『舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵』歌野晶午(光文社文庫)★★★★☆

「白+赤=シロ」★★★☆☆
 ――凪沙は義憤に駆られていた。インドネシア地震義捐金のためと称して執拗に募金をせがむサングラス姿の怪しい女に、祖母がひっかかったのだ。夏鈴とわたしは凪沙と一緒にその女を尾行することにした。――と、「高梨さんだよね?」と横から声をかけられた。「通りすがりの舞田ひとみです」

 前作『11歳』では実質的な探偵は本職の刑事である叔父・歳三でしたが、中学生になった本篇では、タイトルに偽りなく舞田ひとみが探偵役を務めています。というか、突然名探偵になりすぎ(^^。何気ない一言と、マニアックな知識(まあこれはいかにも小中学生と言えなくもない)から、あっさりと関係者の容疑を晴らしてしまいます。

 語り手はひとみの小学校の同窓生で今は私立の森海学園に通っている高梨愛美璃。その友人で、両親とも市役所勤務なのにお嬢様のようにしゃべる織本凪沙。同じく、縦ロールの長い髪をして鈴の鳴るような声で男のようにしゃべる萩原夏鈴。この三人が新たなレギュラーに加わりました。
 

「警備員は見た!」★★★☆☆
 ――森海学園の水泳部と陸上部とバレー部から、水着とユニフォームが盗まれた。三人の警備員は、学園内に侵入した者も出て行った者もいないと証言した。ということは内部犯ということも考えなくてはならないだろう。終業式の日、具合が悪くなったわたしが、早退しようと職員室に行くと、警備員の稲田さんが頭を抱えてうめいていた。「泥棒が……」

 今回のひとみの推理力は中学生なりでした。単なる「家政婦は見た!」のパロディかと思いきや、真相を知ってみれば何とも皮肉なタイトルです。事実と思われていたことの一つが崩れることで事件の様相が違って見えるという点で、ミステリらしい作品でした。
 

「幽霊は先生」★★★☆☆
 ――三連休明け。非常勤をしている英会話のトム先生が、先週とは打って変わってげっそりとしていた。事情をたずねると「怖い目に遭いました」という。恋人と川棚トンネルをドライブしていると、道路の真ん中を少女が横切った。急ブレーキを踏んで少女を家まで送っていくことにしたが、振り向くと少女は座席から消えていた……。

 前作とは違い、歳三の発言をヒントにひとみが謎を解く作品でした。歳三が衰えたわけではなく、第二話とこの第三話は殺人事件ではないので歳三は担当外。ひとみの方が事件には詳しいということなのでしょう。現実には難しいとは思うものの、中学校のしかも外国人の非常勤の英会話教師、というのが謎のポイントでした。
 

「電卓男」★★★☆☆
 ――わたしの家では両親が子どもの携帯をチェックしてもいいことになっている。母から弟の携帯のことで相談されて見てみると、画面には「ゆくむはたのりやったね」という不可解な文字が表示されていた。

 前話では前々話の、本話では前話のその後が描かれています。携帯ならではの暗号に加えて、愛美璃の弟がいったい何をしているのか――という二段構えの謎でした。いかにも小学生らしい――では済まされない可愛げのなさ。自分が間違っていることを決して認めようとせず、お金の話をされて初めて真剣になる――のもまた小学生らしいところなのでしょうか。
 

「誘拐ポリリズム★★★☆☆
 ――「ねーちゃん。捕まってるんだ。五千万円用意して」電話は弟の修斗からだった。いたずらかと思い切ろうとしたと時、「ガキを殺されたくなかったら用意しろ」という男の声が聞こえてきた。事情を知っているらしい同じ棟の女の子はなぜか何も話してくれない。

 前話と地続きの作品で、相変わらずの弟くん&メッセージですが、解けたメッセージから明らかになったのは、不可解な事実。果たして本当に誘拐事件なのか? 本書のほかの収録作同様、そのものズバリのタイトルでした。
 

「母」★★★★☆
 ――夏鈴が通学中に見かけた女の人は、中央分離帯で踊っていた。事情を聞こうと飛び出したひーちゃんが車にはねられ入院してしまった。「お母さん、すみませんでした。わたしが誘ったから」と謝る夏鈴に、叔母さんが間違いを指摘した。ひーちゃんには母親がいないのだ。お見舞いに来た叔父さんと不釣り合いな美女。行方不明になった行方不明の女性。わたしたちは病院で事情聴取を始めた。

 服は着替えているのに靴は履いていない以上は、拉致事件とも自主的な外出とも考えづらい奇妙な失踪事件。ひーちゃんの交通事故。踊る女の人。すべての謎から一つの真相が導き出される、本書中の白眉というだけでなく作品そのものの完成度も高いミステリでした。前話で未解決だった出来事が一話ずつずれて説明されてきた本書でしたが、前話の結びで明らかにされた出来事は、この作品でも謎のままです。こうした構成ゆえに本書の語り手はひとみではなくその友人だったのでしょう。弟、父、そして母の問題は、中学生が受け止めるにはあまりに重く感じられます。愛美璃は確実に大人の世界を目の当たりにしてゆきます。

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