『錬金術師の密室』紺野天龍(ハヤカワ文庫JA)
ラノベでもいいんですけどね。密度のない薄っぺらいタイプのラノベです。
まだ何も始まってもない段階からいきなり「アワン前哨基地へ、アスタルト王立軍情報局長のヘンリィ・ヴァーヴィル中将は冬の嵐のように突然やって来た」とか書かれても失笑してしまいます。こんな文章の羅列が平板に続くので読めたものではありません。
キャラが立っているならまだ読めるのですが、「きみが……エミリアちゃん……? だって……きみは……男だろう……?」「男ですね。その、家庭の事情で女性名を付けられただけで(以下略)」のような、何十年前のラノベだよ、というような掛け合いばかりでうんざりします。
魂の錬成に成功した錬金術師が、ホムンクルスとともに密室内で殺害されるという事件が起き、主人公の錬金術師と変成術師のコンビが自らの容疑を晴らすために真犯人を捜します。犯人はなぜ身許が特定されるような変成術を使ったのか、ダストシュートと反射炉のダクトしかない部屋からどのように逃げ出したのか――というのが謎で、真相自体は錬金術が存在する世界に古典的な入れ換えトリックをアレンジしたもので、意外としっかりしたものでした【※ネタバレ*1】。
魂の錬成に成功したという見せかけの真相と、成功していなかったという真相の二段構えがあったりと、つまらない前半と比べて後半の詰め込み具合がアンバランスです。
主人公の二人が、これからシリーズものになりそうな過去を持っていますが、錬金術が存在する世界という設定を活かしたミステリをこれから二つも三つも書く……のでしょうか。
アスタルト王国軍務省錬金術対策室室長にして自らも錬金術師のテレサ・パラケルススと青年軍人エミリアは、水上蒸気都市トリスメギストスへ赴いた。大企業メルクリウス擁する錬金術師フェルディナント三世が不老不死を実現し、その神秘公開式が開かれるというのだ。だが式前夜、三世の死体が三重密室で発見され……世界最高の錬金術師はなぜ、いかにして死んだのか? 鮮やかな論理が冴え渡るファンタジー×ミステリ長篇。(カバーあらすじ)
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