『舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵』歌野晶午(光文社文庫)★★★★☆

 ――というタイトルのわりには舞田ひとみもダンスも探偵もあまり目立ちません。三毛猫ホームズ・シリーズのホームズみたいなポジションかな(ホームズは偶然じゃなく本当の名探偵?)。

 舞田歳三《としみ》、刑事、弟。舞田理一、大学助教授、兄。舞田ひとみ、小学生、理一の娘。事件の捜査と家族の団欒が交互に描かれていますが――。

 おもしろいのは、事件を捜査するのはもちろん刑事である歳三ですが、推理するのも歳三です。理一とは事件の話もするけれど、ひとみとはゲームをやったり学校の話をしたり噂話をしたりするだけ。ほんとうにごくふつうの小学生です。

 そんなひとみとの日常会話から、歳三は偶然ヒントを見つけ出して事件を解決してゆきます。短篇集というより連作長篇に近いスタイルが取られていました。
 

「黒こげおばあさん、殺したのはだあれ?」では、高利貸しの老婆が被害者の放火殺人が発生。当然、債務者が第一容疑者でしたが、書類が放火されているため債務者を把握するのも困難を極めました……。まだ読者であるわたしが慣れていないせいもあってか、事件解決のヒントとなる会話にかなり唐突感を感じました。
 

「金、銀、ダイヤモンド、ザックザク」は、前作の続きです。高利貸しの老婆の隠し財産があるという噂が流れ、焼け跡に入り込む野次馬があとを絶ちません。そんな折り、小学生が電柱からぶらさがって死亡しているのが見つかり――。

 なぜ被害者は電柱にのぼって友人宅に忍び込もうとしたのか?というWHYが魅力的な一篇です。今回は伏線というにはあまりにも露骨なヒントでしたが、伏せ字☆そのこと自体が次の話の伏線エピソードの目くらましになっていました☆伏せ字終了。
 

「いいおじさん、わるいおじさん」では、神社の石段の真下で市議会議員が死んでいるのが見つかります。若者の教育に力を入れていた大喜多議員は、公園でスケボーをする若者をよく注意しに行っていたことから、若者とのトラブルで殺された可能性が浮上しました。

 またも前作の登場人物が登場。付随的に見えるエピソードから、ひとみの言葉によって真相に直結するのですが、そのどれもが日常的感覚に根ざしていて、変な言い方ですがたぶん実際に人を殺してしまって犯罪を隠滅したいときにはこういうところに苦労するんだろうなと思わせる事件でした。
 

「いいおじさん? わるいおじさん?」では、誘拐事件が発生します。大学生の息子から、二千万円払わないと殺される――という電話がかかってきました。警察が捜査したところ、廃棄された業務用冷蔵庫から、生きている被害者が発見されたものの、誘拐犯は現れず身代金も取られなかった。狂言誘拐かと思われたが――。

 タイトルがかぶっているのにはわけがあります。これまで同様に登場人物が連続しているだけでなく、伏線や皮肉といったレベルにおいても前作が踏まえられていました。
 

「トカゲは見ていた知っていた」は、ひとみからの緊急電話で幕を開けます。「トシちゃん、助けて!」姉の知人のパーティ会場に乱入して来た一人の女が、姉はこの会場で毒を盛られたから犯人がわかるまで誰も外には出さん!と息巻いているのだ。

 ひとみは会話ではなくトカゲのシールで解決に一役買ってます。これまで続いていた登場人物の連鎖がなくなっちゃいましたが、代わりに(?)歳三の姉が登場。
 

「そのひとみに映るもの」事故車から発見された他殺死体は、理一の勤める大学の院生の留学生だった。一方、ひとみの学校では、四年三組の外靴がすべて盗まれるという事件が発生――。

 事件、そして全篇にわたる真相も明らかに。舞台となっている浜倉で最近なぜか事件が多発している、という話が、こういう形に着地するとは。そういう「事実」にではなく、そういう台詞を口にしていた、ということに意味があったんですね。

 殺人と謎解き、だけではない謎と驚きを、一部の作品で歌野氏は惜しげもなくばらまいてくれるので、ちょっともったいない、というか贅沢です。これはそんな贅沢な作品集でした。

 舞田歳三は浜倉中央署の刑事だ。仕事帰りに兄・理一の家によって、小学五年生になる姪のひとみの相手をし、ビールを飲むのを楽しみにしている。難事件の捜査の合間を縫ってひとみをかわいがる歳三だが、彼女のふとした言動が事件解決のヒントになったりもして……。多彩な作風で知られる歌野晶午が、ちょっと生意気でかわいらしい少女と、本格ミステリらしい難事件を巧みに描く。刑事×難事件×おしゃまな11歳=歌野晶午流「ゆるミス」。軽やかに登場。

 焼け跡から金貸しの老婆の死体が発見された。体には十数ヵ所の刺し傷があり、焼け残った金庫からはお金も債務者の記録も消えていた!事件を捜査する浜倉中央署の刑事・舞田歳三。彼にはゲームとダンスが好きな11歳の姪・ひとみがいた。行き詰まった事件の謎を、彼女の何気ない言葉が解決へと導く。キャラクターの魅力と本格推理の醍醐味が詰まった傑作推理小説
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