『Murders at the House of Death』2017年。
各種ベスト10で四冠を達成したという、驚異のデビュー作です。第27回鮎川哲也賞受賞。
まずは映画研究部の合宿に届けられた脅迫状という、古式ゆかしい舞台が用意されていました。語り手・葉村の先輩である明智恭介が期待するとおり、都会から離れたペンションに学生たちが集められ、死を予感させる脅迫状まであって、何も起きないわけがありません。
ヴァン・ダインも都筑道夫も知らないミステリ研究会に愛想を尽かした明智は、みずからミステリ愛好会を立ち上げていました。ミステリを愛する――といっていいのか、推理と探偵の実践を志して周りに迷惑をかける変人です。一方、明智たちに合宿参加の取引を持ちかけた同じ大学の剣崎比留子も、すでに実績を上げている探偵でした。タイプの違う二人の探偵という趣向にわくわくします。
そんな、どう考えても古典的ミステリ、という状況が整ったところで、とんでもないことが起こります。登場人物はむしろ冷静に対処していると思います。読んでいるわたしの方がパニックになってしまいました。
すわサバイバル・ホラーなのか――と思ったところで犯人のモノローグが挿入され、特殊な状況下における殺人事件がスタートします。
フィクションの存在と作中の存在がイコールとは限らないなかで、限定された状況から、外部犯だとしても内部犯だとしても矛盾する結論しか出てきません。
やれ密室だといかにもミステリ脳な葉村に対し、ハウダニットではなくホワイダニットで真相に迫ろうとする比留子は対照的で、超常的な状況に対し現実的な発想の推理というのも好対照でした。
三つの殺人のどれも趣向を変えているのですが、どれも特殊な状況というのを活かしたものになっています。作中でミステリ読者の葉村が密室講義をするのですが、第一の殺人はその古典的な密室のバリエーションになっていて、使い古されたトリックにとんでもない奇想を注入することでこうまで鮮やかになるのかと感心しました。
第三の殺人方法の伏線や、それに第二の殺人の状況を利用するところも上手い。
解説で有栖川氏が書いているように、見取り図すら手がかりにしてしまう本格魂には脱帽しました。
被害者も動機もほぼ明らかというのも変わっていますが、殺害動機とは別に犯行手段の「ホワイ?」が最後まで不明です。比留子のスタイルからすると意外ですが、あまりに特殊な状況下ではさすがにこのホワイを推測するのは難しかったようです。
比留子が探偵する理由も、明智や葉村とはほんとうに対照的で、けれど古今東西の名探偵を皮肉ったような体質をリアルに考えればそうなるに違いなく、著者はマニア心と批評精神とユーモアをバランスよく併せ持った方なのだと思います。
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、曰くつきの映研の夏合宿に参加するため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子とペンション紫湛荘を訪れる。しかし