『童話物語 (上)大きなお話の始まり/(下)大きなお話の終わり』向山貴彦著/宮山香里絵(幻冬舎文庫)★★☆☆☆

『童話物語 (上)大きなお話の始まり/(下)大きなお話の終わり』向山貴彦著/宮山香里絵(幻冬舎文庫

 タイトルが〈童話物語〉とは大きく出たものです。童話と物語を代表するとでもいいたげな自信に満ちていますが、おそらくは『指輪物語』のもじりでもあるのでしょう。

 元となる自費出版は1997年、幻冬舎版初刊は1999年。ハリー・ポッターの第一作が1997原著刊行、1999年訳書刊行。守り人シリーズの第一作が1996年、第二作が1999年刊行。荻原規子はすでに何作か発表していたようですが、要するに本書は日本におけるファンタジー元年以前の作品なので、当時の驚きはいかほどのものだったかと思いますが、面白さこそ変わらないもののいま読むとさして特別なところはありません。

 レ・ミゼラブルな少女ペチカが妖精フィツと出会い、でも何一つ変わらずに不幸なまま苦労を重ねてゆきます。妖精は人間界に干渉できないというのはお決まりではありますが、手助けどころか無能で人間くさくて何の役にも立ちません。孤独な少女にはいるだけでも拠り所だったのでしょうけれど。そんなフィツが、実は「妖精の日」の判断のために人間を観察しにきていたということがわかり、周囲の人間を滅ぼす炎水晶をめぐって悪い妖精ヴォーと相対するのが上巻のクライマックスでした。

 ことあるごとに鬼婆の守頭に追いかけ回される場面がスラップスティックとして効果をあげていました。

 下巻はそれから一年後。ペチカを追って見つけられないまま浮島アルテミファで煙突掃除人として暮らす少年ルージャンの生活が描かれます。ルージャンは同じくペチカとはぐれたフィツと出会い、海賊の宝をめぐるいざこざに巻き込まれてしまいます。このあたりは少年冒険ものの王道という感じで、不幸な少女ものだった上巻と対になっていました。

 下巻の中盤からは失速してしまいます。上巻の悪役だった守頭と炎水晶がそれぞれ再登場。単調なのは否めません。

 ところで主人公のペチカは性格が悪いと書かれていますが、別に陰険だとか人間性に問題があるとかいうわけではなく、ただ単にちょっとずるくて感情を大きく出し必死なだけでした。

 世界は滅びるべきなのか? その恐るべき問いの答えを得るために、妖精フィツは地上へとやってきた。最初に出会ったひとりの人間を九日間監察して判断することがフィツの使命。しかし、フィツがたまたま出会ったのは極めて性格の悪い少女ペチカだった。単行本未収録の設定資料を新たに追加して、感動のロングセラー、ついに文庫化!(上巻カバーあらすじ)

 妖精フィツとの突然の別れから一年、十四歳になった少女ペチカは大都市パーパスで暮らしていた。初めて幸せを手にしたかに見えたペチカだったが、世界の最後を告げる「妖精の日」はすぐそこまでやって来ていた……。すべてが崩壊へと向かう中、始まるペチカの最後の旅。そして感動のクライマックスへ! 各誌紙で絶賛された長編冒険ファンタジー(下巻カバーあらすじ)

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