『パリのアパルトマン』ギヨーム・ミュッソ/吉田恒雄訳(集英社文庫)★★★☆☆

『パリのアパルトマン』ギヨーム・ミュッソ/吉田恒雄訳(集英社文庫

 『Un appartement à Paris』Guillaume Musso,2017年。

 フランスで一番売れている作家だそうで、確かに面白さは一級品です。

 劇作家の男性と元刑事の女性が手違いから同じ家を借りてしまうという出来すぎた偶然には辟易しました。けれどその家が死んだ画家のものであり、その画家ショーン・ローレンツが壮絶な最期を遂げていたことに興味を覚えた二人が、遺されているはずの遺作を探し始めるとそんなことも忘れてしまいます。

 嫉妬と復讐から我が子を誘拐され、母親の目の前で殺されてしまうという壮絶な過去が明らかになるにつれ、絶望に陥って絵筆を絶った画家がふたたび筆を取ろうと思った理由は何かという、単なる遺作探しに留まらない謎にこそ興味を惹かれました。

 ところが遺作探しはあっけなく終わってしまいます。

 そこで明らかになる、ショーンが訴えたかったこと――。

 探偵なんてそんなものですが、前半はマデリンが、後半はガスパールが、どうしてそんなに他人の人生に熱心なのかと思うほど首を突っ込みたがります。

 二人の人生に影を落とす過去というマンネリな設定が、ショーンの身に起こった事件と重ねられるというのはあるにせよ。

 後半になってからはご都合主義の偶然のオンパレードで、緻密な構成よりも飽きさせないスピード感を優先させた作風は、なるほどベストセラーも納得のストーリーテリングでした。

 作中でマデリンが『ダ・ヴィンチ・コード』じゃないんだからみたいな台詞をつぶやきますが、まあ『ダ・ヴィンチ・コード』です。

 そんなエンタメ感と裏腹に、事件そのものはかなり重くエグイものであり、そんな復讐法を選んだ犯人の残虐性には目を背けたくなります。【※ネタバレ*1

 もう少し偶然を廃してくれて、いかにも最近のサスペンス映画みたいなノリもやめてくれたら、歴史に残る名作にはなっていたかもしれないけれど、ここまで一気読みさせるほどの疾走感のある面白さも消えてしまうだろうし、難しいところですね。

 クリスマス間近のパリ。急死した天才画家の家で偶然出会った一組の男女、元刑事のマデリンと人気劇作家のガスパールは、画家が死の直前に描いたとされる未発見の遺作三点を一緒に探しはじめる。その捜索はやがて、画家を襲った悲劇の謎を探る旅へと変わり――。絵に隠された秘密に導かれて突き進む二人を待ち受けていた、予想外の真相とは!? フランスNo.1作家が放つ話題の傑作ミステリー。(カバーあらすじ)

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*1 母親自身に我が子の指を切り落とさせる。誘拐児を母親に世話させて愛着を湧かせてから殺す。

*2 

*3 


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