『ミステリマガジン』2020年5月号No.740【ハヤカワ・ジュニア・ミステリ創刊】

 新型コロナで007映画の公開が延期されたため当初の予定だった007特集から変更されたようです。

「列車探偵ハル:王室列車の宝石どろぼうを追え!」M・G・レナード&サム・セッジマン/武富博子訳(Adventures on Trains : THE HIGHLAND FALCON THIEF,M .G. Leonard & Sam Sedgman,2020)
 ――ハルはナットおじさんと一緒にハイランド・ファルコン号に乗り込んだ。列車にはさまざまな人間が乗車していた……。

 ハヤカワ・ジュニア・ミステリの創刊第二弾(8月刊行予定)より、冒頭の5章を抄録。ズッコケ三人組やマガーク探偵団のようにキャラが立っているわけでもないし、おじさんとの豪華列車の旅では少年探偵団のような仲間同士の楽しさや身近な親しみやすさもないし、自分が子どものころなら読まなかっただろうなあ……と思います。
 

アガサ・クリスティー・児童書版」
 創刊第一弾はクリスティー作品10作。今の子どもにもとっつきやすいように、ポワロもミス・マープルもとても若く描かれています。

「アンケート・エッセイ ジュニア期に読みたいこの一冊」
 折原一法月綸太郎山崎まどか、ほか寄稿。
 

「おやじの細腕新訳まくり(17)」
「グランドスタンド・コンプレックス」ホレス・マッコイ/田口俊樹訳
(The Grandstand Complex,Horace McCoy,1953)★★★☆☆
 ――トニーはおれの人気をやっかんでいた。去年はおれに次ぐ二位に甘んじていたが、今年も二位で終わるつもりなどあるわけもない。彼はチャンピオンになりたいのではなく、そうすることで得られる栄光を手に入れたいのだ。「賭けをしよう。おまえが勝てばおれは自殺する。おれが勝てばおまえが自殺する」「そんなのは度胸の問題じゃ――」「新聞記者に臆病野郎だと書かれたいのか?」

 栄光に憑かれた男たちの生きざま――のはずが、狂気すれすれどころかコンプレックスの度が過ぎているせいで作り物らしさが際立ち、醒めてしまいます。
 

「五つの不吉な盗みの謎」ロバート・アーサー/小林宏明訳(The Mystery of the Five Sinister Thefts,Robert Authur,1963)★★★☆☆
 ――サーカスでは連続盗難事件が起こっていた。大男ビゴの靴、小人マイト少佐の杖、カウボーイの投げ縄、サーベル呑みの剣、そして今度は蛇使いの蛇が盗まれた。このままでは縁起をかつぐサーカス芸人たちが去ってしまう。サーカスの危機を前に、新米ジェリーが事件解決に挑む。

 2008年2月号ジュヴナイル・ミステリ特集掲載作()の再録。ロバート・アーサーがヒッチコック名義で書いたジュヴナイル作品です。再読。内容をすっかり忘れてました。このバカミス風味はロバート・アーサーです。ドイル「青い紅玉」だってあるわけですから決してネタ自体がバカではないと思うのですが、絵面が間抜けすぎるからでしょうか。
 

「〈阿蘭陀茶屋・お瑠璃の事件簿〉蛇苺の女」井上雅彦
 

「迷宮解体新書(115)米澤穂信」村上貴史
 そういえば『冬季限定――』ではないということに、記事を読むまで気づきませんでした。『春季限定――』と『夏季限定――』のあいだに起こった出来事なのだそうです。小鳩・小佐内コンビのルーツが「元安楽椅子探偵と元ハードボイルド探偵の話」だというのも初めて知りました。
 

「出版社対抗プレゼンバトル「この華文ミステリがアツい!」採録」荒岸来穂
 周浩暉『死亡通知単』は「華文ミステリの最高峰」「海外サスペンスの王道のような物語」「ツイストに満ちた作品」。陸秋槎『文学少女対数学少女』は、タイトルが麻耶雄嵩なのは気になるけれど、これまでの二作がなあ……。『世界を売った男』『13・67』の著者・陳浩基『網内人』。
 

ドン・ウィンズロウが『ザ・チェーン 連鎖誘拐』著者エイドリアン・マッキンティに訊く」鈴木恵訳
 

「書評など」
『警部ヴィスティング カタリーナ・コード』ヨルン・リーエル・ホルストは、シリーズ第8作『猟犬』がポケミスから出ているシリーズの第12作。『ザ・チェーン 連鎖誘拐』エイドリアン・マッキンティは、『コールド・コールド・グラウンド』著者のノンシリーズ作品。

『涼子点景1964』森谷明子は、オリンピック一か月前の1964年9月に、万引きの疑いをかけられた少年を目撃した少女・涼子をめぐる物語。

『欺瞞の殺意』深木章子が「とにかく素晴らしい。謎解きミステリ史に名を残す一作」とベタぼめされています。島田荘司のばらのまち福山ミステリー文学新人賞出身者。

◆ほかに『幻想と怪奇1 ヴィクトリアン・ワンダーランド』、ケン・リュウ編『月の光 現代中国SFアンソロジー』、カー『四つの凶器』など。

「ミステリ・ヴォイスUK(118)リトル・ウィメン」松下祥子
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