『私立霧舎学園ミステリ白書 四月は霧の00《ラブラブ》密室』霧舎巧(講談社ノベルス)★★★☆☆
霧舎作品を改めて読もうと思い、『四月』から読み始めました。金田一少年や名探偵コナンからミステリに興味を持った人たちへの入口になってもらいたいという意図で書かれた学園ラブコメミステリです。初版は2002年4月。西尾維新もデビュー直後。ライトノベルもまだそこまで活発になっていない時期です。それだけに今の目で読むとものすごく普通のミステリに見えます。
清白高校から霧舎学園へ転校してきた二年生の羽月琴葉は、転校初日に遅刻してしまいます。門を乗り越えて校内へ入った琴葉は、同級生の小日向棚彦とぶつかりキスをしてしまいます。鐘の鳴る霧のなかキスをした二人は結ばれるという学園の伝説の通りに。直後、新任教師の長尾の死体を見つけ琴葉は悲鳴をあげます。悲鳴を聞きつけ、自称「今日から探偵になることを定められた男」頭木保が駆けつけて来ます。保とキスをしたくて始業式を抜け出したのの子先輩や、清白高校で一緒だった八重ちゃんも遅れてやって来ます。学園伝説目当てに始業式を抜け出さないように体育館は教師の目が光り、門には警備員がいたため、内からも外からも現場には立ち入れない密室状態でした。
状況からは琴葉たち数人が犯人の可能性がありましたが、清白高校から凶器と思われるハサミが見つかったことから、当時練習試合に来る予定だった清白高校テニス部にも疑いの目が向けられます。被害者の長尾が携帯を二つ契約しており、『めー』という送信者からメールを受け取っていたことから、二人のあいだに何らかのトラブルがあったのではないかと考えられました。
身近な人間に犯人がいたり動機がどろどろしていたりするのが金田一少年っぽいと思わないでもありませんが、これは著者の意図とは別でしょう。ラブコメ要素だったり、琴葉の母親が地元警察の署長で事件の捜査に当たるというご都合主義だったりが漫画読者やアニメファンを意識したものでしょうか。二人の探偵による対決の構図もとっつきやすさに貢献していると思います。一方で今の漫画やラノベ諸作と比べるとキャラが弱いのは否めません。だからこそ一般のミステリファンでも読みやすくはあるのですが。
扉に折り込みされている入学パンフレット記載の地図に基づく【ネタバレ*1】犯人特定のロジックは、初日から遅刻する主人公という漫画的なイベントをうまく活かしていると思いました。
結局は犯人側による誤誘導でしたが、【ネタバレ*2】のトリックは、清白高校が【ネタバレ*3】であるという伏せられた事実と相まって、面白いアイデアでした。
誤誘導の理由が【ネタバレ*4】というのもお見事でした。【ネタバレ*5】自体に手垢が付いているため、【ネタバレ*6】だと読者に感づかれた時点で面白さが半減してしまうわけですから、密室状況を作り出して密室の謎に視線を逸らすのは上手いやり方だと感心しました。【ネタバレ*7】厳密な【ネタバレ*8】ではなく変奏だというのも気づかせにくさの工夫でしょうか。
パンフレットには前述の機能のほか、【ネタバレ*9】という高校生男子特有の(?)事情から、【ネタバレ*10】に気づくきっかけになるという機能もあり、細かい仕掛けの遊び心がありました。
四月。入学式。私立霧舎学園への美少女転校生、羽月琴葉(17)が立ち込める霧の校庭で遭遇した「霧密室」殺人事件。学園にまつわる謎めいた伝説が二人の名探偵候補(?)を琴葉のもとへとひきよせるとき、秘密は満天下に明かされる!
学園ラブコメディーと本格ミステリーの二重奏、「霧舎が書かずに誰が書く!」、“霧舎学園シリーズ”堂々の開幕。(カバーあらすじ)
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*1 初めて訪問する人間は古い地図を見て最寄り駅を間違えて裏門にたどり着いてしまうため、正しく正門から入って来た人物が犯行時にも来たことがある犯人である、という
*2 チアリーダーたちのバスケットトスよる密室侵入と死体移動
*3 女子校
*4 動機とアリバイを誤魔化す交換殺人の変奏
*5 交換殺人
*6 交換殺人
*7 殺しているのは一人だけなので
*8 交換殺人
*9 普段名字で呼んでいる女子の下の名前までは知らない
*10 記載のモデル名から『めー』の正体