『Kvinden I Buret』Jussi Adler-Olsen,2008年。
デンマークの作品。
被害者や犯人の視点と捜査側の視点が交互に描かれたり、過去と現在が交差するタイプの作品は多々ありますが、被害者側に五年の年月が流れているというのは驚きました。
政治家のパフォーマンスと警察署の予算取り目的で、迷宮入りになった事件を捜査するための部署が新たに設けられると、捜査中に相棒を失ったカール刑事が主任に任命されます。もともと口が悪くて問題児だったカールが体よく追い払われた形です。課長から予算をぶんどりのんびり暇つぶしでもしようと考えていたカールでしたが、アシスタントに雇われたシリア人のアサドは仕事熱心で、掃除や整頓が終わると事件の記録も読みたがりました。そんななりゆきで二人は五年前の議員失踪事件を再捜査することに――。
一方、一人の女が与圧室に監禁されていた。バケツで食事と排泄の出し入れをするほかは、気圧の上げられた檻のなかに放っておかれた――。
というわけで、暗礁に乗り上げた事件を再捜査する部署の話ですから、被害者が死んでいないのであれば、再捜査までのあいだずっと被害に遭い続けていてもおかしくはないわけですが……。
結果的に動機が無茶すぎました。
が、ただの監禁ではなく派手な事件だったおかげで特捜部が注目されたわけですから、こういう無茶な動機もやむなしかと。
それまでは何となく惰性でやっていた捜査が動き出すのは、ようやく中盤に差し掛かったころの第25章(P.218)です。手がかりのないただの失踪にしか見えなかったものが、一気にミステリらしく犯罪の様相を帯びてきました。
アサドの頭の切れるところを随所に見せつつ、捜査の本質に関わるこういう部分ではベテラン警察官であるカールが道を切り開いてゆく、適材適所の名コンビぶりでした。アサドは飽くまでも捜査官ではない、という設定からすると、今後とも二人の役割分担はこんな感じになるのでしょう。