『P分署捜査班 集結』マウリツィオ・デ・ジョバンニ/直良和美訳(創元推理文庫)★★☆☆☆

『P分署捜査班 集結』マウリツィオ・デ・ジョバンニ/直良和美訳(創元推理文庫

 『I bastardi di Pizzofalcone』Maurizio de Giovanni,2013年。

 イタリア発、21世紀の87分署というふれこみのシリーズ第一作です。はみ出しものたちの寄せ集めという設定からは『パリ警視庁迷宮捜査班』も連想します。

 署員4人が麻薬の横流しをして逮捕されたため存続の危機に立たされたピッツォヴァルコーネ署は、新しい署長のもと各署から一人ずつ欠員を補充して様子を見ることになりました。当然ながら問題児を厄介払いしたい各署から送られたのは、何らかの問題を抱えた警察官ばかりです。

 優秀ながらマフィアとの仲を噂されたロヤコーノ警部。銃の名手だが署内で発砲事件を起こしたアレッサンドラ・ディ・ナルド巡査長補。アメリカの警察ドラマに影響されたコネ採用のスピード狂マルコ・アラゴーナ一等巡査。抑えが利かず暴力沙汰を起こしたフランチェスコロマーノ巡査長。

 そこにもとからの署員、複数の自殺事件を連続殺人だと信じて独自の捜査を続けるベテランのジョルジョ・ピザネッリ副署長、四十代ながら女性としての魅力に富んだ情報収集と事務担当のオッタヴィア・カラブレーゼ副巡査部長、それに新しく就任した理解あるパルマ署長を加えた計七人がメンバーです。

 やがて浮気を重ねる公証人の妻が収集品のスノードームで殴殺される事件が起こり、ロヤコーノとアラゴーナのコンビが捜査に当たります。一方、窓から外を覗くのが趣味の老婦人から女性が監禁されているとの通報を受け、こちらはディ・ナルドとロマーノの二人が担当します。

 個性的なわりにキャラが立っていないというのが正直なところでした。結局のところ事件自体が地味なうえに筋立ても単純なので、ただそういう性格の人たちが普通に捜査をしているというだけの話でしかありませんでした。

 随所に思わせぶりなモノローグが挿入されるものの、事件自体は上記の二つで、そこから事件が新しい展開を見せることもなく、地味な捜査を続けるだけです。そこが『特捜部Q』や『パリ警視庁迷宮捜査班』ではなく『87分署』たる所以なのでしょうが、それにしてもメンバーのほとんどが初顔合わせとあっては、仲間同士の一体感があるわけでもなく、知らん人たちの仕事を読まされた感じです。

 思わせぶりなモノローグのほとんども実際ただの思わせぶりであり、一つの事件は一つの事件でしかなく、理不尽な不満とはいえ現代の複雑な作品を読み慣れた人間には物足りなさを感じてしまいます。【※ネタバレ*1

 シリーズは既に12作発表されているということで、巻を追う=互いの気心が知れ合うごとに面白くなってゆくのでしょうか。

 ロヤコーノ警部が中国人みたいな見た目でモテるというのがよくわからないのですが、イタリアでは東洋系の顔がモテるのでしょうか。キャレラへのオマージュだというのはわかるのですが。

 重大な不祥事を起こして市警の面目をつぶしたピッツォファルコーネ署へ欠員を埋めるため送り込まれたのは、独自の捜査方針を貫くロヤコーノ警部を筆頭に、有能だが各分署が持て余した刑事ばかり。彼らは新天地P分署で急造捜査班を結成し、女性資産家殺しや少女監禁など、続発する難事件に挑んでいく。21世紀の〈87分署〉とも言うべき、イタリア発の大人気警察小説シリーズ始動!(カバーあらすじ)

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*1 公証人の妻に同情し恋愛感情を持った公証人の部下が、自分と一緒に逃げるよう誘うものの、公証人を愛している妻に断られ、逆上して殺害。監禁事件は本人が言うとおり男に囲われているだけであり、怯えていたのは警察に連れ帰らせられることを恐れたため。自殺に見せかけた連続殺人犯は実際にいた、告解で自殺をほのめかす信者を殺していた神父であり、その神父は副署長の知り合いだった。

*2 

 


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