『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー/乾信一郎訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『Endless Night』Agatha Christie,1967年。
ノン・シリーズものです。
ジプシーの呪いの伝説が残る土地に魅せられた主人公の青年が、富豪令嬢と恋に落ちてその土地に家を建てて幸せに暮らすものの、妻が依存しているコンパニオンとは険悪になり、土地の住人やジプシーの老婆からは脅迫を受けることに……というゴシック・ロマン。
クリスティのロマンスというと、底抜けに明るいトミーとタペンスや『ゴルフ場殺人事件』しか知らなかったので、ごく普通の男女の話に、クリスティらしくないなあと思いながら読んでいました。
クリスティー文庫の新訳で読めば良かったと後悔しています。
逐語調の訳がやたら軽くて、せっかくの雰囲気が台無しでした。不穏さなんて感じるべくもありません。
クリスティ自身の旧作と同じトリックが明かされてからの怒濤の迫力もいまいち伝わって来ません。いきなり饒舌になられても、置いてけぼりを喰らってぽかんとしてしまいました。本来であればあそこは狂気が一気に爆発するという場面なのでしょうけれど。
犯人像からはカトリーヌ・アルレー『わらの女』などを連想しました。旧来の謎解きミステリではエピローグ的な位置づけにならざるを得ない犯人の告白を、クライマックスにするという野心作です。少なくとも他のクリスティー作品のイメージがあればあるほど衝撃は強いです。ノン・シリーズだからこそでしょう。
ところで、ずっと「おわりなき『よ』にうまれつく」だと思っていたのですが、『よる』だったことに初めて気づきました。
昔からの伝説によって、呪われの地と恐れられている〈ジプシーが丘〉――しかし、海を望むその素晴らしい眺望は人々の心を魅了せずにはおかなかった。マイクはここで一人の女性と出会い、二人は激しい恋におちた。が、周囲の反対を押し切り結婚した彼の前には妻の死という大きな破局が待ち受けていた……果たしてこの土地に伝わる呪いのせいなのか? 呪われの地を舞台に繰り広げられる愛憎と犯罪を斬新な手法で描き出す(カバーあらすじ)
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