のキャプションによれば、「幻想ハードボイルド」とのこと。
「書評など」
杉江氏も大絶賛の『世界名探偵倶楽部』は、ほんとうに掛け値なしの傑作でした。本文中では「新本格」という言葉が使われていますが、特に麻耶雄嵩とか山口雅也とか一癖あるのが好きな人にはおすすめです。「フランスの幻の密室ミステリ」『騙し絵』は、まあ逆に今だからおおらかに楽しめるというか、リアルタイムで翻訳されていても評判にならなかったでしょうね。机上のトリックが炸裂してました。前号でも紹介されていた『バッド・モンキーズ』はまだ未購入ですが、「荒唐無稽」「二転三転」「奇想天外にして驚天動地」という言葉にはやはり惹かれます。
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『ミステリマガジン』2010年1月号
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