『私立霧舎学園ミステリ白書 六月はイニシャルトークDE連続誘拐』霧舎巧(講談社ノベルス)
霧舎学園シリーズ三作目。
前作での予告(?)通り、密室・アリバイに続いて誘拐ものです。
図書委員の三年生中込椎名が琴葉に会いに来た。図書館にいつの間にか『私立霧舎学園ミステリ白書 四月・密室』『五月・アリバイ崩し』という二冊の新書本が紛れ込んでいて、H月やT彦のことも書かれていたため、書かれてある事件の内容が本当のことなのかどうか確かめるためだった。さらに図書館コピー機にはどこかの見取り図と、何かの時刻の書かれた紙、『六月・誘拐』というメモの跡が残されていた。学校司書の三田島恵は事態を重く見て、琴葉に母親である警察署長への連絡を頼んだ。
そうして琴葉が公衆電話から母親に事情を説明して図書館に戻ると、棚彦、中込椎名、恵さんの姿が消えていた。棚彦を探して教室に向かった琴葉の前にも鬼面の人物が現れ、薬を噴霧して気絶させてしまう。気づくと四人は座敷牢のようなところに閉じ込められていた。そこに月島幻斎と名乗る老人が現れ、風呂や食事は用意するし廊下に出てもよいが、そこから先に進めばとらごろしという毒が撒かれていると四人を脅すのだった。
そのころ羽月倫子警視ら保護者のもとには身代金を要求する電話がかかってきていた。保護者の一人と、あろうことか担任の脇野に身代金の受け渡しをするよう指示を出した。ことなかれ主義の脇野なら操りやすいと踏んだのだろう。
一方、保とのの子は台風で孤島に取り残されていた。五月の事件の元となった事件の被害者がピンクに塗られた理由を確かめに来たのだ。
もともと保という〈あかずの扉〉シリーズと繫がりのある人物がレギュラーを務めていましたが、本書では第二作『カレイドスコープ島』の舞台となった竹取島と月島、月島幻斎らが登場しています。ファンサービスであると同時にミスリードでもあるという、どちらにしてもミステリファンには嬉しい内容でした。
毒薬による心理的な密室が単なる脅しではなく必然的な意味を持っていた【※閉じ込められていたのは屋敷の一部ではなく、屋敷を模したその部分だけだった】というのは、パターンといえばパターンですが、大がかりなだけに騙されてしまいました。
誘拐もので【『そして誰もいなくなった』犯人】の仕掛けを利用したのも面白い取り組みでした。襲われた出来事が作品内で老人が女たらしだという意味しか持っていないのが気になっていたのですが、気づけませんでした。
【アリバイ作りのための狂言誘拐】という犯人の目論見がまんまと成功したと言えるのですが、【殺人被害者が脇役】なため印象が薄く、おまけみたいな扱いでした。
身代金の受け取り方は誘拐ものの一つの見どころですが、脇野というしょーもない教師の特性を利用するのには笑わせてもらいました。
本自体に施された仕掛けは本書でも健在です。犯人の手になる『四月』『五月』『六月』が作中作の書籍として登場しているため、まさにそれを利用した仕掛けになっていました。これは電子化はできませんね。タイトルになっているイニシャルとは、作中作で固有名詞が仮名になっていたことや犯人のメモがイニシャルで書かれていたことに由来しますが、保とのの子の会話に出てくる駄洒落が最後の最後に活きてくるとは思いませんでした。これを二パターン用意してくるセンスに脱帽です。
琴葉の父親が初登場します。これまではまったく存在感がありませんでしたが、なるほど単身赴任でした。今までが存在感がなかったので平凡な人なのかと思っていたのですが、考えて見ると昔の棚彦ポジションなんですよね、熱血に探偵していました。
今回は保とのの子は別行動で、前作のピンクに塗られた死体の謎を明らかにしていました。むしろ保を別行動させるためにピンクの死体の真相を解かせに向かわせたのでしょうが、前作から引っ張るほどの真相ではありませんでした。そして今回は保が完敗してしまったようです。
六月。私立霧舎学園への美少女転校生、羽月琴葉とその同級生にして名探偵(?)小日向棚彦が学園の図書館に集うとき、またもや不可解な事件に巻き込まれる! 図書館の棚に忽然と現れた謎の本――『私立霧舎学園ミステリ白書』の正体とは?
学園ラブコメディーと本格ミステリーの二重奏、「霧舎が書かずに誰が書く!」、“霧舎学園シリーズ”。六月のテーマは連続誘拐!(カバーあらすじ)
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